現在の医療では、患者の苦痛をできる限り排除、軽減することが必要と考えられています。もちろん、原則は間違ってはいませんが、それにより疾患が長引いたり、悪化したり、死亡したりしてしまっては本末転倒である場合もあります。
外来、入院を含めて、現在解熱剤が当たり前のように使われ過ぎていると思います。ちょっとでも発熱すると、看護師は医師に報告し、医師は解熱剤を処方します。風邪(もちろんインフルエンザを含みます)、最近は新型コロナウイルス感染でも恐らく多くの医師は解熱剤を処方しているでしょう。
感染における急性期の発熱は、炎症反応や免疫反応によって起こることであり、人体に備わった非常に重要なメカニズムの一つです。発熱には次のような利点があると考えられています。
・好中球および単球の運動性と遊走飲作用
・食作用および飲作用の増強
・インターフェロン(IFN)産生の増加
・抗ウイルス、抗腫瘍、抗増殖、およびIFNの活性を刺激するNK細胞の増加
・IFNによる抗アナフィラキシー(アレルギー)作用の増強
・ヘルパーT細胞の活性化、発現、動員、および細胞毒性活性の増加
・抗体産生の増加
・細胞内細菌の殺傷力の増加
・抗菌剤の殺菌効果の増加
・宿主細胞における細胞保護性の熱ショックタンパク質(HSP)の誘導
・宿主の防御機能を活性化する病原体HSPの誘導
などなどです。つまり、発熱は様々な免疫反応の有益な効果を生み出しているのです。逆に言えば、そのような有益な効果を解熱剤は低下させる可能性があります。慢性の炎症、免疫反応は有害と思われますが、急性期の炎症、免疫反応は自分を守るための重要なメカニズムです。
Janeway’s Immunobiologyという免疫の教科書には、「高熱では、細菌とウイルスの複製の効率が悪くなりますが、適応免疫応答はより効率的に機能します」と書かれているようです。
ハリソン内科学という教科書には「発熱とその治療は害を及ぼさず、一般的なウイルスおよび細菌感染の解決を遅らせることはありません」と書かれており、意見が分かれています。
実際にインフルエンザ感染による動物モデルでは、解熱剤(アスピリン、アセトアミノフェン、ジクロフェナク)の使用は死亡する可能性を34%増加させます。(ここ参照)
集中治療室において、積極的にアセトアミノフェンを使用して解熱をはかった人の方が死亡率が高い可能性がある、という研究もあります。(ここ参照)
A型インフルエンザにわざと感染させた実験では、アスピリンまたはアセトアミノフェンを投与された人の方が、解熱剤を使用しない人よりも3日以上症状のある期間が延長しました。(ここ参照)
アセトアミノフェンが水痘(水ぼうそう)の子供たちの症状を緩和せず、病気の期間を長引かせるという研究もあります。(ここ参照)
解熱剤の使用でインフルエンザの死亡が5%増加しているのではないかと計算している研究もあります。(ここ参照)
人間にとって非常に重要な内因性の抗酸化物質であるグルタチオンは、アセトアミノフェンの使用により枯渇する可能性もあります。もちろん、欧米よりも日本のアセトアミノフェンの使用量は少ないのですが、体が小さい分使用量が少なくても影響はあるかもしれません。さらに、痛み止めとして慢性的に使用している人もいるでしょう。
15人の若い健康なボランティア(平均年齢21.3歳)に、最大治療用量のアセトアミノフェン(1gを1日4回)を14日間服用させたところ、平均総抗酸化能は、0日目と14日目の両方で投与後3時間で有意に減少しました。そして時間の経過とともに抗酸化活性が低下する傾向を示し、14日目には有意に抗酸化活性が低下していました。恐らくグルタチオンの減少により、健康なボランティアの抗酸化能がわずか14日で枯渇したのではないかと考えられるのです。これが高齢者であればなおさら枯渇するのが早い可能性があります。アセトアミノフェンなら安全と思われ過ぎている感があります。
新型コロナウイルス感染でもアセトアミノフェンだけでなく解熱剤が頻用された可能性があります。それによりウイルス排出量は増加し、排出する期間も増加し、症状のある期間も増加し、死亡率も増加した可能性もあるでしょう。
私は最近はほとんど風邪をひいた記憶がありません。以前に風邪をひいて発熱したときには、漢方薬で逆に熱を一時的に上げて、布団の中で体を温め、発汗を促し、治していました。これが最も早く治ります。
熱を下げれば、一部の症状は楽になる可能性があります。しかし全体としての利益は非常に少ないばかりか有害である可能性すらあります。
糖質過剰摂取で免疫力を低下させ、薬でさらに免疫力を低下させ、病原体と戦う力がどんどん低下してしまうかもしれません。
自分の体の中の免疫を信じて、戦ってもらうことが一番重要だと思います。免疫力を下げる解熱剤の使用は最小限にすべきでしょう。
「Population-level effects of suppressing fever」
「発熱抑制の人口レベルの効果」(原文はここ)
手軽に症状を押さえこむ服薬には、口当たりの良い糖質過剰食品と同様な
(経済最優先の)力学が働いているように見えます。
ただ現在のコロナの影響による経済停滞状況を経験すると、
対症療法的な薬も糖質過剰摂取も、長い目でみれば必ずしも
経済的ではないと思うのですが。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
当面の症状が軽減すれば、多くの人は良くなっていると感じてしまいます。
ほとんどの薬が対症療法であることを理解していない人も多いでしょうね。