熱性けいれんと高血糖

先日のある記事で、新型コロナウイルスのオミクロン株では熱性けいれんを発症する割合が高いことが書かれていました。(この記事参照)

そもそも感染しても発症しない子も大勢いるので、この割合がどのような意味があるのかは不明です。インフルエンザでも、他の風邪でも高熱で熱性けいれんを起こすことは珍しくないでしょう。ちなみに熱性けいれんは「主に生後6~60か月までの乳幼児期に起こる、通常は38℃以上の発熱に伴う発作性疾患」とされています。

さて、熱性けいれんは高熱が出れば必ず起こるわけではありません。私は熱性けいれんも糖質過剰摂取や高血糖と関連しているのではないかと思っています。それはけいれんがケトン体で抑制されることの裏返しでもあります。今回の記事はかなり推測が入っている仮説(または妄想?)です。

ストレス高血糖は熱性けいれんの小児で多く認められます。(ここ参照)以前の記事「ストレス高血糖」で書いたように、ストレス高血糖を示すのはすでに何らかのインスリン抵抗性が存在している可能性があると思います。普段は顕著な代謝異常ではなくても、感染による炎症がインスリン抵抗性を増加させ、またブドウ糖産生が増加することが高血糖を招きます。高血糖は炎症や酸化ストレス反応を悪化させ、高血糖がさらなる高血糖につながるという悪循環を引き起こす可能性があります。強い炎症によりブドウ糖を取り込むGLUT-4は低下して、インスリンを介したブドウ糖の取込みは低下します。逆にGLUT-1は増加します。GLUT-1はインスリンとは無関係にブドウ糖を取り込みます。それは脳に多く存在しますので、脳の細胞は高血糖に晒される可能性があります。

または、脳でもGLUT-4が多い細胞もあるでしょう。その脳細胞はブドウ糖が取り込み辛く、エネルギー不足になります。高血糖によりインスリンが増加しているのでケトン体が産生できず、脳のエネルギー欠乏を来たす可能性が高くなります。脳損傷のある患者で、血糖値をインスリンで厳密にコントロールすると、転帰不良となってしまうのは、ブドウ糖が減少しまうだけでなく、ケトン体も減少してしまうからなのでしょう。(ここ参照)ケトン体は脳損傷に保護的だと考えられます。

今回の研究では、ストレス高血糖と熱性けいれんの関係を分析しました。128人の子供における166の熱性けいれんイベントの中で、ストレス性高血糖(血糖>140mg/dl)の有病率は16.9%でした。病院に受診して調べられた時点でも高血糖なのですから、実際にけいれんを起こした時の高血糖の割合はもっと高い可能性が高いでしょう。

受診時でもストレス高血糖を示した子供は、より乳酸値が高く(30.50mg/dl対19.50mg/dl)なっていました。さらに分析すると、長い時間の熱性けいれん(>15分)、再発性の熱性けいれん(発作が2回以上)、体温≥39.5°C、より高い乳酸値がストレス高血糖と有意に関連していることが示されました。

ストレス性高血糖の患者は、15分以上のけいれんや24時間以内に再発するような熱性けいれん(複雑な熱性けいれん)は32.1%で、ストレス高血糖を示さない子供の9.4%より有意に多く、および15分を超える長時間の熱性けいれんだけでも14.3%で非ストレス高血糖の子供の1.4%よりも有意に多くなりました。複雑な熱性けいれんの子供は、単純な熱性けいれん(15分未満のけいれんや再発なし)と比較して、ストレス性高血糖を示す可能性が4.6倍高く、再発の可能性も非ストレス性高血糖群と比較して、ストレス性高血糖群では約2倍でした。

乳酸値の高さは解糖系が亢進していることを意味するでしょう。血糖値が高いから熱性けいれん症状が強いのか、熱性けいれんが強いから血糖値が高いのか、どちらかはわかりません。乳酸値の増加もけいれんによって起きている可能性もあります。

てんかん患者の一部に1型糖尿病で高率に認められる抗GAD抗体が認められるのも興味深いです。(ここ参照)

さらにイタリアの研究で、偶発的に発見された高血糖を示す子供の10%に膵島細胞抗体(ICA)、インスリン自己抗体レベルの上昇が4.6%、抗GAD抗体が4.9%に認められたのも興味深いです。(ここ参照)

熱性けいれんの子供では抗炎症性のインターロイキン-10(IL-10)の脳脊髄液での低下が認められています。(ここ参照)高中性脂肪血症の肥満児の脂肪組織と血中でIL-10が減少したという報告もあります。(ここ参照)

感染などで強い炎症を起こし、それによりストレス高血糖を招く子供は、日常でももしかしたら高血糖に晒されている可能性があります。つまり糖質過剰摂取により、すでに何らかの代謝異常が起きているのです。そのような子供が感染し、高血糖となり、脳細胞は高血糖で酸化ストレスが増加するのか、逆に低血糖を招き、ケトン体も得られずエネルギー不足になるのか、日ごろの糖質過剰摂取で産生された自己抗体が炎症で一気に悪さをするのか、それらが複合しているのかわかりません。

しかし、全てが偶然のかもしれません。

もし私の仮説が正しいとしたら、風邪にポカリ(スポーツドリンク)は禁忌ということになります。いつの間にか子供が風邪をひいて熱があるときにポカリを飲ませることは良いことであるようになってしまいました。脱水予防に医師も推奨している人もいるでしょう。高熱でポカリなど糖質たっぷりのものを飲んだり食べたりして、急激に血糖値が上昇したことが熱性けいれんの引き金になったりしてはいないでしょうか?

先日、どこかのお母さんが、子供がスーパーなどでお菓子を買ってくれなどと大声で泣きわめいてグズっているのは、低血糖が起きているからであり、おにぎりなどを食べさせてあげることが大事、という主旨のことを言っていたのを見ました。しかし、重要なのは低血糖を起こさない食事です。糖質過剰摂取で高血糖を招くので、その後に低血糖になってしまうのです。低血糖が起きているということは正しいかもしれませんが、普段からの食事で子供に血糖値スパイクを起こしていないか十分に注意が必要でしょう。

 

「Stress Hyperglycemia as Predictive Factor of Recurrence in Children with Febrile Seizures」

「熱性けいれんの子供における再発の予測因子としてのストレス高血糖」(原文はここ

3 thoughts on “熱性けいれんと高血糖

  1. 「先日、どこかのお母さんが、子供がスーパーなどでお菓子を買ってくれなどと大声で泣きわめいてグズっているのは、低血糖が起きているからであり、おにぎりなどを食べさせてあげることが大事、という主旨のことを言っていたのを見ました。」
    おにぎりで低血糖ではなくなるでしょうが、糖質視点からはお菓子食べても同様。
    お菓子=悪、おにぎり=健康、程度の認識なんですね。

  2. 大型商業施設で買い物をしている親子連れのお子さんがグズったり大声を出したりしているのを「あ~、低血糖になってる(ならされてる?)んだろうな~」と考えながら見ています…
    やたらテンションの高くてチョロチョロしてるお子さんは「あら~血糖値あがりまくってるのかしら~」と思いながら見ています…

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