筋トレのやり過ぎは死亡率を高める?

運動は健康にとって有益だと思います。運動と言っても大きく分けて2つあります。一つは持久力を増強するような有酸素運動ともう一つは筋肉を増強するような筋トレです。男性では筋肉モリモリのマッチョになぜか憧れる人が多いかもしれませんが、最近は女性でも筋トレをして筋肉をつけている人も増えているでしょう。

さて、有酸素運動ではなく、筋トレというのは本当に健康に有益なんでしょうか?

今回の研究はその筋トレに疑問を投げかけるものです。筋トレはやり過ぎると良くないのかもしれません。健康と筋トレとの関連の研究のシステマチックレビューおよびメタアナリシスを実施しました。16件の研究が基準を満たしました。

筋トレは、全原因死亡、心血管疾患、全てのがん、糖尿病、および肺がんのリスクが10〜17%低くなることに関連していました。(図は原文より)

上の図は筋トレの時間とそれぞれのリスクについて表しています。

筋トレを週に約30〜60分で最大のリスク減少(約10〜20%)が得られ、その関連は全原因死亡率、心血管疾患、全てのがんで見られました。糖尿病では、60分以上の筋トレで大きなリスクの低下が観察されました。

糖尿病以外、全原因死亡率、心血管疾患、全てのがんでは週に130~140分でリスク低下効果は無くなり、リスク増加に転じてしまいました。

ちなみに筋トレと有酸素運動の組み合わせ(なしではなく)は、すべての原因のリスクの低下と関連していました。

週に130~140分というのは、1回の筋トレ時間というのがどれくらいかはよく知りませんが、1回1時間とすれば週2回程度の筋トレですでに健康に有益な効果が無くなるということになります。あまりにも少ないトレーニング時間なのでちょっと疑問ではあります。

またこの手の研究は運動以外の因子、特に食事を完全にコントロールすることが難しいので、結果も精度が低いかもしれません。

しかし、筋トレが体に及ぼす影響を考えると、もしかしたらそれほど間違っていないかもしれません。筋トレをするのは地球上の生物の中で現代の人間だけですから、人類および生物の代謝の初期設定には筋トレは入っていません。

持久系の運動と筋肉をつける筋トレは、体内での代謝が真逆とまでは言いませんが、大きく異なるものです。筋トレなどはmTORを活性化させ、筋肉の肥大が起こりますが、持久系の運動はAMPKが活性化し、mTORは抑制され、ミトコンドリアの増殖が起こります。(図はこの論文より)

以前の記事「高タンパク質摂取による有害性は? その3 アスリート」で書いたように、筋トレは持久系の運動よりも大きくmTORを増加させます。細胞の成長にはこのmTORは重要ですが、成長は子供にとってはもちろん必要です。しかし大人になってからの成長は老化やがん化につながっていきます。がんの増殖にもmTORは重要です。

さらに、私は筋トレとほとんどペアになっているプロテイン摂取も問題となっている可能性が高いと思っています。プロテイン自体もmTORを活性化させますし、糖質が入ったプロテインであればなおさらです。

アスリートもボディビルダーも健康のために筋トレをしているわけではありません。筋肉を増強するために何らかのトレードオフがあっても不思議ではありません。

健康のためであれば基本的に有酸素運動の方が良いでしょう。

 

「Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies」

「筋力強化運動は、主要な非感染性疾患のリスクと死亡率の低下に関連している:コホート研究のシステマティックレビューとメタアナリシス」(原文はここ

4 thoughts on “筋トレのやり過ぎは死亡率を高める?

  1. 筋トレの時間ですが、これは筋肥大や筋力アップを目的として、筋肉に強い負荷をかけている間だけの時間でしょうか? それともインターバルも含めたトレーニング時間のことでしょうか? 前者なら普通1セット数十秒ですから、おそらく前者なんでしょうね。

    筋肥大を目的とした筋トレでは、1セット10〜12回が限界の重さで2〜3セットやるのが普通なので、仮に1セットにたっぷり1分間かけたとしても、週に130セットなんてまず誰もやらないと思います。

    有酸素運動も、フルマラソンを走るような人の日頃の練習は、長距離走が苦手な私からしてみたら、筋肉の遅筋繊維に対する長時間の筋トレですが、それは問題ないのでしょうか?(しかも人間の筋肉の約70%を占める下半身が中心です)

    私は高さ13cm〜20cmの台を使って、毎日のように踏み台昇降しながら映画を丸々1本見たり、連続ドラマを何話も見たりしますが、心拍数はウォーキング以上ジョギング未満です(あえてウォーキング以下のペースでやることもあります)。でもSNSで「踏み台昇降」を検索すると、「10分で汗だく」とか「20分が限界」とか、「翌日ふくらはぎが筋肉痛」とか、人によって様々です(私は低い台でチンタラやれば誰でも2時間できると思いますけど)。

    1. 大阪高橋さん、コメントありがとうございます。

      食事アンケートの研究と同様、自己申告の研究がほとんどですから、データの質は低いと思います。

  2. 清水先生、おはようございます。

    私は、20代の頃はウェイトトレーニングをしていましたが、50代の今は運動といえばもっぱらジョギングです。

    過剰な筋トレやプロテインは、mTORを増加させるので健康にはマイナスですね。mTORの増加は、長期的な健康にはマイナスですが、例えば手術の後のように傷を治して体力をつけなければならないような特殊な場合には必要なことなのでしょうか?

    基本的には、ジョギングを続けようと思います。軽度な筋トレも取り入れながら。

    1. じょんさん、コメントありがとうございます。

      若い人の過剰な筋トレとプロテイン摂取は本当に心配しています。私の妄想であれば良いのですが。

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