多くの患者は医師に対して様々なことを期待するでしょう。そして、自分の疾患が医師の出した処方で改善することを大いに期待するでしょう。改善というのにはかなりの幅があり、医師の中の改善と、患者が感じる改善では大きな乖離がある場合が多いと思います。それでも、最終的には完治することを期待するでしょう。つまり薬を飲まなくても正常でいられる状態に戻ることを期待していると思います。多くの場合それは幻想です。
治療に必要な数を表すNNTという言葉があります。NNT=1であれば、その薬を飲めば全員が顕著な効果を認める素晴らしい薬です。ほとんどの人はすべての薬のNNTが1であると考えているかもしれません。効くかどうか五分五分という場合、NNT=2です。それでも医学的にはすごい薬です。
(図はここより)
上の図はそれぞれの薬を服用して、1人の人の痛みが50%以下なるために何人の人に服用してもらわないとならないか?を示しています。帯状疱疹後神経痛に対しては、良くて五分五分(NNT=2)です。リリカ(プレガバリン)やトラマドールは帯状疱疹後神経痛にバンバン処方されていますが、NNT=4以上です。つまり4~5人に1人程度しか効果がないのです。もちろん、少しだけ効果があるのを含めればもう少しNNTは小さくなる可能性があります。でも50%痛みが低下しても多くの患者さんは「痛い」のです。
NNTとともにNNHというものがあります。副作用で1人服用ができなくなるのに、何人が服用するかを示しています。NNH=10であれば10人服用して1人副作用で服用できないことになります。
先ほどの薬は15~16人に1人は副作用で服用ができなくなります。
抗うつ薬のSSRIやSNRIの寛解率のNNTは10前後です。それでも頻繁に使用されます。
患者にとって薬が「効く」ことは当たり前かもしれません。処方された薬を飲めば必ず効くのが望ましいでしょう。しかし、現実的にはそのようなことはそれほど多くないのかもしれません。多くの場合、たとえ飲んでいる間は症状が改善しても、対症療法なので、ずっと飲み続ける必要があるかもしれません。
症状がある場合、その改善は自覚ができるので評価しやすいかもしれません。しかし、予防のために服用している場合、本人は「効く」と信じて服用するほかありません。これを飲みさえすれば、将来の大きなリスクが防止できると思って服用しているでしょう。
例えば心血管疾患の予防に使われるスタチンのNNTはものすごい数値です。(ここ参照)心血管疾患のリスクが低い人のスタチン服用では、
統計的に有意な死亡率の利益はありません。217人に1人が致命的でない心筋梗塞を回避します。313人に1人が致命的でない脳卒中を回避します。つまり致命的でない心筋梗塞のNNT=217、致命的でない脳卒中のNNT=313です。死亡するかどうかはNNT=∞(?)です。逆に21人に1人が筋肉の問題による痛みを経験し、204人に1人が糖尿病を発症します。
コレステロールが高くても、既知の心臓疾患がない人では、5年間スタチンを使用し続けても、命が助かった人はいないし、心筋梗塞などの心臓発作のNNT=104、脳卒中のNNT=154でしかありません。筋肉の問題のNNH=10、糖尿病のNNH=50です。
以前に心臓病を起こした人でさえ、スタチン5年間の服用で、命が助かったNNT=83人、致命的でない心臓発作のNNT=39、脳卒中のNNT=125で、筋肉の問題のNNH=10、糖尿病のNNH=50です。
つまり、リスクの高い人でさえ、スタチンを5年間飲んでも命が助かるのは83人に1人でしかありません。リスクの低い人、コレステロールが高いだけの人では命が助かる保証は全くありません。
以前の記事「薬ってそんなに必要ですか?理解して飲んでいますか?」で書いたように、スタチンの心血管疾患で死亡することに対する一次予防(まだ症状がない人の予防)、二次予防(すでに心血管疾患を発症している人の予防)のそれぞれの寿命延長効果は、中央値はそれぞれ3.2日および4.1日です。一次予防だけを見ると30年飲めば、18~24日寿命が延びる程度にすぎません。
それでも医師の中にはLDLコレステロール値が高い人に対して、「スタチンを飲まないと死ぬよ!」というような脅しをかける人もいます。まるで、「〇〇しないと不幸になる」「〇〇しないと地獄に落ちる」というカ〇ト〇団と同じに見えます。正しくは「スタチンを飲んでも死亡するリスクを下げられないけど、スタチンを飲まないと約100~150人(リスクの低い人では200~300人)に1人という、まれに効果が認められる人にはなれないよ!」です。宝くじは買わないと当たりません。宝くじよりは当たる確率は非常に高いかもしれませんが、効果は100人に1人と聞けば服用しない人は大勢いるでしょう。しかし、そんなことも知らされず、ただ「死ぬよ!」と脅かされ続けます。しかも50人に1人は糖尿病を発症してしまいます。
本来はこのようなデータを示し、それでもあなたはスタチンを服用しますか?と患者に判断をさせるべきです。NNT=1、NNH=0が本当は望ましいですが、それは無理です。NNTが二桁を超える場合、患者が選択すべきです。それでも副作用があることを納得して、自分が10人に1人、数百人に1人に入ると期待するのであれば、服用すれば良いのです。
しかし、多くの場合、効果の低さは隠され、副作用の重さ、頻度も隠されてしまいます。効果は出ないのに、副作用に苦しむ人は大勢いるでしょう。
現在の医学の問題は、医学教育の場、つまり医学部の講義から始まっています。利益相反のある専門家がエビデンスやガイドラインを作り、そのような専門家たちが中心となって医学部の学生を教育します。つまり、製薬会社が医師の教育に大きな影響を与えているのです。医学部に入る人たちは、自分で考える勉強ではなく、記憶力、覚えるだけの勉強が非常に得意であり、しかも覚えることは非常に膨大で、考えている暇もないでしょう。知識は豊富ですが、自分で考えることをしない医師が大量に生まれ、医学教育という十分な洗脳を受けたまま、その後もエビデンスやガイドラインに疑問を持つことは少ないでしょう。これでは食事が医学において非常に軽視されるのも当たり前です。
医師の言うことを鵜呑みにする前に、自分でしっかりと情報を得ましょう。しかし、現在の民主主義国家においても社会主義国家と同様に、情報がコントロールされています。一部の企業、業界、国にとって不都合な情報はなかなか得られにくくなっています。ネットの検索やSNSも規制されてしまっています。だんだんと正しい判断材料が少なくなり、正しく判断することが難しくなっています。ご注意を。
コロナ関連でカロナール品薄、とネットニュース。
手軽に、その場の症状緩和ニーズ高いのですね(飲んだ「安心感」も大きいのでは?)。
拝啓
清水先生の著書に出会い 糖質制限を取り入れました。2年後に膝関節も大分よくなりました。
なにより体調がよく老後を病気と無縁ですごせそうです。
田沢秀行さん、コメントありがとうございます。
糖質制限で症状改善良かったですね。
体調が良いか悪いかは非常に重要ですよね。薬好きの医師は患者の体調よりも検査数値を重要視している人もいますから。
今回のブログで薬の有効性と副作用の関係が改めて認識できたような気がします。
有難うございます。