糖質の吸収は通常小腸で行われると考えられています。しかし、糖質を口に入れた瞬間にもしかしたら吸収は始まっているかもしれません。
薬では舌下投与を行う場合もあります。
発展途上国の子供たちの低血糖症に対して、すぐに静脈内にブドウ糖を注入できるわけではありません。その発展途上国の子供たちに対して、砂糖の舌下投与を行うと血糖値はどうなるでしょうか?普通に砂糖の経口摂取、糖の静脈内投与と比較してどうなのでしょうか?
今回の研究では、一晩絶食し、血糖値0.5〜0.8g/L(日本の単位では50~80mg/dL)の重篤な低血糖症状のない1~15歳の子供69人です。
次のように4つの投与方法のうちの1つにランダムに割り当てられ、1つは3つの異なる用量の砂糖を使用しました。
経口投与群(OG):2.5gの砂糖
舌下投与群(SG):舌下に2.5 gの砂糖。子供の体重に応じて3つのサブグループ0.1g/kg、0.15g/kg、0.2g/kg
静脈内投与群(IG):1回の30%デキストロース8mL注射での投与
水群:水のみ
その結果、バイオアベイラビリティ(体に投与された薬物のうち、どれだけの割合が全身に循環するのかを示す指標。 生物学的利用能。当然薬物が静脈内に直接投与されるとバイオアベイラビリティは100%です。)は、経口投与で38%、舌下投与で84%、静脈内投与で100% でした。舌下投与は静脈内投与に匹敵していたのです。
最大の血糖値上昇は、経口投与で24mg/dL、舌下投与で46mg/dL、静脈内投与で58mg/dLでした。ただし、7歳を超える子供は、正常血糖を維持するために舌下投与を繰り返す必要がありました。(表は原文より改変)
≤0.1g/kg | 0.15g/kg | 0.2g/kg | |
---|---|---|---|
最大血糖値の上昇 | 0.34±0.14 | 0.5±0.20 | 0.53±0.26 |
上の表は体重当たりの投与量での違いを示しています。子供なので10~20kgかもしれませんが、体重当たりで換算すると0.1gでは34mg/dL、0.15gでは50mg/dL、0.2gでは53mg/dLでした。0.15g/kg以上ではそれほど違いはないのかもしれません。
これが大人にも当てはまるとすると、0.15g/kgというのは60kgの体重でたった9gです。通常糖質を1g経口摂取すると血糖値は0.5~1mg/dL程度上昇すると言われています。しかし、糖尿病では1g経口摂取すると血糖値は3mg/dL程度上昇する場合もあります。
舌下投与では9gで50mg/dL上昇ということは、1g当たりおよそ5.5mg/dL上昇してしまうことになります。
吸収スピードも静脈注射と変わらないようです。(図はここ参照)
上の図は、▲が舌下投与(体重15kg未満は2.5g、それ以上は3.5gの砂糖)、■は静脈内投与(5ml/kgの10%ブドウ糖、?舌下よりもブドウ糖の量多くない?)です。舌下投与5分後には血糖値は上昇しており、10分後にはピークです。
もちろん、これらの舌下投与の研究は砂糖での話であり、米などのでんぷんの話ではありません。しかし、唾液のアミラーゼの作用によりでんぷんは砂糖(ショ糖)と同じ二糖類(マルトース)にまで分解されます。砂糖が吸収されるのであれば、でんぷんが二糖類にまで分解されたものであれば口腔内で吸収されても不思議ではありません。
口腔内にはグルコース(ブドウ糖)を取り入れる輸送体(GLUT)が存在しています。SGLT1、GLUT1、GLUT2、GLUT3が口腔粘膜の上皮細胞に発現していることが示唆されるという研究があります。(ここ参照)ブドウ糖が舌から急速に吸収されていることを示す研究もあります。(ここ参照)ということは、口の中ですでに二糖類ではなく、単糖類、つまりグルコースまで分解されて吸収されているのかもしれません。
そうすると、炭水化物を何度も咀嚼し、ゆっくりと食べるとすると、すでに口の中から糖質の吸収が始まっているかもしれません。甘い飲み物も口に含んですぐに飲み込まないとすぐに吸収される始めるのかもしれません。(もちろん飲み物を口の中にずっと溜め込んで、飲み込まない人はいないと思いますが)
人類は狩猟採集時代では、糖質はめったに手に入らないものだったでしょう。ラッキーにも糖質を含んだものを食べることができるのであれば、それをすぐにでも吸収して体に入れるようなメカニズムができたのかもしれません。でんぷん質も素早く吸収するために口からアミラーゼが出るようになったのかもしれません。
グルコースだけでなく、恐らく多くのものが口腔内で吸収が始まるでしょう。吸収率を上げたければ、まずは舌下投与をして、その後飲み込んだ方が良いのかもしれません。
「Sublingual sugar administration as an alternative to intravenous dextrose administration to correct hypoglycemia among children in the tropics」
「熱帯地方の子供たちの低血糖を矯正するためのブドウ糖の静脈内投与の代替としての舌下糖投与」(原文はここ)
「Evidence Behind the WHO Guidelines: Hospital Care for Children: What is the Efficacy of Sublingual, Oral and Intravenous Glucose in the Treatment of Hypoglycaemia? 」
「WHOガイドラインの背後にある証拠:子供のための病院ケア:低血糖症の治療における舌下、経口および静脈内ブドウ糖の有効性は?」(原文はここ)
ご飯を「甘み感じるまで良く噛んで」と、そういえば指導されたことがあるような、、、
ご飯は無条件に身体に良い食品、の認識でしたし、
さらによく噛むことで甘みを感じることすら「健康的」と信じていました。