コメントをいただきました。

テーマとは関係ない質問で申し訳ございません。
https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/20942846
とありますが、結局、HbA1Cは鉄欠乏性貧血があると、高値になるのでしょうか?

上のアドレスのページは要旨だけなので、原文にあたってみましょう。8296人(糖尿病と診断されていない7478人と糖尿病と診断された818人)の分析です。(図は原文より、表は原文より)

上の図は横軸がヘモグロビン値ですが日本の単位にするには10分の1にしてください。縦軸はHbA1cです。これを見ると、貧血があるとHbA1cは低値を示すように見えます。ヘモグロビンが多いほどHbA1cは少しだけ高値をとるように見えます。でも臨床的にはあまり意味のない違いですね。

相関係数P
ヘモグロビン(g/L)0.040.018
ヘマトクリット値(%)0.050.001
フェリチン(pmol/L)0.17<0.001
トランスフェリン飽和度(%)–0.08<0.001
平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)(g/dL)–0.050.012
平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)(pg)–0.11<0.001
平均赤血球容積(MCV)(fL)–0.11<0.001

上の表は糖尿病と診断されていない20歳以上の7478人のHbA1cとの相関を示しています。どれも相関は少なく、最も相関があったのはフェリチンでした。フェリチンが増加するとHbA1cも増加していました。逆にMCHやMCVが増加するとHbA1cは低下していました。

詳細は画像に続くキャプションにあります

上の図は左側が糖尿病と診断されていない人、右側が糖尿病の診断を受けた人です。それぞれ左から、低Hb低鉄、低Hb正常鉄、正常Hb低鉄、正常Hb正常鉄のグループです。糖尿病ではない人では統計的には差がありますが、臨床的にはほとんど差がありません。一方糖尿病群では低Hb正常鉄群だけがHbA1cが低値となっています。鉄の状態(鉄欠乏)はHbA1cに影響を与えないように思えます。

この結果と似たようなトルコの研究もあります。下の図を見てみましょう。(ここ参照)

上側の図で、貧血の程度が増加するほどHbA1cは低値を示しています。下側の図は鉄欠乏性貧血の治療前と治療後です。治療後、つまり鉄が少し増加し、貧血も改善したときの方がHbA1cは少し高くなっています。

さて、一般的には鉄欠乏性貧血があるとHbA1cは実際よりも高く出る、つまり偽高値を示すと考えられています。これまでのいくつもの疫学研究は、鉄欠乏性貧血は高HbA1cと関連しているとしています。しかし、この関係のメカニズムはまだ解明されていません。鉄欠乏により、赤血球の代謝回転が遅くなり、赤血球の寿命が長くなるために糖化されやすくなり、HbA1cが高くなると説明されているのが多いと思いますが、本当かどうかはわかりません。

下の図はサウジアラビアの研究で、Hb、MCHC、フェリチンとHbA1cの関係を示しています。(ここ参照)それぞれが低下するほど、つまり貧血が強まるほどHbA1cは増加するように見えます。

実際には偽高値ではなく鉄欠乏により糖代謝が低下して、本当に高値を示していることも考えられます。下の図は鉄欠乏性貧血の治療前と治療後とコントロールの比較です。(ここ参照)3か月の鉄の補充で鉄欠乏性貧血が改善すると、HbA1cは7.4から6.2に改善しました。でも、これはHbA1cが鉄欠乏で偽高値を示していたのか、それとも実際に耐糖能が低下していたのかはわかりません。

また、ほとんどの研究は集団での平均をとっているために、個人の状態の変化により、つまり鉄欠乏の状態と鉄が十分にある状態で比較しないと実際にはわかりません。

つまり、様々な研究で、結果は様々です。恐らくは赤血球の寿命が様々な要因で変化することが大きいのではないでしょうか?

その疑問を解消するには、HbA1cではなく、GA(グリコアルブミン)を測定することでしょう。

1型糖尿病の子供の研究を見てみましょう。(ここ参照)

左側が鉄欠乏性貧血、右が貧血の無いグループで、それぞれ左側がコントロール良好群、右側がコントロール不良群です。貧血の無いグループでは、HbA1cもGAもコントロール不良群で高く、コントロール良好群では低いですが、鉄欠乏性貧血があるグループでは、GAは差があるのに、HbA1cはコントロール良好群でも高値を示していました。

じゃあ、貧血があるなら必ずHbA1cとGAが乖離するかといえばそうではないようです。

下の図のように、鉄欠乏性貧血があってもHbA1cとGAの両方が高いこともあります。(ここ参照)

この研究は胃切除を行った人のものです。胃切除を行うと急峻で非常に大きな食後血糖値スパイクを起こしやすいので、それによりGAが増加したと思われます。

つまり、一般的には鉄の変動、ヘモグロビンの変動している時期のHbA1cの測定は誤差を生み出しやすい可能性があります。それらの変動が少ない時期であれば、同じ検査機関で検査すれば、その推移は信頼のおける値であると思われます。

単純に貧血=HbA1c偽高値、とは言えないでしょう。

赤血球の寿命は「120日」程度と言われていますが、これも怪しい数値です。

ある研究によれば、赤血球の寿命の中央値は74日で、範囲は56~120日でした。(ここ参照)特に腎機能の低下や子供ではもっと短かったようです。恐らく赤血球の寿命は鉄だけでなく様々な栄養素(ビタミンB12など)、年齢、人種、酸化ストレス、炎症など様々な因子の影響を受けるでしょう。

GAは鉄や赤血球の寿命に影響は受けないので、貧血やその他の体の状態などが気になるでのあれば、GAを測定する方が良いかもしれません。

 

「Iron-deficiency anemia, non-iron-deficiency anemia and HbA1c among adults in the US」

「アメリカの成人における鉄欠乏性貧血、非鉄欠乏性貧血、およびHbA1c」(原文はここ

One thought on “HbA1cと鉄欠乏性貧血”
  1. 清水先生
    お忙しい中、テーマとして取り上げて下さりありがとうございます。

    一つ、質問があります。
    https://promea2014.com/blog/?p=17275
    で、HbA1Cの誤差が±20%と書かれていると思います。
    それでは、GAについても±20%の誤差があると考えたほうが良いのでしょうか?

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