「好きなときに好きなものを食べる」
狩猟採集時代ではもちろん、こんな幸せはめったになかったでしょう。飢餓との戦いの日が続くこともあったかもしれません。そして好きなものといってもその時代はお菓子やスイーツやジュースなどは存在しません。肉をお腹いっぱい食べるのが幸せだったかもしれません。しかし、近代や現代になって、人間はもともと食べていなかったものを加工し、もともと地球上に存在しない食べ物をどんどん作りだして、しかも人間の脳に「美味しい!」と感じさせ、ドパミンをドバドバ分泌させ、もっともっと欲しくなる食べ物を手軽に手に入れることができるようにしてしまいました。好きなものを好きな時に食べて、これによって何も体に起きなければ、誰も困りません。
しかし、人間の初期設定にない食事を、しかも進化の過程では考えられないほど頻繁に食事をすることは、人間に不具合を起こしても不思議ではありません。
今回の研究では、「好きなときに好きなものを食べる」か?という単純な質問に対して、「はい」と「いいえ」のグループを女性だけで比較しています。食事摂取量、内容は食事アンケートなのでデータの質がよくありません。(表は原文より改変)
「好きなときに好きなものを食べます。」 | ||
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いいえ | はい | |
人数 | 42642 | 12898 |
年齢、歳 | 59.9(7.1) | 59.5(7.2) |
BMI、kg / m 2 | 26.1(4.7) | 27.0(6.0) |
身体活動、MET-時間 / 週 | 20.7(24.4) | 16.4(22.2) |
現在の喫煙、% | 10.8 | 22.4 |
アルコール摂取量、g / d | 5.2(9.0) | 5.2(10.0) |
マルチビタミンの使用、% | 48.3 | 41.0 |
エネルギー摂取量、kcal / d | 1720(497) | 1830(550) |
食事 | ||
赤肉、サービング/日/ 1000 kcal | 0.58(0.29) | 0.64(0.30) |
加工肉、サービング/日/ 1000 kcal | 0.07(0.08) | 0.08(0.09) |
鶏肉、サービング/日/ 1000 kcal | 0.21(0.12) | 0.18(0.11) |
魚、サービング/ d / 1000 kcal | 0.16(0.11) | 0.13(0.09) |
低脂肪乳製品、サービング/日/ 1000 kcal | 0.64(0.47) | 0.48(0.42) |
高脂肪乳製品、サービング/日/ 1000 kcal | 0.69(0.53) | 0.88(0.66) |
野菜、サービング/日/ 1000 kcal | 1.8(0.7) | 1.5(0.7) |
フルーツ、サービング/日/ 1000 kcal | 1.4(0.7) | 1.2(0.7) |
通常のソーダ、サービング/ d / 1000 kcal | 0.12(0.26) | 0.18(0.32) |
ダイエットソーダ、サービング/日/ 1000 kcal | 0.40(0.64) | 0.34(0.67) |
炭水化物、%エネルギー | 53.6(8.5) | 50.4(8.1) |
飽和脂肪、%エネルギー | 9.3(2.6) | 11.1(2.7) |
多価不飽和脂肪、%エネルギー | 5.0(1.4) | 5.5(1.5) |
トランス脂肪、%エネルギー | 1.3(0.5) | 1.5(0.6) |
タンパク質、%エネルギー | 18.6(3.3) | 17.5(3.1) |
ファイバー、g / d | 19.5(5.9) | 16.6(5.1) |
葉酸、mcg / d | 467(234) | 396(208) |
ビタミンD、IU / d | 407(267) | 338(237) |
マグネシウム、mg / d | 335(80) | 299(70) |
カルシウム、mg / d | 1110(545) | 939(490) |
上の表はそれぞれのグループの特徴です。このような研究ではどうしても特徴が異なる集団の比較になってしまい、他の因子の影響を排除することは非常に難しくなります。まあ、今回はそれを置いておきましょう。
「はい」と答えた女性は、BMIが高く、身体活動が少なく、喫煙しやすく、内視鏡検査を受けたり、マルチビタミンを定期的に使用したりする可能性が低くなりました。さらに、「好きなものを好きなときに食べたい」と報告した人は、脂肪、赤肉、加工肉、通常のソーダ、総カロリーを多く摂取しましたが、食物繊維、果物、野菜は少なくなりました。いつでも何かを食べる行動の上位5つの食品は、フライドポテト、チョコレート、バター、白パン、通常のソーダでした。つまり、ほとんどが糖質です。
「好きなときに好きなものを食べます。」 | ||
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いいえ | はい | |
人数 | 396 | 156 |
人年 | 490472 | 145937 |
年齢調整済み、RR(95%CI) | 1.0 | 1.39(1.15–1.67) |
多変量、RR(95%CI) | 1.0 | 1.29(1.06–1.56) |
多変量+BMI、RR(95%CI) | 1.0 | 1.29(1.06–1.56) |
多変量+BMI+赤身および加工肉、RR(95%CI) | 1.0 | 1.28(1.06–1.56) |
多変量+BMI+赤身および加工肉+その他の食事変数、RR(95%CI) | 1.0 | 1.27(1.04–1.55) |
上の表は結腸直腸がんのリスクです。好きなときに好きなものを食べる行動は結腸直腸がんのリスクを1.39倍増加させました。そして、赤肉、加工肉、果物と野菜、葉酸、カルシウム、ビタミンD、食物繊維などの潜在的な食事の交絡変数をさらに制御した後も、有意なリスク増加が認められました。
「好きなときに好きなものを食べます。」 | ||
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いいえ | はい | |
インスリン、μU/ mL | 11.1(10.5–11.7) | 12.4(11.1–13.6) |
C-ペプチド、ng/mL | 1.5(1.4–1.5) | 1.6(1.5–1.7) |
HbAlc、% | 5.5(5.4–5.6) | 5.3(5.2–5.5) |
IGF-1、ng / mL | 161(155–167) | 164(155–174) |
IGFBP-1、ng/mL | 19.3(17.6–21.0) | 17.7(15.2–20.7) |
IGFBP-3、ng / mL | 4348(4230–4466) | 4436(4265–4607) |
総コレステロール、mg / dL | 229(224–234) | 231(224–239) |
HDL、mg / dL | 58.8(56.5–61.1) | 57.4(54.6–60.2) |
LDL、mg / dL | 138(132–144) | 145(137–154) |
中性脂肪、mg/dL | 109(98.2–120) | 102(90.7–116) |
CRP、mg/dL | 0.21(0.19–0.24) | 0.19(0.15–0.23) |
インターロイキン-6、pg/mL | 1.9(1.8–2.0) | 2.0(1.8–2.2) |
上の表は様々な測定値です。BMIや身体活動などの潜在的な交絡因子を調整後であっても、空腹時インスリンとC-ペプチドは「はい」と答えた方が、わずかですが有意に高くなっていました。
ほとんどの人は糖質過剰摂取であり、好きなものと言えばほとんどが糖質を含んだものでしょう。そのようなものを頻繁に好きなだけ食べていれば、常にインスリンが分泌されてしまいます。糖質をエネルギー源にし続けてしまいます。そうすると、酸化ストレスは増加しますし、がん細胞は成長します。
糖質過剰摂取で1日3食+間食や夜食、なんてことをやっていて、健康になれるとは到底思えません。がんも糖質過剰症候群ですから。
「Reported behavior of eating anything at anytime and risk of colorectal cancer in women」
「いつでも何か食べる行動と女性の結腸直腸がんのリスク」(原文はここ)
生存の為の手段だったはずのドパミン放出が、目的にすり替わってしまい、効率良く快感を得る方法を追求
した一つの結果が糖質過剰症候群なのでしょうね。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
ドパミン、恐るべしです。