糖質制限をすると血糖値が安定し、インスリンの分泌も減少し、インスリン抵抗性も改善します。しかし、一部の人は糖質制限をすると耐糖能が悪化するという人もいます。それは、糖質制限を続け、急に糖質を摂取したときに血糖値が予想以上に上昇することを耐糖能の悪化と言っているのではないでしょうか?
糖質制限をし過ぎてすい臓のインスリン分泌能力の低下が起きていると考えているのかもしれません。
しかし、たった1回の前日の夜の食事の糖質量を減らしただけでも、数値だけを見れば耐糖能が悪化しているように見えます。
今回の研究では、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の前日の夕食で糖質制限をした食事を摂ったときと、糖質過剰摂取したときの違いを調べています。対象は平均年齢は21歳の健康な男性8名、女性4名です。OGTT の前⽇、参加者は通常の炭⽔化物含有量 (炭⽔化物60%、タンパク質15%、脂質25%) の朝⾷と昼⾷を⾷べました。夕食で、半分の人は炭⽔化物80%、タンパク質15%、脂質5%を含む⾷事を⾷べ、残りの半分は炭⽔化物10%、タンパク質25%、脂肪65% を含む⾷事を⾷べました。1週間後には反対の食事をして同様に検査を受けます。糖質制限の夕食でも1日のトータルの炭水化物摂取量は体重当たり3g/kgなので、OGTT前の炭⽔化物摂取量 > 150 g/⽇ の基準は満たしています。OGTTの結果はどうなったでしょう。(図は原文より)
参加者全員が、炭⽔化物の摂取量に関係なく正常な空腹時血糖値でした。糖質制限の夕食を食べた群では、糖質過剰摂取群より有意に60分値、120分値の血糖値が上昇していました。しかし、インスリンは空腹時も30分値もどちらの群も違いはありませんでした。
糖質過剰摂取群ではOGTTで耐糖能障害(120分値で140mg/dL(7.8mmol/L)未満)を⽰した人はいませんでした。対照的に、糖質制限食群では3 ⼈の男性と 1 ⼈の⼥性が耐糖能障害(120分値で140mg/dL(7.8mmol/L)以上)を⽰しました。空腹時と30分後のインスリン値、血糖値で計算されるインスリン分泌指数は有意に糖質制限食群で低下していました。一方、空腹時遊離脂肪酸は有意に糖質制限群で増加していました。
これは、ランドルという人が提唱した、グルコース脂肪酸サイクルというもので、筋肉などの末梢組織はブドウ糖か脂肪酸のどちらかをエネルギーとして選択するため、脂肪酸が増加している状態ではブドウ糖の取込みが減少するというものです。
絶食時間が長くなればなるほど、遊離脂肪酸は増加します。また、糖質制限食でも当然遊離脂肪酸は増加します。そして、絶食後糖質を含んだ食事を1回摂れば、遊離脂肪酸は激減し、次の食事の耐糖能は改善します。これがセカンドミール効果です。
糖質制限は上のような現象の連続です。見た目に耐糖能の低下として見えるかもしれませんが、遊離脂肪酸の増加による末梢の組織の生理的なインスリン抵抗性です。インスリンの分泌はされています。計算上はインスリン分泌能が低下しているように見えるかもしれませんが、筋肉のブドウ糖の取込みの低下があるので、血糖値が高くなるだけの話です。当然、糖質摂取を続ければ、遊離脂肪酸は低下したままなので、ブドウ糖の取込みが多くなります。しかし、糖質制限ではずっと血糖値は低めで、遊離脂肪酸が増加しています。
もし糖質制限をしている方で、OGTTを行うことになってしまった場合、1日150gの炭水化物摂取量ということだけでなく、検査の前の日の夕食の糖質摂取量でもOGTTの結果が異なることを知っていなければなりません。もっと言えば、1日150gでは足りないのかもしれません。そして、絶食時間をできる限り短くして、夕食にはたっぷりと糖質を摂取すれば、非常に良い結果が出るかもしれません。そんなことまでしてOGTTを受ける必要があるのでしょうかね?
耐糖能は糖質摂取が前提の考え方です。人類は進化の過程で糖質をほとんど摂っていなかったので、大量のブドウ糖に耐える必要がありませんでした。ブドウ糖と脂肪酸(ケトン体)とのエネルギー源の変換の代謝の柔軟性が必要になったのは人間が糖質を摂るようになってからでしょう。糖質制限をしていれば多少の代謝の柔軟性は低下する可能性がありますが、それが耐糖能の悪化を示すとは言えません。
糖質制限でもインスリン分泌はずっと続いています。タンパク質摂取でもインスリンが追加分泌されます。糖質を摂っていないからと言って実際のインスリン分泌能が低下しているとは思えません。計算上のインスリン分泌能に騙されてはいけません。
「Low carbohydrate intake before oral glucose-tolerance tests」
「経口耐糖能試験前の低炭水化物摂取」(原文はここ)
糖質とアルコールけっこう似ているのではないでしょうか。酒の飲み過ぎで健康を害した人が長期間断酒をすれば、健康状態は当然良くなりますが、酒には当然弱くなりますよね。それを「耐アルコール能が悪化するから断酒は健康に良くない」なんて誰も言いません。
糖尿病や糖尿病予備軍の人は、糖質の摂りすぎで不健康な身体になったのだから、糖質を極力控えるのが最も健康に良いに決まってると私は思いますが、世の中には「糖質制限すると耐糖能が悪化するから本末転倒」などと糖質制限を否定する人達がいて、それを真に受けて、「それ見たことか」と言ってる人達もいます。
20年近く前に養老孟司氏の『バカの壁』という本がベストセラーになりましたが、その時のキャッチコピーが「話せばわかるなんて大ウソ」だったように記憶しています。世の中のさまざまな対立を見ていると、いつも思い出す言葉です。
大阪高橋さん、コメントありがとうございます。
糖質過剰摂取が当たり前すぎて、耐糖能という考えも当たり前になってしまっています。
糖質制限を否定する人はどうしても糖質を摂取したいので、それはそれで仕方がないでしょう。
今回の内容と余り関係なく申し訳ありませんが、こういうのを見つけてしまいました。
「砂糖と健康セミナー」9/27 (仙台東北放送主催)
「砂糖は太るし、あまり健康によくない」なんて思われているあなた!
お砂糖の正しい知識について、楽しく学びませんか?お土産をご用意してお待ちしております。
講師:永井幸枝先生(農学博士)
永井先生、砂糖業界と関わりがおありなのか?
それともご自身の信念で「砂糖の正しい知識」を普及させたいのか?
私としてはどちらにしても怖いです。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
「ありが糖運動」を農水省がやっていますので、砂糖業界と関係があってもおかしくないですね。
「セカンドミール効果」朝食推奨の理由などに使われる言葉でもありますが、
糖質過剰摂取適応効果でもあり、決して健康的な「効果」ではないのですね。