多くの人はLDLコレステロールに注目しています。もちろん医師の多くもLDLコレステロールの数値に敏感です。しかし、LDLコレステロールよりももっと重要なものがあります。それは中性脂肪とHDLコレステロールです。
そして、中性脂肪/HDLコレステロールの比(TG/HDL比)は非常に重要です。TG/HDL比は、中性脂肪値 (mg/dL) を HDLコレステロール値 (mg/dL) で割った値です。
今回の研究は岡山大学からのもので、TG/HDL比と冠動脈CTで見られる冠動脈プラークの特徴と、心血管イベントの可能性との関連性を評価しました。冠動脈疾患の疑いで冠動脈CTを受けた935人の患者が対象です。高リスク プラークは、3 つの特徴に基づいて定義されました。ポジティブリモデリング(血管の内腔の狭窄ではなく血管そのものが外側、血管径が拡大すること)、低密度プラーク、まだらな石灰化。重大な狭窄は、70%を超える狭窄と定義されました。
TG/HDL比により3つのグループに分けました。TG/HDL比は下から、0.31–1.56、1.57–2.66、2.67–14.69の範囲です。(図は原文より、表は原文より改変)
TG/HDL比 | |||
---|---|---|---|
三分位1 ( 0.31–1.56) | 三分位 2 (1.57–2.66) | 三分位3 (2.67–14.69) | |
石灰化プラーク | 201(56) | 206 (65) | 219 (72) |
非石灰化プラーク | 129 (41) | 159 (51) | 174 (57) |
ポジティブリモデリング | 95 (30) | 132 (42) | 146 (48) |
低密度プラーク | 66 (21) | 100 (31) | 111 (36) |
まだらな石灰化 | 108 (34) | 108 (34) | 120 (39) |
高リスクプラーク | 27 (9) | 45 (14) | 64 (21) |
重大な狭窄 | 53 (17) | 63 (20) | 77 (25) |
Agatstonスコア(石灰化スコア) | 5 (0, 210) | 33 (0, 286) | 26 (0, 225) |
上の表は冠動脈CTでの冠動脈プラーク特性分析を示しています。高リスクプラークと重大な狭窄は、全体の15%と21%で検出されました。3つのグループの中で、TG/HDL比が増加するにつれて、石灰化および非石灰化プラーク、ポジティブリモデリング、低密度プラーク、まだらな石灰化、高リスクプラーク、および重大な狭窄の有病率も増加しました。TG/HDL比が増加するにつれて、Agatstonスコアも増加しました。
単変量解析 | 多変量解析 | |
---|---|---|
オッズ比 (95% CI) | オッズ比 (95% CI) | |
LogTG/HDL比 | 2.009 (1.514–2.666) | 1.581 (1.150–2.173) |
LDLコレステロール | 0.999 (0.994–1.005) | – |
年齢 | 1.032 (1.016–1.048) | 1.029 (1.011–1.048) |
男 | 2.917 (1.925–4.422) | 2.797 (1.773–4.412) |
高血圧 | 2.543 (1.673–3.876) | 1.129 (0.654–1.949) |
脂質異常症 | 1.981 (1.358–2.892) | 1.472 (0.879–2.465) |
糖尿病 | 1.998 (1.382–2.889) | 1.460 (0.803–2.655) |
現在の喫煙 | 1.530 (1.020–2.296) | 1.050 (0.655–1.657) |
スタチン | 1.598 (1.103–2.313) | 1.126 (0.682–1.857) |
ACEI または ARB | 2.534 (1.751–3.668) | 1.889 (1.192–2.992) |
カルシウムチャネル遮断薬 | 1.665 (1.151–2.409) | 1.079 (0.695–1.675) |
糖尿病治療薬 | 2.110 (1.414–3.147) | 1.032 (0.537–1.981) |
上の表はTG/HDL比と高リスクプラークとの関連性です。単変量解析では、高リスクプラークは TG/HDL比だけでなく、年齢、男性、高血圧、脂質異常症、糖尿病、現在の喫煙、およびスタチン、アンギオテンシン変換酵素阻害剤またはアンギオテンシン受容体遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、糖尿病薬の使用と有意に関連していました。多変量解析では、高リスクプラークと TG/HDL比は有意に関連していました。注目すべきはLDLコレステロールとは関連性が認められなかったことです。
単変量解析 | 多変量解析 | |
---|---|---|
オッズ比 (95% CI) | オッズ比 (95% CI) | |
LogTG/HDL比 | 1.551 (1.185–1.927) | 1.183 (0.893–1.568) |
LDLコレステロール | 1.000 (0.995–1.00) | – |
年齢 | 1.051 (1.035–1.067) | 1.055 (1.036–1.074) |
男 | 2.829 (1.988–4.026) | 3.075 (2.064–4.580) |
高血圧 | 2.051 (1.451–2.898) | 0.980 (0.617–1.557) |
脂質異常症 | 2.214 (1.591–3.082) | 2.116 (1.340–3.342) |
糖尿病 | 2.017 (1.459–2.789) | 1.390 (0.811–2.381) |
現在の喫煙 | 1.399 (0.975–2.009) | 1.043 (0.687–1.583) |
スタチン | 1.628 (1.177–2.251) | 0.898 (0.574–1.694) |
ACEI または ARB | 1.704 (1.237–2.346) | 1.128 (0.751–1.694) |
カルシウムチャネル遮断薬 | 1.778 (1.286–2.457) | 1.442 (0.969–2.147) |
糖尿病治療薬 | 2.106 (1.472–3.013) | 1.182 (0.653–2.139) |
上の表はTG/HDL比と重大な狭窄との関連性です。単変量解析では高リスクプラークとほとんど同様の傾向です。ただし、多変量解析では重大な狭窄とTG/HDL比との関連は有意ではありませんでした。ここでもLDLコレステロールとの関連性は認められませんでした。
上の図は心血管イベント発生率です。Aが主要転帰、Bが二次転帰です。追跡期間の中央値 4.1 年の間に78 件の心血管イベント (心血管死 4 件、急性冠症候群 22 件、後からの冠動脈血行再建術 51 件) が発生しました。主要転帰は、心血管死と急性冠症候群の複合として定義されました。二次転帰は、心血管死、急性冠症候群、または後からの冠動脈血行再建術の複合として定義されました。最もTG/HDL比が低いグループと比較して、最も高いグループでは有意に心血管イベント発生率が高くなっていました。
単変量解析 | 多変量解析: モデル 1 | 多変量解析: モデル 2 | |
---|---|---|---|
ハザード比 (95% CI) | ハザード比 (95% CI) | ハザード比 (95% CI) | |
TG/HDL比 | |||
三分位 1 (0.31–1.56) | 1 | 1 | 1 |
三分位 2 (1.57–2.66) | 2.733 (0.725–10.305) | 2.339 (0.614–8.961) | 2.308 (0.601–8.868) |
三分位3 (2.67–14.69) | 5.545 (1.605–19.159) | 3.752 (1.043–13.501) | 3.295 (0.994–12.003) |
LDLコレステロール、1mg/dL当たり | 1.006 (0.994–1.018) | 1.006 (0.993–1.020) | 1.007 (0.994–1.020) |
年齢 | 1.019 (0.987–1.053) | 1.018 (0.981–1.056) | 1.013 (0.976–1.051) |
男 | 2.349 (1.013–5.448) | 1.452 (0.585–3.608) | 1.212 (0.478–3.075) |
高血圧 | 3.039 (1.146–8.060) | 1.961 (0.698–5.509) | 1.822 (0.650–5.102) |
脂質異常症 | 1.606 (0.728–3.539) | − | − |
糖尿病 | 3.204 (1.452–7.073) | 2.707 (1.178–6.233) | 2.342 (1.009–5.440) |
現在の喫煙 | 2.283 (1.033–5.045) | 1.791 (0.749–4.278) | 1.947 (0.817–4.639) |
スタチン | 1.028 (0.458–2.306) | 0.720 (0.309–1.679) | 0.888 (0.387–2.037) |
ACEI または ARB | 2.731 (1.238–6.024) | − | − |
カルシウムチャネル遮断薬 | 1.712 (0.782–3.745) | − | − |
糖尿病治療薬 | 2.237 (1.013–4.938) | − | − |
高リスクプラーク | 2.952 (1.283–6.794) | − | 1.625 (0.645–4.091) |
重大な狭窄 | 3.552 (1.566–8.058) | − | 1.853 (0.731–4.678) |
上の表は主要転帰との関連性です。TG/HDL比の最も高いグループは主要転帰に関連し、高リスクプラークと重大な狭窄主要な転帰の重大な危険因子でした。TG/HDL比は多変量解析のモデル1では有意に関連していました。また、糖尿病は主要転帰に大きく関連していました。ここでもLDLコレステロールは関連していません。
単変量解析 | 多変量解析: モデル 1 | 多変量解析: モデル 2 | |
---|---|---|---|
ハザード比 (95% CI) | ハザード比 (95% CI) | ハザード比 (95% CI) | |
TG/HDL比 | |||
三分位 1 (0.31–1.56) | 1 | 1 | 1 |
三分位 2 (1.57–2.66) | 2.133 (1.109–4.103) | 1.843 (0.950–3.578) | 1.762 (0.906–3.427) |
三分位3 (2.67–14.69) | 2.754 (1.459–5.200) | 2.085 (1.075–4.046) | 1.884 (0.964–3.681) |
LDLコレステロール、1mg/dL当たり | 1.003 (0.996–1.011) | 1.005 (0.997–1.012) | 1.004 (0.996–1.012) |
年齢 | 1.032 (1.011–1.053) | 1.033 (1.010–1.056) | 1.027 (1.004–1.051) |
男 | 2.311 (1.411–2.786) | 1.858 (1.083–3.186) | 1.539 (0.887–2.669) |
高血圧症 | 1.740 (1.062–2.850) | 1.211 (0.711–2.063) | 1.118 (0.656–1.907) |
脂質異常症 | 1.377 (0.874–2.167) | − | − |
糖尿病 | 1.947 (1.249–3.036) | 1.750 (1.099–2.789) | 1.642 (1.027–2.625) |
現在の喫煙 | 1.875 (1.176–2.990) | 1.552 (0.945–2.547) | 1.552 (0.945–2.555) |
スタチン | 1.690 (1.225–2.331) | 0.837 (0.508–1.379) | 0.798 (0.483–1.318) |
ACEI または ARB | 1.791 (1.149–2.793) | − | − |
カルシウムチャネル遮断薬 | 1.856 (1.190–2.895) | − | − |
糖尿病治療薬 | 1.454 (0.887–2.385) | − | − |
高リスクプラーク | 3.033 (1.901–4.840) | − | 1.741 (1.041–2.910) |
重大な狭窄 | 2.979 (1.897–4.676) | − | 1.706 (1.029–2.828) |
上の表は二次転帰との関連です。主要転帰とほとんど同様に傾向です。もちろん、ここでもLDLコレステロールは関連していません。
つまり、この研究でLDLコレステロールではなく TG/HDL比の増加が、将来の急性冠症候群を予測する可能性のある高リスクの冠動脈プラークの存在と関連していることが示されました。
重要なのはLDLコレステロールではありません。あなたの主治医が中性脂肪やHDLコレステロールを無視して、LDLコレステロール値だけでスタチンを処方しようとしたなら、その医師はあなたを治療しようと思っているのではなく、一生の間、ずっと薬を飲ませることを考えているだけです。
TG/HDL比はインスリン抵抗性を示しています。インスリン抵抗性があるにもかかわらずインスリン抵抗性については何も言及しない医師は、ほとんど意味のないLDLコレステロール値の数値だけを体裁よく整えることを考えているにすぎません。
私はTG/HDL比は1.3以下を推奨しています。糖質制限をすればほとんどの人は楽勝でクリアできるはずです。
心血管疾患はLDLコレステロールが原因で起きるものではなく、代謝の異常、糖質過剰摂取による糖質過剰症候群です。まずは糖質制限を始めるべきです。
「The Association of Triglyceride to High-Density Lipoprotein Cholesterol Ratio with High-Risk Coronary Plaque Characteristics Determined by CT Angiography and Its Risk of Coronary Heart Disease」
「中性脂肪/HDLコレステロール比と、CT 血管造影および冠動脈心疾患のリスクによって決定される高リスク冠動脈プラーク特性との関連性」(原文はここ)
突然失礼致します。
私は糖質制限を実践した結果、以下のようにコレステロール値が全般的に高くて中性脂肪は低くなっています。
総コレステロール :287
HDLコレステロール: 98
中 性 脂 肪 : 42
LDLコレステロール:176
TG/HDL比 :0.43
人間ドック時の値です。
このような場合でも大丈夫と判断してもよいのでしょうか。
ご教授頂ければ幸いです。
東 昭一さん、コメントありがとうございます。
この数値自体は非常に良いと思います。糖質制限を行うと中性脂肪が低下し、HDLは増加します。
LDLも増加することは珍しいことではありません。
人間ドック的にはLDLコレステロールは引っ掛かります。
R4.5.11
TG:78/HDL:91=0.86
でした。
super糖質制限&1日1食(たまに2日1食)、ランニングも年単位継続中、です。
安心いたしました、ご回答ありがとうございました。