心血管疾患の予防、リスク軽減には肥満を改善することは重要だと思います。Lp(a)に関しては食事制限、体重減少とどのように関連しているでしょう。
今回の研究では2型糖尿病のある人とない人両方で、体重減少とLp(a)の関連を分析しています。2型糖尿病の主に肥満の患者131人の集団(コホート1)と、2型糖尿病の肥満患者30人の集団(コホート2)と、2型糖尿病のない肥満患者37人の集団(コホート3)、および肥満手術を受けた2型糖尿病のない肥満患者26人の集団(コホート4)、の4つのグループが対象でした。
コホート1と2では1 日あたり約3000kJ (750kcal) の非常に低エネルギー食の 8 週間の食事から始まり、その後エネルギー摂取量を 1 日あたり約5500kJ (1300kcal) まで 12 週間にわたってゆっくりと増加させるエネルギー制限食で体重減少を行いました。
コホート3では、運動が奨励され、主要栄養素と微量栄養素の含有量が国の食事ガイドラインに沿った状態で、ベースラインと比較して1日あた2000kJ(500kcal)少ない3か月の食事介入を受けました。
コホート4では、肥満手術が行われ、特定の食事は推奨されませんでした。(図は原文より、表は原文より改変)
変数 | コホート 1 ( n = 131) | コホート 2 ( n = 30) | コホート 3 ( n = 37) | コホート 4 ( n = 26) | ||||
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前 | 後 | 前 | 後 | 前 | 後 | 前 | 後 | |
年齢、年(範囲) | 54 (26–74) | – | 55 (34–70) | – | 42 (18–63) | – | 48 (34–59) | – |
重量 (kg) | 105.0±19.1 | 94.5±17.3 | 103.2±23.3 | 94.2 ± 21.7 | 111.4±17.1 | 104.3 ± 16.7 | 124.0±11.8 | 106.6±11.2 |
BMI (kg/m 2 ) | 36.8±5.6 | 33.1±5.2 | 34.8±6.6 | 31.8±6.6 | 38.4±4.7 | 35.9±4.5 | 43.7±3.2 | 37.4 ± 3.5 |
胴囲(cm) | 119.8±12.9 | 110.8±11.9 | 113.1±12.3 | 106.0±12.3 | 106.2±15.1 | 98.3 ± 13.8 | – | – |
HbA1c ( % ) | 7.7 (6.9–8.6) | 7.0 (6.1–8.2) | 7.5 (7.0–8.2) | 6.6 (6.0–8.2) | 5.5 (5.3–5.8) | 5.4 (5.2–5.7) | ||
空腹時血糖 (mmol/l) | 8.8 (6.9–10.8) | 7.3 (6.1–9.3) | 8.7 (7.0–10.5) | 7.4 (6.5–9.3) | 5.3 (5.0–5.8) | 5.1 (4.8–5.4) | 5.1 (4.7–5.2) | 4.9 (4.4–5.3) |
総コレステロール (mmol/l) | 4.4 (3.7–5.1) | 4.1 (3.5–4.8) | 3.9 (3.6–5.1) | 4.2 (3.5–5.5) | 5.2 (4.3–5.7) | 4.6 (4.1–5.2) | 4.7 (3.8–5.8) | 4.0 (3.5–4.9) |
LDLコレステロール (mmol/l) | 2.5 (2.1–3.1) | 2.4 (1.8–2.9) | 2.4 (2.0–3.2) | 2.2 (1.7–3.3) | 3.4 (3.0–4.0) | 3.1 (2.7–3.6) | 2.8 (2.3–3.6) | 2.3 (1.8–3.0) |
HDLコレステロール (mmol/l) | 1.1 (1.0–1.3) | 1.2 (1.0–1.4) | 1.2 (1.0–1.5) | 1.2 (1.1–1.5) | 1.3 (1.1–1.4) | 1.2 (1.1–1.4) | 1.1 (1.0–1.3) | 1.0 (0.9–1.2) |
中性脂肪 (mmol/l) | 1.8 (1.2–2.6) | 1.4 (1.0–2.0) | 1.5 (1.1–2.5) | 1.4 (0.9–2.0) | 1.3 (1.0–1.8) | 1.1 (0.9–1.4) | 1.2 (0.9–1.8) | 1.2 (1.0–1.4) |
Lp(a) (nmol/l) | 40.9 (13.9–159.5) | 55.9 (23.0–201.1) | 56.9 (12.4–148.9) | 61.5 (20.4–185.9) | 27.0 (2.1–75.2) | 45.2 (22.7–94.5) | 36.4 (17.2–91.5) | 20.6 (6.3–104.1) |
上の表は介入前後の状態です。どのグループも大きく体重減少、BMI減少が認められています。糖尿病のグループでは大きくHBA1c、空腹時血糖が低下しています。コレステロール、中性脂肪は増加したり減少したり、変化しないで、と色々です。
さてLp(a)はコホート4以外で大きく増加しています。
上の図はコホート1のそれぞれの患者のLp(a)の変化を示しています。当然個人差があり、Lp(a)が減少している人もいましたが、多くは増加していました。その増加の割合も個々で大きな違いがありました。日本の単位(mg/dL)にするには2.1で割ってください。最も増加した人ではおよそ250nmol/Lの増加なので、120mg/dLくらい増加したことになります。
上の図はコホート別の変化です。○が体重変化です。●がLp(a)の変化です。コホート1~3のLp(a)増加の中央値は11.9~14.8nmol/l程度なので、日本の単位で考えれば6~7mg/dL程度の増加にすぎませんが、増加しています。
コホート4だけはLp(a)は有意差はありませんが減少傾向でした。
そうすると、体重減少とLp(a)は関連しておらず、体重減少ではなく食事制限、つまりエネルギー制限によりLp(a)が増加したと考えられます。
現在の一般的な考え方では、体重を減少させる食事はエネルギー制限(カロリー制限)です。それが正しいとしか思っていない医師は、次のように考えるでしょう。「心血管疾患リスクを軽減するために、エネルギー制限された食事をしている過体重および肥満の人にとっては、Lp(a)が増加するので、Lp(a) 低下薬を食事介入に追加することが必要だ!」
そして、Lp(a)低下薬が発売された暁には、患者にはLp(a)低下薬が処方されるということになります。非常にうまく考えられたビジネスモデルですね。患者には痩せろ!と言ってエネルギー制限をさせて、Lp(a)が増加した!と言って薬を処方する。そんな世界がもうすぐやってくるかもしれません。
エネルギー制限食は基本的に脂質制限食です。「その2」で書いたように、脂質、飽和脂肪酸を減らすと、有害と考えられているLp(a)は増加してしまうのです。
スタチンの処方適応でないLDLコレステロールが正常の人であっても、Lp(a)が高い人にはLp(a)低下薬を処方し、LDLコレステロールが高ければLp(a)低下薬も処方し、過体重や肥満の人にはまず体重を減らすように指導してエネルギー制限食を行いLp(a)を増加させてLp(a)低下薬を処方する。とにかくスタチンまたはLp(a)低下薬のどちらか、または両方の処方できる人をどんどん増やします。
スタチンはもともと必要のない薬ですし、Lp(a)は脂質たっぷりの食事である糖質制限では低下します。糖質制限をするか、薬をいっぱい飲むか、どちらが良いかは自分で判断しましょう。
「Effect of diet-induced weight loss on lipoprotein(a) levels in obese individuals with and without type 2 diabetes」「2型糖尿病の有無にかかわらず、肥満のLp(a)レベルに対する食事誘発性体重減少の影響」(原文はここ)
中性脂肪や血糖高値も、高血圧症状も健康的ではない、ことはきっと確かですが、
それらの検査数値を服薬で調整することも健康的ではないとも思います。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
なぜ異常になるか?という根本原因ではなく、数値だけを良くすることで満足している医師が多いですから。