元エリートラグビー選手の神経変性疾患リスク

私が高校生の頃、授業でラグビーがありました。もちろん男子だけですが。そして、その最後にはクラス対抗の試合が行われました。そして、クラス対抗なのでそれはそれは生徒たちは盛り上がり、燃えます。人間にはおそらく闘争本能が備わっており、戦うことが好きなのでしょう。(もちろんそうでない人もいます。)

しかし、いくら授業で練習したとはいえ、コンタクトスポーツですからケガをすることもあります。大ケガをした人も実際にいました。

現在でも、授業でラグビーが行われている学校があります。柔道が行われている学校もあります。スポーツはもともと危険ですが、特にコンタクトスポーツの中でもフルコンタクト(力を抑制せず相手に直接接触する形式の競技で、ラグビー、アメリカンフットボール、レスリング、柔道など)のスポーツは一歩間違えばケガという軽い言葉では済まないような、半身不随など人生が大きく変わるほどの大ケガ、場合によっては死亡する可能性のあるスポーツです。そんなスポーツを授業で行う必要があるのでしょうか?

授業は強制的です。好きなスポーツを選んで行うのではなく、学校側に指定されます。学校側は安全に配慮して行うといってやっているのでしょうが、無理でしょう。さらに部活となれば、もっと激しく行われます。部活はもちろん好きでやっている生徒が多いでしょうが、危険性については本当に理解しているかは疑問です。日本の学校の柔道では、なんと120人以上がなくなっているそうです。(ここ参照)

小学生であっても一般道場で柔道の練習中に頭を打ち急性硬膜下血腫となった重大事故が報告されています。骨折というのも成長の段階では大変なことでしょうが、頭の損傷はもっと大変です。そこまでしてスポーツをすることが必要なのでしょうか?

今回の研究では、スコットランドの元エリートラグビー選手の神経変性疾患のリスクとの関連を分析しています。412人の元選手と一般人1236人を対象としています。中央値 32年間追跡しています。全原因死亡率に差はありませんでしたが、神経変性疾患による死亡のリスクは2.6倍高くなりました。(表は原文より改変)

元ラグビー選手
(n=412)
適合母集団比較群
(n=1236)
HR (95% CI)
すべての神経変性疾患47 (11.4%)67 (5.4%)2.67(1.67~4.27)
 死亡32 (7.8%)39 (3.2%)2.60(1.44~4.70)
 入院21 (5.1%)37 (3.0%)2.29(1.19~4.41)
 神経変性疾患の処方24 (5.8%)28 (2.3%)4.59(2.14~9.82)
すべての神経変性疾患は2.67倍で、死亡率は2.6倍、入院は2.29倍、神経変性疾患の薬の処方を受けているのは4.59倍になりました。
神経変性疾患HR/OR
(95% CI)
認知症2.17(1.26~3.72)
パーキンソン病3.04(1.51~6.10)
MND(運動ニューロン疾患)/ALS(筋萎縮性側索硬化症)15.17 (2.10 ~ 178.96)

上の表は神経変性疾患のタイプ別です。認知症は2.17倍、パーキンソン病は3倍、そして運動ニューロン疾患およびALS(筋萎縮性側索硬化症)は15倍以上となっていました。

我々医師は医療行為の前にインフォームドコンセントを行います。そしてその良し悪しは別として、一応形としては患者が納得して初めてその医療行為を行います。リスクを分かったうえで医療が行われるということになっています。(実際には、いろいろな問題がありますが)

同じように、子供がスポーツに参加する前に、その学校や指導者などが、親と子供の前で、上記のような危険性について十分に説明すべきであり、それによってそのスポーツに参加しない自由があって当然だと思います。下手をしたら死んでしまったり、体に重い障害が残る可能性があるのですから。そして将来にそのスポーツにより神経変性疾患になるリスクが大きく増加し、疾患によっては15倍もリスク増加があるということは知っているべきです。

いまだに日本は精神論が先行し、スポーツで精神を鍛えると思っている大人が多いのかもしれません。スポーツは健全なものではなく、今回の東京オリンピックを見てわかるように、裏はドロドロです。スポーツで留学してクスリを覚えて帰ってくる学生もいるようです。

運動は人間にとって必要ですが、そのやり方は自分で決めるべきですし、子供のころから危険なスポーツに参加すべきではないでしょう。小学生に正しいラグビーのタックルを教えても、実戦で相手がどのような動きをするかはわかりませんし、逆にどのようなタックルを受けるかはわかりません。タックルをする側される側双方に100%安全なタックルなんて存在しません。(ここ参照)

フルコンタクトのスポーツはせめて高校生以上であったり、希望者だけにすべきであり、どの年代でも授業に組み込むことは中止すべきです。

サッカーでも現在ヘディングが問題となっています。(「サッカーのヘディング禁止」参照)

脳は非常に重要です。そんなことわかっているはずです。それを格納している頭部に衝撃を与えることは脳にとっていいはずがありません。スポーツにおける頭部への衝撃や頭部外傷を十分に減らすための戦略を推進する必要がありますが、それが実施できるようになるまでは子供は、サッカーはヘディング禁止、ラグビーはタックル禁止、柔道は投げ技禁止がいいのではないでしょうか?比較的安全な運動でも十分に子供の体は鍛えられます。

 

「Neurodegenerative disease risk among former international rugby union players」

「元国際ラグビー選手の神経変性疾患リスク」(原文はここ

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