アメリカ糖尿病学会2023年版診療ガイドライン その3

今回は「その1」「その2」の続きです。これまでは糖質制限、炭水化物(糖質)について書きましたが、今回はその他の栄養素、タンパク質、脂質などについてです。

タンパク質についての記述を見てみましょう。

タンパク質
毎日のタンパク質摂取量の調整 (通常、1日あたり1~1.5 g/kg体重または総カロリーの15~20%)が健康を改善するという証拠はなく、血糖管理または心血管疾患リスクのいずれかを最適化するための食事中のタンパク質の理想的な量に関する研究は決定的ではありません。したがって、タンパク質摂取量の目標は、現在の食事パターンに基づいて個別化する必要があります。いくつかの研究では、満腹感の増加に寄与する可能性のあるわずかに高レベルのタンパク質(20~30%)を含む食事プランで2型糖尿病の管理が成功することがわかっています

歴史的に、糖尿病性腎臓病(DKD)(アルブミン尿および/または推定糸球体濾過率の低下を伴う)の人には、低タンパク質の食事計画が推奨されていました。しかし、現在のエビデンスは、DKD患者が一般的に推奨されるタンパク質摂取量未満にタンパク質を制限する必要があることを示唆していません。食事性タンパク質の量を1日あたりの推奨許容量である0.8g/kg未満に減らすことは、血糖測定値、心血管リスク測定、または糸球体濾過率の低下速度を変更せず、栄養失調のリスクを高める可能性があるため、推奨されません

2型糖尿病では、タンパク質の摂取により食事性炭水化物に対するインスリン反応が促進または増加する可能性があります。したがって、内因性インスリンが同時に上昇する可能性があるため、低血糖を治療または予防するために高タンパクの炭水化物源(ナッツなど)を使用することは避けるべきです。医療専門家は、低血糖警告値70mg/dL未満の低血糖を純粋なブドウ糖 (すなわち、ブドウ糖の錠剤)または炭水化物を含む食品で治療するように患者に助言する必要があります。

タンパク質を20~30%もOKとしていますね。当然、糖質制限を認めるのであれば、タンパク質摂取量は増加しますので、タンパク質30%は必然ですね。

日本では、もしかしたら腎臓の機能があまり良くない場合に、タンパク質制限が行われているかもしれません。しかし、このガイドラインでは低タンパク質食は「推奨されません」とはっきりと書いてあります。

日本のガイドラインを見てみると、「タンパク質については,過量の摂取が腎障害を増悪させるとの観点から論じられてきたが、大規模なコホート研究では、タンパク質摂取量が多い集団でも eGFR 低下速度には差異はみ られなかったとしている。現時点では、タンパク質摂取量が糖尿病性腎症の発症リスクに なるとみなす根拠はない。」としながらも「わが国の糖尿病においても、 タンパク摂取比率は、20%エネルギー以下とすることが妥当と考えられる。」としています。

ところで、ナッツが高タンパクの炭水化物源というのはちょっと疑問に思います。低血糖にナッツを摂取するという発想もあまりありませんでした。例えばアーモンド10粒(12g)とクルミ12gを合わせて食べても、糖質は1.75gでタンパク質は4g程度です。高タンパクの炭水化物源とは言えないと思います。

次は脂質です。

脂質
証拠によると、糖尿病患者または糖尿病のリスクがある人にとって、脂質からのカロリーの理想的なパーセンテージは存在せず、主栄養素の分布は患者の食事パターン、好み、および代謝目標に従って個別化する必要があることが示唆されています。消費される脂質の種類は、代謝目標と心血管疾患リスクを検討する際に脂質の総量よりも重要であり、飽和脂肪からの総カロリーのパーセンテージを制限することが推奨されます。2型糖尿病患者を含む複数のRCTで、地中海式の食事パターンにより血糖管理と血中脂質の両方を改善できると報告されています。地中海の食事パターンは、地中海に隣接する国々の伝統的な食習慣に基づいています。食事スタイルはさまざまですが、新鮮な果物や野菜、全粒穀物、豆、ナッツ/種子の摂取、主要な脂質源としてのオリーブオイル、少量から中程度の量の魚、卵、および家禽の摂取、砂糖、砂糖入り飲料、ナトリウム、高度に加工された食品、精製された炭水化物、飽和脂肪、脂質の多い肉または加工肉の制限、など多くの共通点があります。

オメガ3(エイコサペンタエン酸 [EPA] およびドコサヘキサエン酸 [DHA])のサプリメントを、心血管イベントの予防または治療のために糖尿病の全員に推奨することを決定的に支持する証拠はありません。2型糖尿病患者では、オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸に関する2つのシステマティックレビューで、栄養補助食品は血糖管理を改善しないと結論付けられました。ASCEND 試験(A Study of Cardiovascular Events in Diabetes)では、プラセボと比較した場合、1g/日の用量でのオメガ3脂肪酸のサプリは、心血管疾患の証拠のない糖尿病患者に心血管の利益をもたらしませんでした。しかし、Icosapent Ethyl-Intervention Trial (REDUCE-IT)による心血管イベントの減少の結果から、純粋なEPAを1日4g補給すると、有害な心血管イベントのリスクが大幅に低下することがわかりました。8,179 人の参加者を対象としたこの試験では、50% 以上が糖尿病を患っており、高中性脂肪血症(135~499mg/dL)が残存している既存のスタチンを服用している確立されたアテローム性動脈硬化性心血管疾患患者の心血管イベントが5%絶対的に減少することがわかりました。詳細については、セクション10「心血管疾患とリスク管理」を参照してください。糖尿病の人は、飽和脂肪、食事中のコレステロール、およびトランス脂肪の推奨摂取量に関する一般集団のガイドラインに従うようにアドバイスされるべきです。トランス脂肪酸は避けるべきです。さらに、食事中の飽和脂肪を徐々に減らすにつれ、精製された炭水化物ではなく、不飽和脂肪に置き換える必要があります。

脂質も糖質制限を認めるのであれば、かなり増加しますので、理想的なパーセンテージは示せないでしょう。それにしても相変わらず地中海食推しですね。そして、まだまだ飽和脂肪酸は悪のようです。さらに「飽和脂肪、食事中のコレステロール、およびトランス脂肪の推奨摂取量に関する一般集団のガイドラインに従うようにアドバイスされるべきです。」となってしまっています。残念。

ナトリウム
一般集団に関しては、糖尿病患者は、ナトリウム摂取量を1日あたり2,300mg未満に制限するようにアドバイスされています。たとえ高血圧の人であっても、<1,500mgに制限することは一般的に推奨されません。ナトリウムの推奨事項は、おいしさ、入手可能性、手頃な価格、および栄養的に適切な食事で低ナトリウムの推奨事項を達成することの難しさを考慮に入れる必要があります。

ナトリウム、塩分はまだまだ少ない方が良いという認識のようですが、過度な制限はもちろん推奨していませんね。時折、塩分は少ないければ少ないほど健康的だと思い込んでいる高齢者が、料理が美味しくない、と愚痴をこぼしたり、血液検査で低ナトリウム血症になっていたりします。塩分制限は必要ありませんよ、と言っても信じてもらえません。

それにしても、ナトリウムはどうでも良いのか、記述量が極端に少ないですね。

微量栄養素とサプリメント、アルコールについては飛ばしましょう。

非栄養甘味料
アメリカ食品医薬品局は、糖尿病患者を含む一般大衆が消費する多くの非栄養甘味料を承認しています。砂糖で甘くした製品を定期的に摂取することに慣れている一部の糖尿病患者にとって、非栄養甘味料 (カロリーがほとんどまたはまったく含まれていない) は、栄養甘味料 (砂糖、ハチミツ、アガベシロップなどのカロリーを含むもの))の代用として適度であれば許容される場合があります。非栄養甘味料は、血糖管理に大きな影響を与えないようであり、他の食物源からの追加のカロリーで補っていない限り全体的なカロリーと炭水化物の摂取量を減らすことができます。体重管理に関する非栄養甘味料の使用に関するシステマティックレビューとメタアナリシスから得られた証拠はまちまちであり、減量に効果があることを示すものもあれば 、体重増加との関連を示唆する研究もあります。これは、逆の因果関係と残りの交絡変数によって説明される可能性があります。非栄養甘味料を食事に加えても、エネルギー制限なしでは減量や体重増加の減少には何のメリットもありません。低カロリーおよび無カロリーの甘味飲料を砂糖入り飲料の代用として使用した最近のシステマティック レビューとメタ分析では、体重と心臓代謝の危険因子のわずかな改善が害の証拠なしに見られ、水で見られるのと同様の利益の方向性がありました。医療専門家は引き続き水を推奨する必要がありますが、太りすぎや肥満、糖尿病の人は、不足していると感じないように、さまざまなカロリーゼロまたは低カロリーの甘味料製品を使用している場合があります。

人工甘味料についてはどっちつかずの態度ですね。しかし、やはりエネルギー制限なしでは減量できないと言っているのは残念です。

タンパク質に関しては良いのですが、それ以外はまだまだという感じです。日本のガイドラインよりはかなりマシだと思います。

 

「5. Facilitating Positive Health Behaviors and Well-being to Improve Health Outcomes: Standards of Care in Diabetes-2023」

「5.健康転帰を改善するための前向きな健康行動と幸福の促進:糖尿病の標準治療-2023」(原文はここ

4 thoughts on “アメリカ糖尿病学会2023年版診療ガイドライン その3

  1. 先生こんばんは

    先日母が「新聞に載ってたけどご飯食べないと認知能力落ちるんだって」と言うので何のことかと思ったら地元新聞に以下の記事が載ってました。

    低糖質・高タンパク食を続けると記憶力低下の可能性 群馬大研究グループ
    https://www.jomo-news.co.jp/articles/-/235017?utm_term=Autofeed&utm_medium=Social&utm_source=Twitter#Echobox=1675118253

    おそらくこちらの論文かと思います
    Low-Carbohydrate and High-Protein Diet Suppresses Working Memory Function in Healthy Mice
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnsv/68/6/68_527/_article/-char/ja/

    英語は読めないのでブラウザの翻訳機能で抄録しか読めないですがLCHP群とcotrol群はどちらも脂質が少ない気もします。
    母は糖質制限に興味も知識もないので記事見れば糖質制限してる私のことが気になるのは仕方のないことかもしれません。
    先生はこの実験をどうみますか?

  2. 日々、高齢者に関わる仕事をしていると、言っちゃ悪いですが「反面教師」だらけ。
    一日3食主食ご飯の和食、そして減塩は健康の常識。
    菓子パンやスウィーツも大好きですが流石に健康的ではない自覚があり、
    「健康的な」米菓や鰯煎餅(糖質たっぷり)、和菓子やサプリ、健康食品も
    欠かせません。

    結果は、糖尿病やその合併症を始めとした生活習慣病、認知機能低下、果ては脳卒中や
    心筋梗塞。そして、気休めと暇潰し的な、でも個人的にも社会的にも医療費
    無駄使いの病院通い。

    自分の生活習慣を常に自覚できる意味では良い環境なのかもしれません。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      医療業界と食品業界が組めば、どちらも儲かって笑いが止まらないかもしれませんね。

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