糖質制限では運動強度がどれくらい増加すると糖質をメインエネルギー源とするのか?

運動強度によって人間はブドウ糖と脂肪のどちらをエネルギー源にするのかを変えていることは知っていると思います。

運動強度は最大酸素消費量(VO2max)の何%で表現されますが、低い運動強度では脂肪がメインのエネルギー源ですが、60%程度を超えると脂肪の燃焼とブドウ糖の燃焼の比率が逆転して、ブドウ糖がメインのエネルギー源となると考えられています。

しかし、これはあくまで糖質過剰摂取の状態でのデータです。糖質制限をしているとどうなるでしょうか?

今回の研究ではエネルギー源が脂肪とブドウとが入れ替わるクロスオーバーポイントについて、糖質制限での違いを示しています。(図は原文より)

上の図は古典的なエネルギー源のクロスオーバーポイントを示しています。このポイントは炭水化物(ブドウ糖)由来の燃料からのエネルギーが脂肪からのエネルギーよりも優勢になる出力であり、出力がさらに増加すると炭水化物の利用率が相対的に増加し、脂肪の酸化が減少するポイントです。この図ではおよそ65%の運動強度でしょうか。しかも安静時はほとんどブドウ糖のエネルギー源の割合はゼロに近いように見えます。

上の図は運動強度に対する、脂肪の酸化速度を示しています。人間は平均して、VO2maxの60~65%くらいのところで最大の脂肪酸化速度が発生するというもので、いくつかの分析では、脂肪酸化の最大速度はもうちょっと低い値(48%)で達成される可能性があることが示唆されています。上の図では運動強度が50%から約 63%に増加するにつれて、脂肪の酸化が若干増加し最大になることを示しています。それよりも運動強度が高くなるにつれて急激に低下します。約85%VO2maxの運動強度を超えると、脂肪の酸化速度はゼロになっています。そして最大でも0.6g/分程度でしかありません。

さて、上の図は異なる食事による運動強度に対するエネルギー源の違いです。左は高糖質低脂質(平均炭水化物402g(約57%)、脂質89g(約28%))、右は低糖質高脂質(平均炭水化物43g(約6%)、脂質226g(約69%))の食事です。赤が炭水化物、青が脂肪です。非常に興味深いことに、高糖質低脂質食ではクロスオーバーポイントが存在しません。ずっとメインエネルギー源は糖質です。運動強度50%のときに最も脂肪のエネルギー源の割合が高まっていますが、それでも45%程度です。一方、低糖質高脂質食ではクロスオーバーポイントは85%程度のところにあります。それ以下ではずっと脂肪がメインのエネルギー源であり、100%でも脂肪のエネルギー源の割合はゼロにはなっていません。

そして、上の図は2つずつの研究から得られた、高糖質低脂質食と低糖質高脂質食の運動強度による脂肪の酸化速度です。高糖質低脂質食では先ほどと同様に最大でも0.5g/分程度です。しかし、低糖質高脂質食では1g/分を超えています。運動強度100%でも糖質過剰摂取状態の最大値に近い脂肪燃焼が起きています。つまり、糖質制限では糖質過剰摂取よりも大量の脂肪をエネルギーにできるのです。

恐らくは最初の図のような考えはウソで、現代の糖質過剰摂取の状態では、多くの場面で糖質がメインのエネルギー源なのでしょう。そして、それは人間本来の状態とはほど遠いのだと思われます。

人間は糖質摂取が無くても運動ができるようになっていますが、究極の状態で戦うアスリートはどうしても糖質が必要になってくるのでしょう。一般の人の運動には当てはまらないと思われます。

太った人が糖質制限をせずに運動して、汗をかいたらスポーツドリンクなどを飲んでいては、結局はずっと糖質がメインエネルギーになっているので、まずは痩せません。運動だけではほとんど痩せませんが、糖質制限をして運動をすれば、糖質制限だけよりも体重減少は加速する可能性があります。

まずは糖質制限で脂肪をエネルギーにするのが初期設定でしょう。

「Low carbohydrate high fat ketogenic diets on the exercise crossover point and glucose homeostasis」

「運動のクロスオーバーポイントとグルコース恒常性に関する低炭水化物高脂質ケトジェニックダイエット」(原文はここ

2 thoughts on “糖質制限では運動強度がどれくらい増加すると糖質をメインエネルギー源とするのか?

  1. 糖質過剰摂取でもそれなりに人体は
    適応して活動できるのでしょうが、
    借金同様身体の負債が溜まり続けて、
    遅かれ早かれ破綻を来してしまう
    のでしょうね。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      拙著でも書いたように、糖質をエネルギー源にすること自体が体には有害だと思います。
      それが現在では四六時中何らかの糖質を摂取し、ずっと糖質がメインエネルギー源となってしまっています。
      病気が増加するのは当然でしょう。

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