糖質摂取はLDLコレステロールを低下させる その1

春の健康診断が始まり、糖質制限をしている人には鬱陶しい季節がやってきました。LDLコレステロールが高いだけで、様々なことを言われる人もいるでしょう。

今回のシリーズでは糖質摂取および糖質制限でLDLコレステロールがどうなるかを書きたいと思います。LDLコレステロール値が高いことが不健康だと思うのであれば、糖質摂取をすればLDLコレステロールは低下します。しかし、進化の過程で糖質摂取量は非常に少なく、食事回数も少なかったことを考えると、LDLコレステロールは高いことの方が初期設定であると思います。

なぜ、糖質摂取でLDLコレステロールは低下し、なぜ糖質制限でLDLコレステロールは増加するのでしょうか?そして、糖質過剰摂取を続けている人の中でLDLが高くなるのはどうしてでしょうか?LDLの増減に影響することを見てみましょう。

糖質制限と糖質摂取の大きな違いはもちろん糖質摂取量です。そしてそれによるインスリン分泌量です。糖質制限ではインスリン分泌が大きく低下します。

そして、インスリンはLDLのクリアランスに大きな影響を与えます。人間の体は、高インスリンではエネルギーの貯蔵を、低インスリンではエネルギーの放出を行います。糖質制限で低インスリンの場合は肝臓はグリコーゲンをグルコースとして放出しますが、主にこれは血糖値の維持のためでしょう。エネルギー源としては主に脂肪細胞が中性脂肪をグリセロールと遊離脂肪酸にして放出します。

肝臓はまた、中性脂肪を乗せてVLDLを分泌します。しかし、もともと糖質制限では肝臓の脂肪は非常に少ないと思われます。そうすると積み荷が少ないVLDLは小さいVLDL2になります。さらに、実際にはVLDLの形だけではなく、直接LDLを分泌します。

インスリン抵抗性は高インスリン血症にもかかわらずインスリン作用が低下しています。インスリンの効果が低下してしまっているので、脂肪細胞での脂肪分解を抑制するインスリンの能力が 失われ、肝臓への遊離脂肪酸の流れが増加します。しかし、肝臓の脂質生成を刺激するインスリンの能力は、損なわれていないと考えられ、結果として生じる過剰な肝臓の中性脂肪は、VLDLを大きなVLDL1にすることを促進します。糖質制限ではインスリン分泌自体が少ないので、肝臓の脂質生成は刺激されません。

VLDL は主にアポリポタンパク質のApoBから構成されます。インスリンは、肝臓による ApoB 産生とクリアランスの両方に大きな影響があります。ApoBクリアランスは、インスリンが増加すると増加し、インスリンが減少すると低下します。反対に、インスリンの増加はApoB分泌を低下させ、インスリンの減少はApoB分泌を増加させるため、糖質制限での低インスリン状態およびインスリン抵抗性でのインスリン作用の低下だとApoB分泌が増加します。それによりLDLも増加します。

進化の過程では高インスリンはエネルギーの貯蔵を促進し、低インスリンはエネルギーの放出を行うように設定されています。ApoBの増加は、肝臓から出るエネルギーが増えることを意味します。糖質制限ではエネルギーは脂肪酸(ケトン体)から主に得ているので、このメカニズムは何も問題ないはずですが、インスリン抵抗性ではブドウ糖が過剰で、それぞれの臓器、組織ではエネルギーが溢れているのに、肝臓がまだエネルギーを放出するという矛盾したことが起きてしまっています。つまり、見た目には同じLDLの増加が起きていても、糖質制限とインスリン抵抗性では全く意味が違うのです。

しかし、恐らくインスリン抵抗性によるインスリン作用低下よりも糖質制限でのインスリン分泌が少ないことの方がVLDLやApoBなどに与える影響は大きいと思われます。それは、通常糖尿病では高LDLコレステロールにあまりならないことからも推測できます。糖尿病でLDLコレステロール増加が起きていたとしても軽度であり、糖質制限で起きるような、家族性高コレステロール血症と間違うくらいの基準値から見たらかなりの異常(糖質制限では異常ではないけれど)なLDLコレステロールにはなりません。

つまり、LDLコレステロールという面で考えれば、通常の代謝、軽度の代謝異常レベルであれば、糖質摂取によりインスリン分泌が増加するので、LDLコレステロールは低下します。現在の医療ではLDLコレステロール値が厳密に治療、スタチンと結び付けられているので、LDLが低いことが良いことであるかのように思い込まされていますが、そのままの糖質過剰摂取をしていると、だんだんインスリン抵抗性が起こり、LDLコレステロールが増加してきます。そうなると医療の餌食になってしまう可能性があります。以前の記事「糖質を減らして脂質と交換するとHDLコレステロールは上昇し中性脂肪は低下する」で書いたように、LDLコレステロールの変化量(mg/dL)は

=1.28x(炭水化物→飽和脂肪)ー0.24x(炭水化物→一価不飽和脂肪)ー0.55x(炭水化物→多価不飽和脂肪)

という計算式で推測できます。炭水化物を減らして飽和脂肪を増やす食事はLDLは増加します。当たり前の現象だと思います。逆に糖質過剰摂取でLDLが低下しすぎたのです。その低下したLDLによって基準値が決められてしまったのです。

根本原因は何か、本当にLDLコレステロールは有害なのか?そこから考えないとなりません。コレステロールに悪玉も善玉もありません。LDLのコレステロールもHDLのコレステロールも同じコレステロールなのです。問題はコレステロールを載せているLDLやHDLの質なのです。そこを無視してとにかく数値によって治療を行うのが通常の医師です。数値を正常にすることが治療だと信じているのでしょう。

 

「The regulation of ApoB metabolism by insulin」

「インスリンによるApoB代謝の調節」(原文はここ

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