以前の「その1」では、大して役に立たないアメリカ心臓協会(AHA)が推奨する「Life’s Essential 8」について書きました。
今回の研究では、Life’s Essential 8が示す心臓血管の健康およびその個々の測定基準と全原因死亡および心血管疾患死亡の関連を調べました。
前回の記事でも書いたように、Life’s Essential 8のスコアは100点満点で示され、個々の項目は食事、身体活動、ニコチン曝露、睡眠の健康、BMI、血中脂質、血糖、血圧から成り立っています。
スコアを低、中、高に分けて、0~49を低スコア、50~74中スコア、75~100を高スコアとしました。対象は30~79歳の合計19,951人のアメリカの成人です。高スコアは19.5%、低スコアは24.1%でした。追跡期間の中央値は7.6年です。食事や運動、喫煙、睡眠に関することはアンケートですのでデータの質は低いです。(図は原文より、表は原文より改変)
上の図は1000人年あたりの全原因および 心血管疾患の死亡率です。スコアが高い方が死亡率が低いです。
上の図は同様に、スコアによる累積の死亡率です。
下の表のように低スコアと比較して、中スコアで40%、高スコアで58%全原因死亡のリスクが低下しました。低スコアと比較して、中スコアで38%、高スコアで64% 心血管疾患での死亡のリスクが減少しました。
項目 | スコア、HR (95% CI) | 人口寄与割合 | |||
---|---|---|---|---|---|
0 ~ 49 | 50~74 | 75~100 | |||
75点以上 vs 75点未満 | 85点以上 vs 85点未満 | ||||
合計 | 1.00 | 0.60 (0.51–0.71) | 0.42 (0.32–0.56) | 33.4 | 33.6 |
食事 | 1.00 | 0.89 (0.77–1.04) | 0.81 (0.68–0.98) | 11.0 | 25.2 |
身体活動 | 1.00 | 0.79 (0.58–1.10) | 0.72 (0.60–0.87) | 16.5 | 21.5 |
ニコチン曝露 | 1.00 | 0.85 (0.64–1.15) | 0.61 (0.52–0.73) | 14.7 | 18.3 |
睡眠 | 1.00 | 0.80 (0.64–0.99) | 0.76 (0.63–0.92) | 5.4 | 6.1 |
BMI | 1.00 | 0.86 (0.72–1.02) | 1.09 (0.93–1.29) | なし | なし |
血中脂質(非HDLコレステロール) | 1.00 | 1.01 (0.80–1.28) | 1.12 (0.98–1.29) | なし | なし |
血糖値 | 1.00 | 0.66 (0.55–0.81) | 0.68 (0.55–0.84) | 4.7 | 7.3 |
血圧 | 1.00 | 0.85 (0.71–1.02) | 0.83 (0.72–0.95) | 5.8 | 18.2 |
多くの項目では高スコアで全原因死亡のリスクが低下しています。ニコチンで39%、血糖値で32%のリスク低下です。
人口寄与割合(特定のリスク要因への暴露がもし仮になかった場合に疾病の発生(今回は死亡)が何パーセント減少するか)は合計でスコア75点以上で33.4%、85点以上でも33.6%でした。さらに85点以上とした場合、最も人口寄与割合が高いのが食事で25.2%、次が身体活動で21.5%でした。しかし、BMIと血中脂質(非HDLコレステロール)の関与はありませんでした。
同じように心血管疾患の死亡について見てみましょう。
項目 | スコア、HR (95% CI) | 人口寄与割合 | |||
---|---|---|---|---|---|
0 ~ 49 | 50~74 | 75~100 | |||
75点以上 vs 75点未満 | 85点以上 vs 85点未満 | ||||
合計 | 1.00 | 0.62 (0.46–0.83) | 0.36 (0.21–0.59) | 42.9 | 70.6 |
食事 | 1.00 | 0.87 (0.63–1.22) | 0.87 (0.59–1.27) | 5.9 | 5.0 |
身体活動 | 1.00 | 1.40 (0.79–2.49) | 0.74 (0.53–1.03) | 17.8 | 15.2 |
ニコチン曝露 | 1.00 | 0.87 (0.42–1.79) | 0.78 (0.55–1.09) | 7.1 | 8.8 |
睡眠 | 1.00 | 1.07 (0.74–1.54) | 0.98 (0.71–1.34) | 2.2 | 2.2 |
BMI | 1.00 | 0.72 (0.53–0.99) | 0.75 (0.52–1.09) | 9.7 | 9.7 |
血中脂質(非HDLコレステロール) | 1.00 | 1.06 (0.73–1.54) | 0.92 (0.69–1.22) | 6.5 | 3.3 |
血糖値 | 1.00 | 0.68 (0.48–0.95) | 0.63 (0.44–0.89) | 10.3 | 10.2 |
血圧 | 1.00 | 0.94 (0.67–1.32) | 0.74 (0.54–1.01) | 12.5 | 16.2 |
合計では低スコアと比較して、中スコアで38%、高スコアで64% 心血管疾患での死亡のリスクが減少しました。それにもかかわらず、項目別でみると、心血管疾患のリスクを有意に低下させるのは血糖値だけでした。心血管疾患に大きく関与すると考えられている非HDLコレステロールは全くリスクを低下させません。人口寄与割合でも非HDLコレステロールは睡眠の次に低く3.3%しかありません。
非HDLコレステロールの多くを占めるのはLDLコレステロールです。ここでも低LDLコレステロールは心血管疾患も全原因死亡も減らせませんでした。それなのに心臓の専門家たちはLDLコレステロールに固執しています。
非HDLコレステロールの最低レベルをLife’s Essential 8の最高スコアとして定義しています。コレステロールを項目から外す必要があるように思えます。でもそうしたらスタチンが処方できません。意味がなくてもスタチンのためにLDLコレステロールは項目から外せないでしょう。患者のためではなく、医師や製薬会社のためにLDLはこれからも厳しく指摘されるでしょう。
「Association of the American Heart Association’s new “Life’s Essential 8” with all-cause and cardiovascular disease-specific mortality: prospective cohort study」
「アメリカ心臓協会の新しい「Life’s Essential 8」と全原因死亡率および心血管疾患特異的死亡率との関連:前向きコホート研究」(原文はここ)
清水先生、こんばんは。
日本動脈硬化学会のHPに「動脈硬化性疾患発症予測ツール」というものがあります。
自分の検査値を入れると、中リスク、10年以内の動脈硬化性疾患発症確率:3.4%と出ました。
やはりLDLコレステロールが高いことが影響していると思われます。
信頼性があるのかどうか怪しいものです。
じょんさん、コメントありがとうございます。
私も同じく中リスク、10年以内の動脈硬化性疾患発症確率:3.4%でした。
LDLを聞かれた時点で、予想がつきますね。