糖質摂取はLDLコレステロールを低下させる その2

以前の記事「その1」では、インスリンとLDLコレステロールについて書きました。今回はその続きです。

その前に甲状腺ホルモンのT3の話からです。糖質制限をすると、甲状腺のT3が低下します。よく甲状腺機能低下症と間違われることもあるでしょう。(「糖質制限のときの甲状腺ホルモン低下(低T3症候群)」参照)

絶食ではT3が24時間以内に減少し始め、数日でおよそ50%低下します。しかし、このT3の低下は飢餓によるものではなく、食事による炭水化物の減少に起因することが証明されています。炭水化物を等カロリーの脂質やタンパク質の置き換えると、同様にT3濃度は低下するのです。絶食後に脂質やタンパク質を摂取してもT3に影響はなく、50gのブドウ糖で増加し、約160 gのブドウ糖でT3が完全にもとのレベルに回復します。つまり、T3の基準値はあくまで糖質過剰摂取者のもので、糖質制限をしている人には当てはまらないと言えます。

それ以外にも糖質制限では脂肪細胞が減少するので、レプチンが減少します。レプチンは視床下部-下垂体-甲状腺(HPT)軸の複雑な生理学的調節の重要な構成要素であると考えられています。レプチンは甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌を分泌させて、甲状腺ホルモン分泌増加を起こします。糖質制限でレプチンが減少すれば、T3も低下します。

甲状腺機能正常の2型糖尿病の人を対象にした研究では、fT3の増加はBMI、体脂肪率、内臓脂肪含量、アディポネクチン、TNF-α、およびインターロイキン6 (IL-6)の上昇と関連していました。(ここ参照)糖質制限ではこの真逆のことが起きているのでT3は低下します。

さて、T3が減少するとLDLコレステロールにどのような影響があるのでしょうか?絶食はLDLコレステロールの上昇を起こします。このことは肝臓のLDL受容体が減少することによります。肝臓のLDL受容体は、血液からLDLをクリアランスするメカニズムです。先ほどからのT3の話をつなぎ合わせれば、糖質制限ではT3が減少し、LDL受容体が減少することにより血中のLDLコレステロールの増加がもたらされます。

逆に考えれば、どうしてもLDLコレステロールを低下させたければ、糖質を160g程度摂取すればインスリンもある程度分泌されて、T3も通常のレベルとなり、LDLは低下すると思われます。これを逆手にとれば、糖質をある程度摂取しないとLDLが増加し不健康だという仮説を持ち出すことができてしまいます。ロカボはそこから来てるのかな?

さらに、糖質制限では脂質の摂取量が多くなり、当然飽和脂肪酸の摂取量も増加します。この飽和脂肪酸もLDL受容体に影響を与えると考えられています。飽和脂肪酸の増加によりLDL受容体は減少し、LDLコレステロールが増加します。(ここ参照)

つまり、糖質制限では「その1」で書いたインスリンの低下、そして今回のT3の減少、飽和脂肪酸の摂取量の増加により、大きくLDLコレステロールが上昇する可能性があるのです。

逆に糖質摂取はLDLコレステロールを低下させるのです。

人間の進化の過程では、飽和脂肪酸の摂取量は良くわかりませんが、飢餓との戦いは珍しくなかったでしょう。絶食時間は長く、糖質摂取量はほとんどなく、インスリンもT3も現在よりも低値であることは容易に想像できます。そうすると、人間の初期設定でのLDLコレステロールは高くても当然ではないでしょうか?

糖質制限ではLDLコレステロール以外はほとんどすべてのパラメータが健康的と思われる方向へ改善していきます。LDLが例外なのではなく、恐らく高くなる方が健康的だと考えます。

糖質過剰摂取を推奨し、LDLコレステロールだけは基準値の範囲に収めて油断させれば、どんどんその裏で様々な糖質過剰症候群が進行していくでしょう。そうすれば誰が得をして誰が被害を被るのか?よく考えましょう。

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