有酸素運動による血糖値、インスリン、グルカゴン濃度の変化

コメントをいただきました。

いつも貴重なデータありがとうございます。
個人的なことではありますが、起床後飲まず食わずで1時間ヨガをして血糖値測ると110~120の値が多いです。
これは糖新生なのでしょうか?

空腹時血糖は70~90程度です。

ヨガの運動強度は非常に低く2.5METSしかないので、通常の家事程度でしかありません。ただ、安静時よりは体を動かすので、何らかの反応を体が示すのでしょう。

今回の研究では、有酸素運動によって血糖値やインスリン値、グルカゴン値がどのように変化するのかを分析しています。連続した30分以上の有酸素運動ですが、研究なのでトレッドミルまたは自転車エルゴメーターで一定の強度で実行されているものがほとんどです。ですので運動強度はヨガよりもかなり高めです。食後の運動前後または絶食状態での運動前後を分けて分析もしています。51の研究が対象でメタアナリシスを行っています。

まずは血糖値ですが、すべての研究を合わせると有酸素運動は安静時と比較して血糖値を有意に低下させませんでした。食後と絶食状態の研究を混ぜているのがおかしいので、別々の分析を見てみましょう。(図は原文より)

上の図の上側が食後、下側が絶食のものです。有酸素運動は食後では有意に安静時よりも血糖値を低下させました。有意と言っても平均でおよそ5mg/dLの減少です。ただし食後なので通常なら血糖値は大きく上昇するはずです。一方絶食状態では、有意ではありませんでしたが増加傾向でした。と言っても平均およそ3mg/dLでしかありません。上の図を見てわかるようにそれぞれの研究でかなりのバラツキがあります。当然、個人差も大きいと思います。

不思議なことに、運動別でみてみると、サイクルエルゴメーターでの運動では血糖値が有意に減少し、トレッドミルでの運動では血糖値は有意ではありませんが増加でした。何の違いか分かりませんが、重力がかかる運動かどうかが影響するのでしょうか?よくわかりません。

次にインスリンを見てみましょう。全体の分析では、有酸素運動は安静時と比較してインスリン濃度を有意に低下させました。まあ当然ですね。食後と絶食ではどうでしょうか?

上の図は食後と絶食での運動でのインスリンについてです。これはかなり面白い結果です。当然と言えば当然なのかもしれません。食後であれば通常インスリン分泌が増加しますが、有酸素運動によって安静時よりもインスリンが低下しています。(単位が日本の単位と異なっているので、6で割ると日本の単位になるようです。)42.63pmol/L(日本の単位で7.1μU/mL)の低下です。意外と少ない印象です。運動を始めるタイミングもあると思いますが、食後そのまま安静にしていれば当然インスリン分泌が増加しますが、運動すると低下します。運動はインスリンがなくてもブドウ糖を取り込みます。

一方、絶食状態ではインスリン分泌に変化はありません。絶食状態なので通常あまりインスリンは出ていません。出ていないので運動でも低下しません。空腹時のインスリンが高い人ではどうなるかはわかりません。上の図で唯一絶食状態での運動でインスリン値が低下した研究を見てみると、下の図のように△(一晩絶食後に朝食なしで運動した場合)では運動でインスリン分泌が低下しています。ベースラインは約100pmol/Lなので、日本の単位では約17μU/mLという非常に空腹時高インスリンになっています。目盛りが良くわかりませんが、運動後インスリン値が3分の1くらいに低下しています。(図はこの論文より)

このことは、空腹時でもインスリン値が高い肥満の人が痩せるヒントになる可能性があります。つまり、空腹時高インスリン血症だと体の脂肪をエネルギーにしづらいのですが、空腹のまま運動するとインスリン値が低下して、脂肪を燃焼しやすくなると考えられます。私は外来では肥満の人には空腹時に運動することを勧めています。

ではグルカゴンはどうでしょうか?これは数が少ないので、この分析では食後と絶食時を分けていません。

全体としては有酸素運動はグルカゴンを上昇させました。絶食で行われた研究を2つ見てみましょう。(図はこの論文この論文より)

上の図はグレーが高強度の運動、黒丸が中強度、白丸がコントロール(つまり安静)です。BLから運動しはじめ0のところまで運動を行い、2時間後に食事です。図のAの血糖値は高強度では大きく上昇していますが中強度ではわずかな変化です。図のDのインスリンは高強度でほんのわずか上昇していますね。さて図のCがグルカゴンの変化です。高強度では非常に大きくグルカゴンは増加していますが、中強度ではその半分ほどの増加です。つまり、強度が高いほどグルカゴンの分泌は増加して、ブドウ糖を作ろうとするのでしょう。

上の図は運動なし●がコントロール、□が有酸素運動、△は筋⼒トレーニング、 ♦は複合運動です。有酸素運動も筋トレも運動直後に血糖値がわずかに有意に増加しています。インスリン値は運動を始めて30分では低下していませんでしたが、有酸素運動では直後に大きく低下しました。図のIがグルカゴンです。筋トレでは増加していませんが、有酸素運動では30分後まで増加を認めていました。運動の種類によってグルカゴンやインスリンの分泌の変化は変わるようです。

そうすると、有酸素運動ではインスリンは低下することが多く、それに比べてグルカゴンが増加し、血糖値は場合によって上昇する可能性があると考えられます。

しかし、糖質制限をしている場合はこのような研究の結果がそのまま当てはまるかどうかはわかりません。特にかなり糖質を制限している場合には、生理的にインスリン抵抗性が起きていて、さらに空腹時であればちょっとした運動でも血糖値が上昇する可能性があるかもしれません。もちろん危険なほど血糖値が上がるわけではありませんし、自然な代謝によるものでしょう。

「The Effect of a Single Bout of Continuous Aerobic Exercise on Glucose, Insulin and Glucagon Concentrations Compared to Resting Conditions in Healthy Adults: A Systematic Review, Meta-Analysis and Meta-Regression」

「健康な成人の安静時と比較した、グルコース、インスリン、グルカゴン濃度に対する連続有酸素運動の 1 回の影響: 系統的レビュー、メタ分析、メタ回帰」(原文はここ

2 thoughts on “有酸素運動による血糖値、インスリン、グルカゴン濃度の変化

  1. yogaも様々で、ビクラムヨガ(ホットヨガの元祖)はハードですが、1時間行うとリフレッシュできて柔軟性・バランス感覚も維持向上します。

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