SGLT2阻害薬と多発性嚢胞腎

コメントをいただきました。

多発性嚢胞腎で、クレアチニン1.8の50代女性です。糖質制限がよいとのこと。フォシーガを検討してみようと思っています。多発性嚢胞腎にも良い薬なのでしょうか?

SGLT2阻害薬は非常に色々な有益な効果があるようですが、一時期のスタチンのことを思い出してしまいます。スタチンも夢のような薬に言われて、様々な有益な効果があると言われていました。私は所詮薬なので、良いこともあれば悪いこともあり、人間のメカニズムを変化させる以上、何らかの問題が表面化する可能性はあるのではないかと思っています。

多発性嚢胞腎に対してSGLT2阻害薬は有効なのでしょうか?現在のところ、SGLT2阻害薬は多発性嚢胞腎、ループス腎炎、ANCA関連血管炎、高度の免疫抑制療法を受けている患者以外の慢性腎臓病に対して、腎保護効果を発揮するという立場をとっていると思います。つまり、多発性嚢胞腎には一般的に推奨されていません。それは、有効性が確認されていないため、つまりエビデンスが無いからです。

人間ではなく動物実験上ではどうでしょうか?SGLT1 および SGLT2を阻害する非選択的 SGLT 阻害のフロリジンは、ラットモデルにおける嚢胞の成長と腎機能の低下を遅らせることを示しました。(ここ参照)しかし、次の研究では逆の影響が起きていました。

「Effect of Sodium-Glucose Cotransport Inhibition on Polycystic Kidney Disease Progression in PCK Rats」

「PCKラットにおける多発性嚢胞腎の進行に対するナトリウム-グルコース共輸送阻害の効果」(原文はここ

SGLT2阻害薬により血中のクレアチニン濃度が6週間では増加する傾向があり、血中のBUN濃度は3週間目と6週間目で有意に高くなりました。さらに、アルブミン尿は6週間で4倍になりました。

嚢胞の数は変化しませんが、腎臓が大きくなり、嚢胞もかなり大きくなりました。超音波での測定により、総腎臓容積が35%高く、嚢胞容積が2倍高く、腎臓の総重量が23%増加してしまいました。

SGLT2阻害薬は近位尿細管の中でも90%のグルコースの再吸収を行う近位曲尿細管に作用します。つまり、SGLT2阻害薬は近位曲尿細管以降に流れるグルコースを増加させることも意味します。多発性嚢胞腎は様々な尿細管から発生すると考えられているので、嚢胞腎にグルコースが関係しているのであれば、SGLT2阻害薬は悪影響をもたらすことになります。

他のマウスの研究ではグルコースは嚢胞拡大の促進における重要な要素のようです。グルコースをブロックすると嚢胞の成長がブロックされるようです。(ここ参照)

現在SGLT2阻害薬が多発性嚢胞腎に効果があるのか、安全なのかの臨床試験が行われているはずです。その結果が出るまでは安易に手を出さない方が良いかもしれません。

それよりも糖質制限でしょう。

4 thoughts on “SGLT2阻害薬と多発性嚢胞腎

  1. 糖質制限でグルコースそのものが少ない場合は再吸収量も少なそうですね。
    それがどのように作用するのかは不明かとは思いますが。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      わざわざ捨てるために摂取する糖質って意味があるのでしょうかね?体にとって貴重なので再吸収するわけですし、
      現在の溢れるほどの糖質摂取がどれほど異常なのかを考えた方が良いでしょう。

  2. 私は田舎の後期高齢の町医者です。いつも興味深く拝見しています。私自身が糖尿病で10数年前より糖質制限をしています。江部先生の本の他、色々調べて実践しています。しかし、口が卑しいものですから、主食といわれるものは食べませんが、奥が作るものですから、副食に関しては、なかなか難しくヒトインシュリンを併用しています。今のところHbA1c7.5%ぐらいで推移しています。また、スタチンに対する考え方も先生の考え方に同意します。そもそも、コレステロールが高い方が長生きなのに、多様な副作用のある薬を心臓病予防のためと言って投与しなければいけないのか、自分なりに本(コレステロール 嘘とプロパガンダ、作られたステロール悪玉説、日本b脂質栄養学会編のコレステロールガイドライン(2010)、作用メカニズムから見たコレステロール悪玉説(2015)を読んで、このようなものを患者さんに投与してはいけないと思いつつも、冠動脈ステント術を受けた後にはスタチン、エゼミチブチブなどが投与され、何かの理由をつけて中止すると、次に循環器科を受診した時に、患者さんが叱られ、こちらにも厳しい返書が届くため仕方なく投与せざるを得ません。女性も生理が上がった後には、コレステロールが上昇しますが、多くの女性がコレステロール悪玉説を信じており、私の説明で中止する患者さんは五人に一人ぐらいで、自分の無力さを知らされています。若い時代に責めて論文を読めるだけの語学力を身に着けていればと反省しています。
    年を取って医学論文の掲載された本などは、一切読まず、ただ薬のチェックという本を取っています。利益相反のない団体が出版している薄っぺらな本ですが、外国の同様の団体とも交流があり、大変興味深く読んでいます。最近ではコクランのトップが利益相反のある人と交代し、コクランも信用を無くしつつあるようです。ほかにもサムスカ、ハンプ、ラジカットなどは、ヨーロッパなどでは認可が下りず、日本国内でしか使われていないとか、毎号面白く拝読しています。
    これからも先生のHP、楽しみしています。応援しています。

    1. 喜田 正良(キタマサヨシ)さん、コメントありがとうございます。

      ありがとうございます。循環器のスタチン信仰はものすごいですからね。飯のタネですし。
      今は論文も製薬会社などに乗っ取られてしまったような感じなので、何を信じたら良いかは自分で判断するしかありません。

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