安易に眠れないからといって、睡眠薬を飲んでいる人がいます。そして、安易に睡眠薬を処方する医師もいます。基本的に私は処方しません。まずは眠るときの環境、生活を変えて様子を見てもらいますが、その後はほとんどその患者さんは眠剤を欲しいと言いません。眠れるようになったわけではなく、他の医師から処方されていることが多いです。
睡眠薬、抗不安薬の多くはベンゾジアゼピン系の薬です。非常に依存性の高い薬です。そして長期的に神経機能にも影響があります。
今回の研究では、現在および元ベンゾジアゼピン使用者1,207人(ベンゾジアゼピンを現在も全量使用している人136人、漸減している人294人、完全に中止している人763人)を対象にインターネット調査を実施し、ベンゾジアゼピン使用に起因すると考えられる症状や有害な生活上の出来事を調査しました。ベンゾジアゼピンが処方された症状や状況については、処方の最も一般的な理由は、状況不安(43.7%)、不眠症(40.3%)、パニック発作(39.9%)、うつ病(33.0%)、全般性不安障害(23.7%)でした。全ての回答者のうち、88.1%が不安、緊張、恐怖を感じ 、86.9%が睡眠障害、 86.2%のエネルギーレベルの低下、 85.3% は集中力の低下や注意力散漫があると報告しました。睡眠障害や不安に対して処方されるはずなのに、多くは不安や睡眠障害を訴えていますね。76.6% が、症状の持続期間が数か月または1年以上であると報告しました。(図は原文より)
上の図は1年以上続いた症状です。多くの症状において1年以上も持続すると50%以上の人が報告しています。全回答者の半数以上 (54.7%) は、リストされた23の症状のうち17以上の症状を経験しました。そして、そのうち 40%以上が症状が1年以上続くと報告しています。
上の図のように、ベンゾジアゼピンが最初に処方された理由と一致しない症状が長期に持続している人が非常に多くいます。
多くの人は、生活のさまざまな分野で悪影響が生じたと報告しました。回答者の90%以上が、ベンゾジアゼピンの使用が人生における一般的な悪影響の1つ以上を引き起こしていると考えています。回答者の大多数 (79.3%) は 6~13の影響を報告しました。これらには、仕事、娯楽やレクリエーション、家事やその他のことを行う能力、車の運転や歩行の能力、社会的交流や友人関係、配偶者や家族との関係への悪影響が含まれます。
さらに54.4%で自殺念慮または自殺未遂を報告しました。
ベンゾジアゼピンを全量服用している人は、生活への悪影響の割合が最も低い傾向がありました。つまり止めようとすると悪影響が出やすくなり、止めづらい薬なのです。
上の図は1年以上ベンゾジアゼピンを中止した人(763人のうち426人)の生活への悪影響の重症度です。表の真ん中は1~3と比較的軽度や中等度の影響、右側が重度またはそれ以上です。1年以上ベンゾジアゼピンを中止した人によって報告された生活への悪影響は、55.9%~83.6%で重度またはそれ以上であると考えられました。
つまり多くの人は普通の生活さえ営むことが難しくなってしまっているのです。これはベンゾジアゼピンへの曝露による脳の変化の結果であると考えられます。ベンゾジアゼピン誘発性神経機能障害(BIND)とも言われています。
ベンゾジアゼピンの急性離脱についてはよく知られているでしょう。しかしベンゾジアゼピンは、中止した人、または中止しようと漸減中の人の生活機能を損なう、しばしば苦痛で持続的な症状を起こしてしまうのです。一部のベンゾジアゼピン使用者にとって、これらの症状は重篤で人生を変えるものであり、まれではありません。当初訴えていた症状とは別の症状が発生し、それが持続してしまいます。
安易に薬に頼るべきではありませんし、医師も処方するべきではありません。しかし、睡眠薬を処方すれば、その患者さんはずっと通ってくれる存在になるのも確かなので、それを利用している医師もいるかもしれません。
処方する前にこのような危険性がある薬であることは十分に説明すべきでしょう。
多くの病院では、ちょっと眠れないとすぐに睡眠薬を患者に提供してしまいます。非常に馬鹿げています。もちろん1回や2回使用しても問題ないでしょう。しかし医療側はこれらの薬に対するハードルは非常に低いです。
普段の生活でも眠れないことに敏感になり過ぎてはいけません。眠れなければ眠れないで良いのです。眠くなってからベッドに行きましょう。日中に様々な活動をして体を疲れさせましょう。まずは眠れる環境を整えましょう。
薬には副作用(罠?)があるのは当たり前です。そして、その中には取り返しがつかないものまであるかもしれません。
「Long-term consequences of benzodiazepine-induced neurological dysfunction: A survey」
「ベンゾジアゼピン誘発性神経機能障害の長期的な影響: 調査」(原文はここ)
なんらかの症状に対しての処方が新たな症状・依存を招いてやめようにも止められず、潤うのは○○ばかりですね。