糖質制限とSGLT2阻害薬 どっち?

糖尿病治療の世界ではSGLT2阻害薬が現在一押しでしょう。しかし、この薬の効果を認めれば認めるほど、糖質制限の素晴らしさを認めざるを得なくなってきています。あれだけケトン体を悪者扱いしていたのに、SGLT2薬の効果のメカニズムの一つがケトン体増加にあるとわかると、ケトン体は有益なものに変わりました。手の平はすぐにかえるのです。

それにも関わらず、日本糖尿病学会は糖質制限を推奨しません。あくまで糖質過剰摂取させて、薬で治療なのでしょう。

腎臓のメカニズムとして、様々な物質をろ過したり、排泄したり、再吸収したりします。糖質過剰摂取では高血糖となりますが、腎臓の糸球体でろ過されたブドウ糖は、およそ180 mg/dLの限界まで近位尿細管で再吸収されます。それを超える血糖値だと、尿にブドウ糖が排泄されます。この再吸収の主役はSGLT2で、再吸収の80~90%を担い、残りの10~20%をSGLT1が担います。

糖質過剰摂取で高インスリン血症となると、用量依存的にSGLT2の発現を増大させ、この再吸収システムの能力を増大させ、ブドウ糖だけでなくナトリウムも再吸収する能力が増大するという悪循環を促進します。つまり、これにより高血糖とナトリウムおよび体液貯留が維持および悪化し、糖尿病のコントロールと高血圧が悪化します。

では、塩分(ナトリウム)は1日にどれくらい糸球体でろ過されているのでしょう?1 日にろ過されるナトリウムは多く見積もると 140mEq/l×150 l/day=21,000 mEq、約1200g!だそうです。(ここ参照)他の論文では1日に500gを超えるナトリウムがろ過されると書かれています。(ここ参照)いずれにしても毎日驚異的な量のナトリウムがろ過されているのです。ナトリウム1200gとすると食塩に換算すると3048g、ナトリウム500gとしても食塩1270gです。1日に塩分10g摂取したところで大した量ではないことがわかります。

ろ過されたナトリウムのうち、およそ70%は近位尿細管で再吸収され、残りの30%がヘンレループという場所に到達し、ここでナトリウムはおよそ1/6の濃度になるまで再吸収されて、およそ5%(約 1000 mEq:60 g)のみが遠位尿細管以降に送られることになります。最終的に尿中には 1000 mEq(約 60 g)近く理論的には排泄が可能ということになります。

正常な状態では、ナトリウムの6%のみがSGLT2経由で再吸収され、SGLT1経由ではほとんど再吸収されないと推定されています。糖質過剰摂取後や糖尿病状態で血糖値が上昇すると、近位尿細管で再吸収されたナトリウムの最大22.8%がSGLT2により保持されると推定されています。2型糖尿病患者における最大SGLT2ブドウ糖輸送量は500~600 g/日と推定されています。そうすると、SGLT2のナトリウムの再吸収は、ナトリウムろ過が500gとすると、 500 g/d× 70%×22.8%=80g /dです。ナトリウムろ過が1200gだとすれば1200g/d× 70%×22.8%=192g /dです。

SGLT2 閾値を超えた場合にSGLT1でも再吸収が行われると考えると、高血糖の状況では、近位尿細管でSGLTで再吸収されるナトリウムが最大100~240g程度になる可能性があるのです。そうすると、ほとんど尿中排泄がなくなるとも考えられます。もちろん、恐らく計算上ほど再吸収はないのかもしれませんが。

そうだとすると、塩分制限ってなんのためでしょう?ナトリウムの再吸収、排泄は自動制御のはずです。人間のメカニズムは、塩分をたくさん摂れば排泄を増やし、塩分が足りなければ再吸収を増やすだけです。その自動のメカニズムは糖質によって崩されてしまっているのです。糖質過剰摂取により塩分の過剰な再吸収が発生しただけです。塩分が悪いのではなく、糖質が悪いのです。SGLT2薬の利点を示すメカニズムは糖質制限で達成できます。もちろん、進行してしまった糖尿病の場合にはSGLT2薬が必要なのかもしれません。

SGLT2薬は、これまでの糖尿病薬と比較すると、様々な利点が認められています。しかし、比較するのはあくまでこれまでの糖尿病薬です。糖質制限には敵いません。所詮SGLT2薬による1日のブドウ糖の排泄量は60g~100gです。糖尿病の状態にもよりますが、糖質過剰摂取のままで十分な血糖値、HbA1cの低下は得られません。(「GLP-1受容体作動薬にSGLT2阻害薬を加えたら1年後どうなる?」参照)

本当に必要なのは、薬でも塩分制限でもなく、糖質制限です。

「The “discordant doppelganger dilemma”: SGLT2i mimics therapeutic carbohydrate restriction – food choice first over pharma?」

「「不調和なドッペルゲンガーのジレンマ」: SGLT2i は治療上の糖質制限を模倣 – 医薬品よりも食品の選択が優先?」(原文はここ

2 thoughts on “糖質制限とSGLT2阻害薬 どっち?

  1. 糖質過剰摂取で起きた、糖尿病のコントロールと高血圧の悪化。
    副作用が怖い薬での検査数値合わせより、糖質制限の方が安全で効果的なのは自明。

    現在の医療は健康の維持改善よりも業界の利益優先に見えます。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      食事で病気になるのに、食事を変えない医療。
      食事改善で病気が良くなってしまっては医療業界は困りますから。

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