GLP-1受容体作動薬にSGLT2阻害薬を加えたら1年後どうなる?

GLP-1受容体作動薬のリラグルチドにSGLT2阻害薬のルセオグリフロジンを加えたら、どれほどの効果があるでしょうか?

今回の研究では、そんなことを日本人の2型糖尿病の人に52週間行いました。対象はリラグルチド単剤療法を12週間以上処方している62人で、ベースラインでの平均年齢58.4歳、平均HbA1c8.52、平均体重70.93kg、平均BMI26.53でした。他の糖尿病薬は研究終了まで禁止されました。食後の血糖値を測定するときの食事はエネルギー量516 kcal (タンパク質19.2%、脂質19.7%、炭水化物58.4%)でした。炭水化物がおよそ75gですね。(図は原文より、表は原文より改変)

ベースライン12週目24週目36週目52週目
HbA1c (%)8.52±1.087.94±0.957.88±0.937.83±0.987.74±0.91
−0.54−0.58−0.68−0.68
空腹時血糖値 (mg/dL)183.7±35.9159.7±28.2154.8±29.5149.2±25.0150.1±25.8
−23.8−28.8−35.0−32.1
食後2時間血糖値 (mg/dL)292.9±68.1236.0±57.4229.3±53.8
−56.7−56.5
食後2時間血糖値曲線下面積0 ~ 2 時間(mg·h/dL)558±97.2481±78.4470±74.4
−77.0−80.5
糖化アルブミン (%)23.47±4.3920.37±3.5820.41±3.7220.44±4.0920.31±3.90
−3.06−2.83−2.85−2.57
体重(kg)70.93±16.4069.47±16.4668.91±16.7968.49±16.7668.64±17.01
−1.65−2.52−2.86−2.71
体重の変化 (%)0.00±0.00−2.45±1.92−3.65±2.42−4.20±2.84−3.95±2.63
−2.45−3.65−4.20−3.95
腹囲(cm)92.88±12.1191.45±12.4290.20±12.6289.85±12.5790.15±12.84
−1.39−2.63−3.09−2.86
空腹時インスリン (μU/mL)12.237 ± 9.03110.287 ± 7.73310.003±7.72710.368 ± 8.3469.251±7.735
−1.926−2.469−2.161−3.490
2時間インスリン (μU/mL)50.065±47.39042.358±35.11244.051±38.282
−8.407−9.020
インスリン曲線下面積0 ~ 2 時間(μU h/mL)68.5±58.463.5±49.267.5±61.0
−5.81−4.59
CPR(C-ペプチド) (ng/mL)1.92±0.941.81±0.911.81±0.941.73±0.861.70±0.88
−0.09−0.08−0.17−0.19
食後2時間CPR (ng/mL)5.04±2.345.27±2.565.20±2.45
0.230.15
食後CPR曲線下面積0 ~ 2 時間(ng h/mL)6.87±3.177.27±3.397.09±3.51
0.3840.202
空腹時グルカゴン (pg/dL)94.0±26.398.5±26.199.2±23.698.3±22.0104.5±32.4
4.85.74.411.1
食後2時間グルカゴン (pg/mL)92.4±23.493.9±21.498.5±22.8
1.77.4
食後グルカゴン曲線下面積0 ~ 2 時間(pg h/mL)203±51.3207±50.9224±57.3
4.5223.3
松田インデックス3.41±2.334.61±3.555.32±4.44
1.261.94
HOMA-R5.46±3.894.10±3.283.79±2.923.79±3.053.41±2.88
−1.34−1.76−1.80−2.19
HOMA-β (%)40.8±36.640.9±33.143.7±37.347.5±42.942.2±40.0
0.11.85.5−1.4

上の表は様々なパラメータの推移と変化量です。

HbA1cはベースラインから2週目までに大幅に減少し、この減少は 52 週目まで維持されました。大幅と言ってもベースラインから 52 週目までのHbA1cの平均変化は、たった-0.68%です。8.52が7.74になったにすぎません。空腹時血糖値と体重も2週目以降大幅に減少し、これらの減少は52週目まで維持されました。ベースラインから 52 週目までに空腹時血糖値は-32.1mg/dLです。もともとの空腹時血糖値が180を超えていたので、52週間後でも空腹時血糖値はまだ150です。食後2時間血糖値はベースラインで292.9mg/dLだったのが229.3です。空腹時血糖値も食後血糖値スパイクもこんなレベルで1年も研究に参加させられて非常にかわいそうです。

体重減少も大幅と言っても-2.71kg でした。

どの値も改善はしていますが、非常にショボいレベルで、健康には程遠いものです。1年間でもこの程度なのです。これって治療と呼べるでしょうか?

 

上の図は体重減少が脂肪(白)と除脂肪(つまり筋肉:黒)のどちらが減少したのかを示しています。これはほとんどが脂肪の減少でした。

上の図は食後の血糖値、インスリン、Cペプチド、グルカゴンの推移です。52週で有意差があると言っても、臨床的にはほとんど意味のないレベルでしょう。そもそも食後の血糖値スパイクが200を超えるような食事をしていることが間違いです。

重大な有害事象は4件で、急性心筋梗塞と脳幹梗塞も起こっています。低血糖症は5人(6.6%)に発生しました。

糖尿病の薬の実力はこんなものです。糖尿病の専門家は高い血糖値を下げることを考えますが、我々糖質制限を行っているものは血糖値を上げないことを考えます。原因に対処しているのはどっちでしょうか?糖尿病の標準治療は血糖値を下げることばかり考えるので、薬がどんどん増えます。血糖値のコントロールが悪かったり、痩せない場合は患者のせいにするのです。いつまでたっても寛解には持ち込めません。不必要な糖質摂取を止めれば血糖値は上がらなくなります。上がらなければ薬も必要なくなります。早い段階から糖質制限を始めれば、すぐに寛解するでしょう。

この論文の結論には次のように書かれています。

「リラグルチドにルセオグリフロジンを加えると忍容性が高く、血糖コントロールが大幅に改善され、体重(特に脂肪量)の減少につながります。この併用療法は、過体重または肥満の日本人2型糖尿病患者にとって魅力的な治療選択肢となる可能性があります。」

糖尿病専門医の血糖コントロールの目標は非常に緩いので、これでも大幅な改善です。これくらいで喜んでいるのでしょう。体重も平均で3kgも減っていません。そしてGLP-1(またはどちらか)を止めたとしたら、すぐに体重はもとに戻るでしょう。(「効果を維持するためにはやめることができないGLP-1受容体作動薬」参照)つまり、ずっと糖尿病のままでいるための治療が標準治療です。

糖尿病は糖質過剰症候群です。糖質制限以外に選択肢はありますか?

 

「Sodium-glucose cotransporter-2 inhibitor luseogliflozin added to glucagon-like peptide 1 receptor agonist liraglutide improves glycemic control with bodyweight and fat mass reductions in Japanese patients with type 2 diabetes: A 52-week, open-label, single-arm study」

「SGLT2阻害薬ルセオグリフロジンをGLP1受容体作動薬リラグルチドに添加すると、日本人2型糖尿病患者の体重と体脂肪量が減少し血糖コントロールが改善する:52週間の非盲検単群研究」(原文はここ

2 thoughts on “GLP-1受容体作動薬にSGLT2阻害薬を加えたら1年後どうなる?

  1. 研究者には悪いですが、ショボイ結果。
    研究者自身は決してショボイとは
    思っていないのでしょうが、
    一般人とは感覚が乖離してますね。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      一般の人も糖尿病治療はこれくらいがせいぜいだと思い込まされています。

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