認知症の新薬レカネマブは本当に大丈夫?

アルツハイマー病の新薬とされるレカネマブ(商品名レケンビ)が厚労省で承認されてしまいました。アルツハイマー病は脳内にアミロイドβという異常なたんぱく質がたまることが原因と考えられていましたが、これは原因ではなく結果でしょう。このレカネマブは病気のアミロイドβを除去し、進行を抑えることを狙う薬です。アミロイドβが原因ではないので治す薬ではありません。

早期発見が「早期絶望」にならない、なんてことを書いている記事もありますが、実力のほどはどうなんでしょう?

レカネマブの有効性の主要評価項目は、18 か月時点のベースラインからのCDR-SBというスコアの変化です。CDR-SBの評価法を見てみましょう。(ここ参照)

健康
(0)
認知症の疑い
(0.5)
軽度認知症(1) 中等度認知症
(2)
重度認知症
(3)
記憶 記憶障害なし
若干の物忘れ
一貫した軽い物忘れ、出来事を部分的に思い出す良性健忘 中等度記憶障害、特に最近の出来事に関するもの、日常生活に支障 重度記憶障害、高度に学習した記憶は保持、新しいものはすぐに忘れる 重度記憶障害、断片記憶のみ残存
見当識 見当識障害なし 左同 時間に対しての障害あり。検査では場所・人物の失見当はないが、時に地理的失見当あり 常時、時間の失見当、時に場所の失見当 人物への見当識のみ
判断力
問題解決
適切な判断力
問題解決
問題解決能力の障害が疑われる 複雑な問題解決に関する中等度の障害、
社会保持判断は保持
重度の問題解決能力の障害
社会的判断力の障害
判断不能
問題解決不能
社会適応 社会的グループで普通の自立した機能 左記の活動の軽度の障害、その疑い 左記の活動にかかわっていても自立した機能が果たせない 一般社会では自立した機能を果たせない 左同
家庭状況
興味・関心
生活、趣味、知的関心が保持されている 左同、若干の障害 軽度の家庭生活の障害、複雑な家事は障害、高度の趣味・関心の喪失 単純な家事のみ限定された関心 家庭内不適応
介護状況 セルフケア完全 左同 ときどき激励が必要 着衣、衛生管理などの身の回りのことに介助が必要 日常生活に十分な介護を要する、しばしば失禁

上の表のように6項目に関して0点、0.5点、1点、2点、3点を付けます。合計は0~18点の範囲で、0.5~6のスコアは初期のアルツハイマー病を示します。点数が高い方が悪い状態です。今回の治験ではベースラインでの平均CDR-SBスコアはレカネマブ群とプラセボ群の両方で約3.2でした。

では下の図(エーザイのニュースリリースより)を見てみましょう。

図はCDR-SBというスコアの変化量の推移を示しています。6か月後から有意な差が出て、18か月後ではレカネマブ群で1.21、プラセボ群で1.66悪化しました。その差0.45!6項目のうち、1項目で0→0.5または0.5→1となるだけで0.5点の違いです。つまりほんのわずかな違いです。一応治験は二重盲検試験なので、レカネマブ群かプラセボ群かはわからないはずですが、レカネマブ群で最も一般的な有害事象は静脈への注入関連反応(レカネマブ群で26.4%、プラセボ群で7.4%)です。どんな反応かはわかりませんが、何らかの反応があるのであれば、自分でも医師でもレカネマブ群かどうかは気付いてしまいます。医師が気付いた場合に、CDR-SBの評価に影響が出る可能性は否定できません。人間の評価なので完全に客観的にはできませんし、認知症の症状は日によって変動もあるので、0.5点の差がどこまで臨床的に意味があるのかは疑問です。

0.45点悪化を抑制したので27%抑制!と相対的な効果を示して、過大広告に見えてしまいます。プラセボ群で12か月のスコアとレカネマブ群で18か月のスコアがほとんど一致するので、1年6か月で6か月分は症状悪化を抑制できている可能性はあります。

下の図は他の評価スコアなどの図です。(図は原文より)

上の図C~Eは詳細は省略しますが、認知症の評価のCDR-SB以外のスコアです。どれもCDR-SBと同様で、レカネマブ群では悪化スピードを抑制していますが、どれも確実に悪化しています。改善しているものはありません。

では図のBを見てみましょう。これはPET検査を使用してアミロイドを評価したものです。プラセボでは変化なく、レカネマブ群では大きく減少しています。下の図のように確かに減少しています。(下の図はここより)

こんなに大きくアミロイドβが減少しているのに、認知症の症状は改善せず、悪化しています。プラセボよりはスピードが遅くなっているだけです。つまりアミロイドβは原因物質ではなく、促進因子の1つというだけでしょう。

さて、この薬の問題は本当に安全なのか疑問があるということです。アミロイド関連の画像異常で脳に微小出血を17.3%に認めています。プラセボでは9%なので明らかに多いです。微小出血だけでなく0.6%、5人で大出血を起こしています。脳表ヘモジデリン沈着症も5.6%に認められています。これは持続的にあるいは反復して出血することにより、赤血球中の鉄がヘモジデリン脳に沈着することによるものです。6人に1人以上で脳に何らかの出血の兆候があるのですから、大きな問題です。他にもレカネマブ群の12.6%で脳の浮腫を認めています。そして2.8% がそれによる症状があり、一般的に報告される症状は、頭痛、視覚障害、混乱でした。

この治験後、18カ月後も希望してレカネマブの投与を受けた1608人のうち2人が、プラセボ群の897人のうち1人がそれぞれ脳出血で死亡しました。エーザイによると、レカネマブ投与を受けて死亡した2人には合併症があり、脳梗塞の治療などに使われる抗凝固薬を併用していたので、「レカネマブが原因ではない」との見解を示しているようです。でも、治験での脳の出血が多いことを見ると、非常に怪しいですね。こんな薬を承認してしまって良いのでしょうか?安全性が確かめられていないワクチンが簡単に承認されるような時代だから仕方がないのでしょうね。

この薬、アメリカでは年間約380万円かかるようです。日本も同程度だとすると、3割負担では年間100万前後ですね。

脳出血リスクを恐れながら、治るわけでなく少し進行スピードが落ちる程度の薬に高額な医療費。喜んで使う医師は多いでしょう。検査も高いし、治療費も高い、患者はどんどん増加中。日本の健康保険制度が維持できるのでしょうか?

アルツハイマー病は糖質過剰症候群で3型糖尿病です。(「血糖値スパイクは認知症のリスクを増加させる」「糖尿病や糖尿病予備軍は軽度認知機能障害から認知症になるスピードを加速させる」「認知症になる前の14年間を追ってみると・・・」など参照)糖質制限で予防することが第一でしょう。

「Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease」

「初期アルツハイマー病におけるレカネマブ」(原文はここ

4 thoughts on “認知症の新薬レカネマブは本当に大丈夫?

  1. 画期的な新薬扱いで大々的に報道
    されているので、
    また売れるのでしょうね。
    患者というより製薬会社にとっての
    朗報。

  2. 報道を見ていると進行を3年程度遅らせる効果があると言う事ですが、高額な薬価になりそうです。そうまでして一生のうちの3年遅らせることによって社会、家族、本人にどのような幸福をもたらすのでしょう。決してし進行が止まるわけでも治るわけでもありません。いづれ発症するか先に死ぬかのどっちかです。
    この程度の改善?なら糖質制限の方が遥かに効果があるように思います。しかもタダですしね。

    1. 西村典彦さん、コメントありがとうございます。

      仰る通り、3年程度進行を遅らせたとしても、症状は程度問題で、決して改善したり寛解したりはしません。
      それでいて脳出血のリスクがあります。高額な医療費に見合う効果は期待できないでしょう。
      一方ケトン体は症状が改善しますので、糖質制限の方が良いと思います。

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