大人になってからの脂肪細胞数の増加

脂肪細胞の数は、成人でおよそ300億個、肥満者では400~600億個にも達すると言われています。脂肪細胞の直径は、普通体重では70~90µm、どれほど肥満になっても約130µmでほとんど頭打ちになります。1個の成熟脂肪細胞には通常0.5~0.9μg、上限1.2μgの脂肪が含まれているそうです。600億個で上限の1.2μgの重さとすると、72㎏となります。

170 cm、 64kg(BMI約22)の正常体重の場合,体脂肪率を約20%として,脂肪量は12.8kgです。正常体重の1個の脂肪細胞の直径が70~90µmなので、平均して80µmとしておきます。それがすべての細胞で130µmまで肥大したとして、直径は1.625倍なので体積は4.3倍です。12.8㎏×4.3=55㎏です。脂肪細胞が全て最大に肥大したとしても55㎏であり、その場合の筋肉量を一定としても体重は106㎏です。この場合体脂肪率は52%、BMIは36.7です。

逆にその後、最大130µmまで肥大した脂肪細胞を正常体重の直径での小さい方の70µmまで小さくできたとしたら、55㎏ある脂肪量は8.6㎏まで落とせます。体重は60㎏、BMI20.7、体脂肪率14%です。

例えばこの人の脂肪細胞が300億個ではなく、子供のころに太っていて、600億個あったとしたら、脂肪量を同じにするにはサイズが半分の40µmにならなければならないので、そのすべてが130µmまで肥大すると、脂肪量は34倍になり、439kgにもなってしまいます。単純計算過ぎますが。

最初に書いた成熟脂肪細胞の脂肪量の上限を考えると、439kgというのは非現実的な数字です。

そもそも脂肪細胞が600億個まで増加している人がどれほどいるのか?下で示すようにBMI43の女性でも400億個程度です。

いずれにしても脂肪細胞の数が非常に多くても、それなりの努力は必要かもしれませんが、サイズが小さくなれば正常体重レベルまでには痩せると思います。糖質制限をしてもあまり痩せない人は、恐らく何かが違うのでしょう。子供の頃の体型だけでなく、自分ではやっているつもりでもちゃんと糖質制限になっていない、本当は本格的に糖質制限をしていないけれども本当のことを言えない、遺伝的な違いなど。

持久系の運動をすると、もっと脂肪細胞のサイズが小さくなる可能性は高いでしょう。ランナーは30µmくらいまで小さくなっているそうです。(ここ参照)もしかしたら、ここまでサイズが小さくないとしても、これに近いくらいの脂肪細胞のサイズが人間の本来の脂肪細胞の大きさなのかもしれません。そして、脂肪を溜められるときにはガッツリ溜められるようにできているのでしょう。

脂肪細胞は一般的には思春期まで数が増加しますが、その後数は増加しないと言われています。恐らくそれはウソでしょう。力士など、世の中には200kgを超える人がたくさんいますし、400kgや500kgを超える人までいます。それらの多くの人は子供の頃から太っていたでしょうが、恐らくそうではない人もいるでしょう。このような人は脂肪細胞の数が増加しないと、達成できない体重です。

いずれにしても、すべての脂肪細胞が最大になることは考えにくく、100kgを超えることは結構大変なことだとわかります。最初は細胞の肥大だけが起きて、そこで踏みとどまるようになっていると思います。それを超えて脂肪を溜め込むようなシグナルが伝わると、脂肪細胞の数が増加するのでしょうか?インスリン抵抗性が高くなりすぎると、何とかインスリンの感受性を維持しようというホメオスタシスが働き、小さなサイズの脂肪細胞を増加させるのかもしれません。

今回の研究では、肥満手術の胃バイパス手術を受けた49人の女性の5年後を調べています。手術前で平均年齢は43歳、BMIは43でした。

下の表は胃バイパス術前、術後2年後と5年後の49人の女性のパラメータです。(表は原文より改変)

2年後5年後
年齢(歳)43±945±948±9
BMI (kg/m 2 )43.0±4.828.8±4.231.3±5.6
腹囲(cm)130±1196±11101±14
ヒップ周囲(cm)132±10104±9109±12
体脂肪(%)53±338±843±8
腹部脂肪 (kg)63±1325±1332±16
臀部脂肪 (kg)10±25±26±2
内臓脂肪 (kg)2.4±0.80.7±0.40.9±0.6
皮下脂肪(kg)3.8±1.11.8±0.92.3±1.2
インスリン (mU/L)15.4±8.54.8±1.95.7±2.6
血糖値 (mmol/L)5.6±1.24.9±0.55.1±0.6
HOMA-IR3.9±2.71.0±0.41.3±0.6
中性脂肪 (mmol/L)1.4±0.60.9±0.41.0±0.5
HDL コレステロール (mmol/L)1.16±0.291.46±0.341.60±0.48
総コレステロール (mmol/L)4.8±1.04.0±0.74.2±0.8
脂肪細胞体積 (pL)974±193437±167470±183
脂肪細胞数 × 10 7442±149449±159 589±412

手術前後を比較すると、ほぼすべて大きく改善しているのがわかります。BMIは43から2年後で28.8まで減少し、5年後では31までリバウンド、インスリン値やHOMA-IRも2年後に大幅に改善し、5年後で少し戻っています。そんな中、脂肪細胞の体積は2年後も5年後も半減していますが、脂肪細胞数は逆に2年後では変化していないのに5年後で1.3倍になっています。成人しても脂肪細胞は大きく増加するのです。しかし、体積は半減なので、一つ一つの細胞は小型化しています。恐らく、細胞細胞の縮小はインスリン抵抗性を低下させ、様々なパラメータの改善をもたらしていると考えられます。リバウンドする際に細胞の体積が戻るのではなく、数が増加することによりリバウンドする可能性があります。

下の表は年齢とBMIをペアマッチさせた対照の30人の肥満女性と胃バイパス術後5年後女性30人のパラメータの比較です。

術後5年コントロール
年齢(歳)49±948±9
BMI (kg/m 2 )32±732±7
腹囲(cm)104±17106±17
ヒップ周囲(cm)111±14112±13
体脂肪(割合)44±945±10
腹部脂肪 (kg)35±1837±18
臀部脂肪 (kg)7±36±2
内臓脂肪 (kg)1.0±0.71.5±0.9
皮下脂肪 (kg)2.6±1.42.4±1.0
インスリン (mU/L)5.9±2.710.6±7.3
血糖値 (mmol/L)5.1±0.65.1±0.4
HOMA-IR1.4±0.72.5±1.7
中性脂肪 (mmol/L)0.9±0.51.2±0.6
HDL コレステロール (mmol/L)1.63±0.511.34±0.36
脂肪細胞体積 (pL)492±210711±243
脂肪細胞数 × 10 7653±518366±122

同じBMIのコントロールの女性と比較して、術後では内臓脂肪やインスリン値、HOMA-IRなど、いくつものパラメータが改善しています。

そして、先ほどと同様に脂肪細胞の体積や数を見てみると、術後の女性の方が一つ一つの脂肪細胞はコントロールの70%程度とかなり小さく、逆に脂肪細胞の数は1.78倍です。

脂肪細胞の大きさは非常に重要なんだろうと思います。そうすると、肥満手術で脂肪細胞の大きさは小さくなったけれども、数は非常に増加していますので、今後脂肪細胞が再度肥大してしまうと、以前よりももっと体重が増加する可能性が高くなります。しかし、なぜ手術で体重が減少する際には体積が減ったのに、再度リバウンドする際には肥大せずに脂肪細胞の数が増加するのかはよくわかりません。手術により様々なホルモンの状態が変化するので、それらがトリガーとなって細胞数が増加するのでしょう。

脂肪細胞の増加が手術による変化の特徴なのか、通常の体重減少とリバウンドする際でも起きているのかは不明です。

ただし、リバウンドする際に以前よりも体重が増加してしまうことはよくあることなので、もしかしたら同じようなことが起きているかもしれません。

新たに増加した小さな脂肪細胞が肥大してインスリン抵抗性が増加するまでには、比較的長い時間が必要なのかもしれません。風船を膨らませるのと同じで、最初の段階では結構息を強く吹き込まないと大きくなりはじめないものが、一旦大きくなり始めるとどんどん膨れるのかもしれません。

いずれにしても、以前の記事「減量後のリバウンドでは筋肉が減り、脂肪が増える」で書いたように、ヨーヨーダイエットとも言われる体重サイクリング(体重の増減を繰り返すこと)を起こすような安易な減量法(ダイエット法)はすべきではありません。

本来の人間のエネルギー源は脂肪です。脂肪をエネルギーにしない減量法は間違っていると思います。エネルギー(カロリー)制限をしても、糖質を過剰摂取するので、エネルギー源は主に糖質になってしまいます。

脂肪細胞のサイズを小さくするのであれば、糖質制限が理にかなっていると思います。ただし、脂肪細胞数が増加すればするほど、糖質摂取量の制限をきつくする必要があるかもしれません。

まだまだ人間、分からないことばかりです。

「Long-term Protective Changes in Adipose Tissue After Gastric Bypass」

「胃バイパス後の脂肪組織の長期的な保護的変化」(原文はここ

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