現代の人はビタミンB1不足が多いと言われていますが、それは糖質を過剰摂取していれば当然の結果だと言えます。ビタミンB1(チアミン)はグルコース代謝において重要な補因子ですので、糖質ばかり摂って、糖質をエネルギーにしていると、どんどんビタミンB1が使われていきます。さらに、お米など精製された炭水化物はビタミンなどの含有量が非常に少ないので、さらにビタミン不足に追い打ちをかけます。
重度のビタミンB1欠乏では脚気といわれる心不全や末梢神経障害などの症状を来し、最悪は死亡します。「江戸患い」といって、江戸時代などに白米ばかりを食べて流行したのは有名です。以前記事にした、幼児にスポーツドリンクを飲ませて死亡した例を書きましたが、現代にも脚気は残っています。また、ウェルニッケ脳症という脳症を引き起こすこともあります。
しかし、このような重症の症状を来す前にもビタミンB1不足の症状が認められます。ただ、その症状はビタミンB1不足特有ではないのでビタミンB1不足が見過ごされてしまう可能性があります。下にビタミンB1欠乏症状の一覧を示します。(表は「Thiamin deficiency in people with obesity」より改変)
胃腸症状 | 神経学的症状 | 心臓血管の症状 |
食欲不振 | イライラ、感情の不安定性 | 胸の痛み |
吐き気と嘔吐 | うつ | 頻脈 |
嚥下障害 | 疲労、衰弱 | 心臓の拡大 |
腹部の不快感 | 睡眠障害 | 代償不全の収縮期心不全 |
便秘 | 筋痛、筋肉の痙攣 | 脈圧の増大 |
末梢神経障害(感覚異常、神経因性疼痛、反射の減少、および振動/位置感覚の減少を含む) | 低血圧 | |
運動失調 | 心原性ショック | |
眼球麻痺、眼振、失明 | ||
混乱、興奮 | ||
記憶喪失 | ||
昏睡 |
これを見ると重度の症状以外は他のことでも起きうる症状ばかりです。
また、その原因や機序は次の表のに示すようなことが考えられます。
吸収の減少 | 破壊/不活性化の増加 | 過度の損失 | 使用/代謝の増加 |
質の悪い食事・過度のアルコール ・過度の単純な糖、乳製品、脂肪 ・不十分な全粒穀物/マメ科植物 | ポリフェノール(例えば、コーヒー、紅茶) | 利尿薬 | 高炭水化物(糖質)の食事 |
チアミナーゼ(例えば、生の魚介類およびヒトの腸内細菌叢) | 腹膜透析または血液透析 | 高代謝状態(例えば、甲状腺機能亢進症) | |
低マグネシウム血症 | 糖尿病における腎臓での損失 | 激しい活動 | |
食品の加熱 | 急性疾患/発熱 | ||
食物の照射 | 妊娠と授乳 | ||
非経口栄養におけるアミノ酸との長期の接触 | 青年期の成長 | ||
重大な外傷 | |||
食欲不振 | 大手術 | ||
長時間の嘔吐 | リフィーディング症候群 | ||
腸管の吸収不良(例えば、十二指腸バイパス、短腸症候群、クローン病、プロトンポンプ阻害剤) | 化学療法剤(例えば、5-フルオロウラシル) |
特に糖尿病では、血漿のビタミンB1の濃度は、1型糖尿病患者では76%、2型糖尿病患者では75%減少しているというデータもあります。腎臓のビタミンB1の排泄が、1型糖尿病患者では24倍、2型糖尿病患者では16倍増加しているそうです。
つまり、ジャンクフードなどの栄養素の非常に低い食事、糖質過剰摂取により、摂取量も少なく、消費量も多く、糖尿病では排泄も多くなれば、ビタミンB1が不足や欠乏するのは当然なのです。重症化しなくとも上の表で示したような様々な症状が出ても不思議ではありません。精神疾患の原因の一つになり得るのです。
そうであるならば、糖質制限により、無駄なビタミンB1の消費が大幅に減少し、豚肉などのビタミンB群豊富な食事をしていれば、サプリメントを使わなくても十分に充足するのです。
患者さんに食事について尋ねてみると、びっくりするような食事を摂っている方もいます。それでは病気になるのは当たり前です。食事を見直さずに、薬やサプリに頼っても根本は変わりません。まずは日々の食事を見直さなければなりません。あなたの体はあなたが食べたものでできているのですから。