論文における「低炭水化物」の定義

糖質制限の研究は、現在食事法の中でもっとも多く行われているものです。つまりエビデンスが非常に豊富にあるのです。しかし、一番の問題点は「低炭水化物」というときの、糖質摂取量(炭水化物摂取量)の定義がちゃんとされておらず、コンセンサスが得られていないことです。

まあ、それを良いことに、まともに糖質制限になっていない研究を持ち出してきて、糖質制限を批判する人はいっぱいいます。

まずは一概に低炭水化物食、糖質制限食と言っても、著者は様々な呼び方で好きなように名前を付けます。炭水化物、糖質量の定義もまちまちです。まずは下の表のように、炭水化物の割合で分類してみたものを見てみましょう。(図は原文より、表は原文より改変)

炭水化物含有量に基づく食事の分類。

食事の説明ケトジェニックカロリー/日%エネルギー (炭水化物)% エネルギー (タンパク質)% エネルギー (脂肪)
超低炭水化物、高脂肪のケトン食はい>1000<10%
(<20~50 g/日)
〜10%
(1.2〜1.5 g/kg/日)
70~80%
低炭水化物食いいえ>100010 ~ 25%
(38~97 g/日)
10~30%25~45%
適度な炭水化物食いいえ>100026 ~ 44%
(98~168 g/日)
10~30%25~35%
高炭水化物食いいえ>100045 ~ 65%
(169~244 g/日)
10~30%25~35%
非常に高炭水化物の食事いいえ>1000>65%
(>244 g/日)
10~30%25~35%
超低カロリーの食事不定<800不定不定不定
古典的なケトン食はい不定3%7%90%

スーパー糖質制限食は超低炭水化物食や低炭水化物食の間くらいでしょうか?

2002年1月1日から2022年6月20日までの期間で「低炭水化物」介入の研究が508件ありました。さすがに多いですね。もちろん、本当の意味での糖質制限になっていないものも含んでいますが。

「低炭水化物」介入の研究特徴の概要 ( n  = 508)。

特性N (%)
研究デザイン
 ランダム化比較試験317 (62.4)
 クロスオーバートライアル99(19.5)
 before-and-after33 (6.5)
 非ランダム化試験12(2.4)
 その他の種類のトライアル47 (9.3)
サンプルサイズ、平均(範囲)100.9 (4-903)
報告された平均値に基づく年齢カテゴリー
19–2973(14.4)
30~3985(16.7)
40–49145(28.5)
50–59137 (26.9)
> 5951(10.0)
 報告されていない17 (3.3)
女性 %、平均 (範囲)51.1 (0 ~ 100)
ベースラインの健康状態のカテゴリ
 健康317 (62.4)
 一般的に健康(参加者の20%以下が病気に罹患している)5(0.9)
 疾患あり(参加者の20%以上が疾患を患っている)180(35.4)
 報告されていない6(1.2)
BMIステータス
 肥満または過体重(参加者の100%)336 (66.1)
 混合型(肥満、過体重、または標準体重の人もいる)56(11.0)
 標準体重 (参加者の100%)58(11.4)
 報告されていない58(11.4)
主な結果
 体重と体組成152(29.9)
 心血管疾患の危険因子/転帰66(12.9)
 糖尿病の危険因子/転帰95(18.7)
 炎症と酸化ストレス19 (3​​.7)
 運動の成果32 (6.3)
 エネルギー摂取量・エネルギー消費量34 (6.7)
 代謝/ケトン体/RQ22 (4.3)
 他88(17.3)
国・地域
 北米231(45.5)
 ヨーロッパ153 (30.1)
 アジア60(11.8)
 オセアニア53(10.4)
 中南米7 (1.4)
 アフリカ3 (0.6)
 報告されていない1(0.2)
資金源のカテゴリー
 政府159 (31.3)
 非営利98(19.3)
 医療業界32 (6.3)
 2つ以上の組み合わせ122(24.0)
 資金を受け取っていない/報告されていない97(19.0)

317件(62.4%)がランダム化対照試験で、99件(19.5%)のクロスオーバー試験でした。

ほとんどの研究は、40歳から59歳までの肥満または過体重の健康な成人を対象に低炭水化物食の効果を調べるランダム化比較試験でした。ほとんどの研究は北米で実施され、政府の資金提供または複数の資金提供を受けていると報告されています。複数の資金提供のうち、62 件 (50.8%) には少なくとも 1 つの医療業界資金提供者が含まれていたので、94 件 (18.5%) の論文に医療業界の資金提供があったことになります。かなり少ないのではないでしょうか?また、下の図のように結果として体重または体組成を扱った論文の数が時間の経過とともに最も増加し、次に糖尿病リスクまたはその他の結果を主要アウトカムとして報告した研究が続きました

 

 

論文内で「低炭水化物」食を指す名前とその定量的定義 (最小値から最大値)。

学期用語を使用した研究の数 ( n  = 508)定量的な定義期間 (週)、
平均値 (最小値-最大値)
炭水化物からのエネルギーの割合炭水化物/日のグラム数炭水化物の閾値(g/日)炭水化物 のグラム数/kg 体重
名前
アトキンス164~2010–8515~5026.4 (1~173.8)
旧石器時代の低炭水化物230~45367.3 (2–10)
ゾーン65~40168204025.7 (8–52.1)
断続的な低炭水化物530405015.9 (0.3~26.1)
ケトン食974~455.5~1205~5013.5 (0.3~104.3)
地中海1435~5040~7030~7075.5 (12-208.6)
DASH低炭水化物1433 (3)
その他の用語
炭水化物フリーまたは完全な低
炭水化物
50~320~404.6 (0.2~13.0)
超低炭水化物364~1614~6020~6021.0 (3-104.3)
炭水化物を減らした492~5020~182.550~13012.6 (.3 ~ 52.1)
低カロリー・低炭水化物1320~4550~88.120~125
低炭水化物/低カーボ
低炭水化物、高脂肪623–4620~20010~1001.5~10011.1 (0.1 ~ 52.1)
低炭水化物、高タンパク質304~4820–18140~13029.5 (0.4~104.3)
低炭水化物、高タンパク質、
高脂肪
24~4411034 (16–52)
低炭水化物のみ1704–465~20010~1300.3~527.4 (0.3~104.3)

ほとんどの研究(51.9%)では、食事介入は単に「低炭水化物食」と呼ばれていました。その他の一般的な記述は、「ケトン食(ケトジェニックダイエット)」(19.1%) と「超低炭水化物食」(7.1%) でした。ほとんどの低炭水化物食は、炭水化物由来のエネルギーのパーセント (%)、続いて 1 日あたりの炭水化物のグラム数、および 1 日あたりの炭水化物の最大グラム数のしきい値を使用して定義されています。炭水化物からのエネルギーの割合は 0% から 50% の範囲でした。食事介入の平均期間は 0.3 ~ 75.5 週間で、最も長いのは「地中海」の食事で 75.5週間でした。

上の図は横軸が炭水化物由来のエネルギーの割合、縦軸が様々な名前で呼ばれる「低炭水化物」食で、数字はその研究の数です。ほとんどの定義では、炭水化物由来のエネルギーが15%を超えています。当たり前ですが炭水化物由来のエネルギーが50%を超えるものはありません。超低炭水化物の定義は炭水化物由来のエネルギーの20%未満で、ケトン食(ケトジェニックダイエット)の定義は主に炭水化物由来のエネルギーの5~15%の間が多いですが、中には30%を超え、45%というものもあるので、それはケトン食と言うものが全く理解できていない人が行った研究なのでしょう。

上の図は今度は横軸が1日の炭水化物の総摂取量のグラム数です。エネルギー割合の研究と比較して、130gを超える研究は非常に少ないのがわかります。ほとんどの定義では、炭水化物が60g/日を下回っていました。当たり前ですが、ほとんどのケトン食とすべての超低炭水化物ダイエットは、60g/日を下回りました。それでもケトン食を名乗っているのに100g/日を超える研究があります。

上の図は横軸が研究に期間、縦軸が健康のアウトカム(結果)です。研究の規模に応じて円の大きさが違います。先ほども書いたように、体重や体組成に関わる結果が最も多いですね。次に心血管疾患のリスクや糖尿病リスクが多くなっています。期間は1~6か月が最も多く(57.9%)、1年以上というのも結構多く(8.9%)認められます。

研究の特徴。

特性N (%)
研究数508(100)
低炭水化物食の期間
 1か月未満113 (22.2)
 1~6ヶ月294 (57.9)
 6~12か月53(10.4)
 > 1年45(8.9)
 報告されていない3 (0.6)
設定
 自由生活の被験者 – 食事の提供176 (34.6)
 自由生活の被験者 – 食事の提供なし299 (58.9)
 研究室/臨床現場32 (6.3)
 報告されていない1(0.2)
 RQ/ケトン体測定199 (39.2)
比較グループ
 高炭水化物食120(23.6)
 低脂肪食121(23.8)
 アメリカ人の食事ガイドラインに基づいた食事/標準食132(25.9)
 低カロリー/超低カロリー9(1.8)
 比較グループなし56(11.0)
 他70(13.8)

上の表のように、呼吸商(RQ)やケトン体を測定している研究が39.2%ありました。ここが他の食事の研究との違いです。通常の食事の研究では、ほとんど食事アンケートに頼らざるを得ないのが現状で、ちゃんと食事療法が守られているかどうかは自己申告を信用するしかありません。しかしほとんどが過少申告です。糖質制限では呼吸商(RQ)やケトン体を測定することで、かなり糖質制限ができているかどうかの推測が可能なのです。

低炭水化物食と比較する食事は、いわゆるガイドラインに則った標準食、高炭水化物食、低脂肪食などが多いのがわかります。

いずれにしても、低炭水化物の摂取量、割合の世界的な標準の定義を早く決めるべきです。これだけのエビデンスがあるのですから、少なくとも日本では学会が決めようと思えば決められるはずです。恐らく決めてしまうことにより、現実がバレてしまい、糖質制限の有益性がわかってしまうのを恐れているのではないかと思います。わざと曖昧な状態にしておけば、都合よく、本当は糖質制限に全くなっていない研究を持ち出して、糖質制限を批判することも可能ですから。

現実的には糖質60g以下のスーパー糖質制限と130g以下のゆるゆる糖質制限の2段階くらいで定義するのが良いのではないかと思います。130g以上は糖質制限、低炭水化物とは呼べません。130g以上の糖質量の研究を持ち出してきたら、その人はあなたを騙そうとしているか、無知かのどちらかでしょう。

「Defining “low-carb” in the scientific literature: A scoping review of clinical studies」

「科学文献における「低炭水化物」の定義: 臨床研究の範囲調査」(原文はここ

6 thoughts on “論文における「低炭水化物」の定義

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      不利な研究が出ても、有利な研究をいっぱい出せば、分析すると都合の良い結果が出せるのでしょうね。

  1. 清水先生、いつも貴重な情報ありがとうございます

    医療業界、食品業界、そしてそれらをバックとした厚生労働省、農林水産省

    こうした勢力が様々な嘘を用いて糖質制限を批判します。しかし、それもまた、仕方のないことかなと思っています。

    こうした嘘が権威ある機関から垂れ流されている中、糖質制限が広まることはおそらく無いと思っています。
    個人的にはお肉や大豆、卵でタンパク質を摂取したいので、みんな糖質制限するようになってコオロギ食べさせられるのは嫌なので、あまり広まらないのも、それはそれでまあいいかなと

    1. いのっちさん、コメントありがとうございます。

      ほとんどの人は糖質依存なので、糖質制限について知識を持っても、十分にはできないと思います。
      広まって2割もいかないでしょう。

  2. ポテトチップス、ポップコーン、ピザ、バーガー、コーラ・・・これで超肥満体への条件は満たされる。これは肥満大国アメリカ・メキシコ大衆の典型的食生活パターンらしいですが、あと、各種スイーツ、ラーメン、握り飯、パン、スパゲッティの類も捨てがたいですね。

    それにしても糖質の誘惑はドラッグ・ギャンブル・アルコールと同等かそれ以上、きわめてキョーレツですね。日々、おそろしく大量の糖質を摂取するギャル曾根の体はどうなっているんでしょう(笑)

    1. カルダノ栄太さん、コメントありがとうございます。

      ギャル曾根さんは恐らく、ほとんど吸収できていないのではないかと推測しています。

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