日本人の食事摂取基準の2025年版がほぼ決まりました。(ここ参照)5年ごとに見直していますが、毎回どーでもいいような改定ばかりです。
アメリカの食事ガイドラインも似たようなもので、アメリカやカナダの糖尿病学会が低炭水化物の食事パターンが糖尿病の管理に効果的であると認めているのも関わらず、十分に食事ガイドラインに反映されていません。そして、アメリカ人のほとんどが代謝的に不健康で、肥満の有病率は41.9%、10人に1人近くが2型糖尿病、48.6%が心血管疾患を患っているという有様です。
低炭水化物食、糖質制限食など様々な言い方がありますが、どれも定義が決まっていません。そのことが混乱を招くとともに、糖質制限反対派に良いように使われています。実際には糖質制限になっていない研究を持ち出して、糖質を制限することは有害だという専門家たちは大勢います。彼らはその研究が糖質制限とはかけ離れていることを知っていて、そのように言っているのでしょう。
アメリカの糖質制限のエキスパートたちは、コンセンサスを得ようと声明を発表しました。
2023年6月14日にワシントンD.C.で「栄養、健康、低炭水化物食に関する科学フォーラム:証拠と公平性」というフォーラムが開かれました。そこで、低炭水化物の食事パターンには、1日あたり130g 未満を含む食事パターンが含まれることに同意しました。そして低炭水化物食と超低炭水化物食(高脂質ケトン食)を下の表のように定義しました。(図は原文より)
さらに下の図のようなコンセンサスステートメントを出しました。
将来の研究では、炭水化物のグラム数に関する低炭水化物食の標準的な定義と、個人のニーズと健康状態によって階層化された代謝的な利益を誘導するために必要な炭水化物制限のレベルを決定するための対応したバイオマーカーを活用する必要があります。
栄養価の高い食品に焦点を当てた主要栄養素の品質は、低炭水化物または超低炭水化物食の文脈内で重要な考慮事項です。
野菜、果物、豆類、全粒穀物は、栄養価の高い炭水化物の貴重な供給源となり得ます。
タンパク質と脂質の供給源には、肉、鶏肉、魚介類、全卵、豆腐/複合植物性タンパク質、ナッツ/種子、乳製品、非乳製品の代替品、コールドプレスされた油/脂肪が含まれます。
低炭水化物食に関する研究における利点、リスク、ギャップに関する最新科学のコンセンサスステートメントは次のようです。
人間を対象とした複数の臨床試験では、低炭水化物食がインスリン抵抗性やその他の心血管疾患のリスクマーカーの大幅な改善につながる可能性があることが一貫して実証されています。低炭水化物の食事パターンは、さまざまなソース(連邦機関、財団、産業界、大学など)から資金提供され、査読済みの独立した学術雑誌に幅広く掲載され、よく設計された多数の研究によって裏付けられています。
適切に策定された低炭水化物の食事パターンは、正常な人間の生理機能と一致しており、体脂肪率、異所性/不健康な脂肪、除脂肪体重などの体組成の結果については、他の食事パターンと比較できます。
現在の証拠は、適切に策定された低炭水化物食は、安全性と有効性は、懸念される領域(脂質異常症、微量栄養素欠乏、腎臓や骨の健康への悪影響など)に関して他の食事パターンと同等であることを示しています。
低炭水化物食は一般の人にとって安全ですが、特定の状態(例:1 型糖尿病、インスリンや血糖降下薬、スルホニル尿素を服用している 2 型糖尿病の人など)では、一定期間、知識のある医師の監督が必要な場合があります。
低炭水化物食は心血管疾患の危険因子に対処するのに役立ち、重大な副作用は伴いません。
次に現在の栄養上の懸念に合わせてアメリカ人のための食事ガイドラインを調整することに関するコンセンサスステートメント。
適切に構築された低炭水化物の食事パターン (またはメニュー モデル)は、食事の質において適切であり、既存のDGA(アメリカ人の食事ガイドライン)メニュー モデルと同等である可能性があります。
DGAに低炭水化物の食事パターンを追加することは、栄養の安全性と健康の公平性の向上と一致します。
低炭水化物食は、一般集団、および特定の代謝障害や食事関連疾患(心血管疾患、肥満、メタボリックシンドローム、前糖尿病、2型糖尿病、多嚢胞性卵巣症候群、非アルコール性脂肪肝疾患、神経変性疾患、特定の癌など)を患っている、またはそのリスクのある人々のインスリン抵抗性に対処するのに役立ちます。
下の図は、提案された低炭水化物の食事パターンと食品グループおよび成分の1日量を1,800kcal/日としたアメリカの健康的な食事パターンとの比較です。
提案されたパターンでは、穀物からは1日当たり6オンス相当から1オンス相当、果物は1.5カップから0.5カップまで、炭水化物を289gから126gに減らし、乳製品からは1日当たり3から1/2カップ相当まで減らし、野菜からは1日あたり2.5カップ相当から5カップ相当、タンパク質食品からは1日あたり5.5オンスから12オンスに、油からは1日あたり24から42gに増加します。
次に、低炭水化物食の障壁、懸念、遵守への対処に関するコンセンサスステートメントです。
適切な教育、リソース、サポートがあれば、低炭水化物食の長期的な遵守は達成可能であり、他の健康的な食事パターンと同等である可能性があります。
そして、アメリカ人における代謝の健康と文化的多様性に対処するための栄養学的アプローチに関するコンセンサスステートメントです。
DGA の現在の食事パターンは、グルコース/インスリン動態の障害のリスクが高い黒人やヒスパニック系集団など、代謝的に脆弱な部分集団に利益をもたらす可能性のある主要栄養素の分布の適切な範囲を反映していません。
DGA内で低炭水化物の食事パターンを含む多量栄養素の柔軟性を認めることは、歴史的に疎外されたコミュニティに共通する代謝問題に対処する文化に合わせた食事の選択肢を提供することで、健康格差に対処し、健康の公平性を促進するのに役立つ可能性があるという実質的な証拠がある。
低炭水化物食は、植物ベースの食事や文化的に関連した食習慣など、さまざまな食事方法に適応できます。
日本では人種などの多様性がほとんどないため、特定の集団がリスクが高いわけではありません。しかし、日本には根強いお米の文化があります。そして麺類も豊富な種類があります。それらが糖質過剰摂取の元凶でもあるのです。
以前の記事「2025年版の日本人の食事摂取基準はやっぱり期待できない」で書いたように、日本のガイドラインも変化がありません。炭水化物50〜65%は根拠もなく維持されています。糖質制限による健康効果の証拠がこれほどたくさん出ているのですから、もう無視をするのは国民の健康に対して有益にはなりません。
日本の専門家たちは糖質制限をかわすために、摂取基準以下は低炭水化物食と曖昧にすることで、糖質制限の効果がないように見せかけています。今回の声明のように、最低でも130g未満を低炭水化物食とし、さらに50g以下を超低炭水化物食とするというような現実的な枠組みを決めればいいはずです。恐らく定義を決めるのは専門家にとって余程都合が悪いのでしょう。
ただ、130g未満をすべて同じ低炭水化物で包括してしまうのも、実際には大きな問題があります。糖質130gと50gでは、全く効果が違います。もちろん130gでも糖質過剰摂取よりはマシです。
糖質制限にもならないような低炭水化物食(実際には低炭水化物食でもない食事も多い)の研究で糖質制限を否定することはもうやめましょう。
日本でも糖質制限のコンセンサスが必要です。国民の健康のためでなく、企業や業界のためにガイドラインを作るのはもうやめにしましょう。
「Expert consensus on nutrition and lower-carbohydrate diets: An evidence- and equity-based approach to dietary guidance」
「栄養と低炭水化物食に関する専門家の合意: 食事指導への証拠と公平性に基づくアプローチ」(原文はここ)