以前の記事「持久系アスリートにおける糖質制限と脂質制限」の参加者では、糖質制限を行っているにもかかわらず、それほどケトン体値が上がりませんでした。私もそれほど上がりません。一部の人はケトン体が500μmoL/L以上でないと、意味がないという人もいるようですが、私はそうは思っていません。
もちろん、ちゃんと糖質制限ができていない場合もケトン体は上がらないかもしれませんが、ちゃんとやっていてもそれほど高値にならないこともあるでしょう。
それはどうしてでしょうか?一つの理由は今回の研究が示唆してます。
今回の研究では、普段普通の食事をしている人と、糖質制限食を食べてケトン体質になっている人を対象に、ケトン体サプリ(カフェインとアミノ酸入り)または水を飲んでもらい、その後激しい運動をしてもらいました。
上の図は毛細血管の血中のケトン体(βヒドロキシ酪酸)の値の推移です。横軸は時間で、MP = 運動の中間点、IP = 運動の直後です。縦軸はβヒドロキシ酪酸値ですが、日本の値にするには1000倍してください。Aはケトン体質の人、Bはケトン体に適応していない人です。グラフの白抜きの方がケトン体サプリを摂ったときで、グレーの方が水を摂取したときです。
ベースラインでケトン体質の人は、ケトン体に適応していない人よりもβヒドロキシ酪酸が4倍高くなっていました。どちらのグループも水と比較して、ケトン体サプリ摂取でケトン体は上昇しました。
βヒドロキシ酪酸が最も高くなったのは ケトン体サプリ摂取の15分後で、ベースラインからの変化量はケトン体質で0.70mM、ケトン体に適応していない人0.33mMとおよそ2 倍高くなりました。
注目すべきは運動を始めた後のβヒドロキシ酪酸の変化です。ケトン体サプリを摂取して上昇したβヒドロキシ酪酸は、運動を始めた後(MP)で大幅に減少しています。さらに水摂取であっても、運動を始めた後にはβヒドロキシ酪酸は大きく減少しています。水摂取ではベースラインよりも運動でβヒドロキシ酪酸が低くなってしまっています。しかもRecovery(回復中)でもずっと減少したままです。
恐らく、運動時のエネルギーとして使用されたのだと思われます。
上の図は血中のβヒドロキシ酪酸値ですが、先ほどと同様の推移です。
上の図は血糖値の推移です。どちらのグループもサプリでも水でも、運動後に血糖値が上昇しています。
上の図は血中の乳酸値(AとD)、グリセロール値(BとE)、インスリン値(CとF)の推移です。両方のグループで、サプリでも水でも、乳酸とグリセロールは運動後にピークになり、その後60分後にはほぼベースラインに戻っています。高強度で疲労困憊まで運動するとやはり乳酸は増加するようです。グリセロール上昇は脂肪組織の脂肪分解が促進されたことを示しています。
インスリンはケトン体質の人ではサプリでも水でも、運動に関係なく安定したままでしたが、一方ケトン体に適応していない人ではばらつきがありました。
ちなみに水と比較して、サプリ摂取は疲労までの時間をケトン体に適応していない人で8.3%、ケトン体質で9.8%延長しました。
いずれにしても、運動はケトン体を消費します。普段から運動を習慣的に行っていると、効率良くケトン体がエネルギー源になっている可能性は高いでしょう。運動していなくても、もしかしたら上手くケトン体をエネルギー源にしている人がいるのかもしれません。そうするとあまりケトン体は高くならないと思います。
「A Pre-Workout Supplement of Ketone Salts, Caffeine, and Amino Acids Improves High-Intensity Exercise Performance in Keto-Naïve and Keto-Adapted Individuals」
「ワークアウト前のケトン塩、カフェイン、アミノ酸のサプリメントは、ケトナイーブおよびケト適応者の高強度運動パフォーマンスを向上させる」(原文はここ)