糖質制限は危険? 低炭水化物高脂肪食と血中脂質レベルおよび心血管疾患リスクとの関連性

久しぶりに糖質制限否定派の研究が出てきました。糖質制限をすることの不安を煽ってきますね。でもやっぱりいつもの通りの非常に質の低い研究となっているように思えます。この研究では、糖質制限をするとLDLコレステロールが上昇し、心血管疾患イベントが増加すると言いたいようです。

今回の研究は、2006年3月から2010年10月までにイギリスの22施設から募集された40歳から69歳までの502,546人の参加者を対象とした前向き観察研究です。色々除外して、低炭水化物高脂肪(LCHF)食は2,034人、標準的な食事(SD)が8,136人が対象となりましたが、同時に血液検査で脂質を測定しているLCHF群305人とSD群1220人を評価しました。でも、いつもの通り食事摂取量はベースラインで1回、食事アンケートで調査しました。その後複数回食事アンケートをした人もいるようですが、LCHF群とSD群を分類したのは最初のアンケートのようです。ちなみに2回以上アンケートに答えたのはSD群216人、LCHF群54人と非常に少ないです。

食事アンケートは非常に質の低いデータです。さらに低炭水化物高脂肪食と言っても、今から10数年前では今ほど糖質制限の認識が一般的には広がっていなかった時代です。その頃に少ない情報で自分で制限をしていたので、ちゃんとできていたかは怪しい限りです。さらにLCHFの定義は、1日あたり100g未満および/または1日あたり炭水化物によるエネルギー摂取量が総エネルギーの25%未満、および脂質による1日の総エネルギーの45%を超えるものとしています。まずまずの定義ですが、糖質制限よりは甘めの設定ではあります。介入試験ではなく、追跡は11.8年ですので、その間食事が変化している人も多いでしょう。(図は原文より、表は原文より改変)

SD (n = 1,220)LCHF (n = 305)
性別
 男328 (26.9%)82 (26.9%)
 女性892 (73.1%)223 (73.1%)
年齢(歳)
 平均±標準偏差53.9 (7.8)53.9 (7.8)
ベースライン心血管疾患危険因子
 糖尿病21 (1.7%)15 (4.9%)
 高血圧206 (16.9%)51 (16.7%)
 BMI26.7±4.827.7±5.1
 肥満241 (19.8%)80(26.3%)
 現在の喫煙94 (7.7%)32 (10.6%)
 心血管疾患の個人歴12 (1.0%)6 (2.0%)
 心血管疾患の家族歴494 (40.6%)107 (35.1%)
身体活動、分/週123.7±91.4116.4±84.1

上の表はベースラインの特徴です。LCHF群では糖尿病、肥満の人が多いですね。特に糖尿病はおよそ3倍です。10数年前の段階で糖質制限をしようと思った人はまさに上の表のような人で、糖尿病や肥満の人がその改善のために、少ない情報の中でやっていたのでしょう。

栄養成分SD (n = 1,220)LCHF (n = 305)
% TDEg/日% TDEg/日
1 日の総エネルギー (TDE) 摂取量、kcal/日1,992.1±604.81,449.9±650.1
炭水化物摂取量51.0±9.5252.5±85.723.2±8.878.9±36.8
 遊離糖11.8±6.759.9±40.74.9±4.717.4±17.1
タンパク質摂取量15.8±4.276.8±25.722.2±6.379.6±37.9
 動物性たんぱく質10.2±4.649.2±23.217.8±7.563.6±35.7
 植物性たんぱく質5.6±1.827.7±11.54.3±2.416.0±12.6
総脂肪摂取量30.7±7.769.1±29.552.3±6.284.6±39.3
 動物性脂肪16.8±7.037.9±20.833.2±11.952.8±29.4
 植物性脂肪13.9±6.031.2±17.019.1±12.731.7±27.7
 総飽和脂肪11.2±3.825.4±12.717.4±4.327.8±13.6
コレステロール摂取量0.098±0.070.2±0.170.31±0.220.49±0.37
アルコール摂取量5.1±7.514.8±22.43.9±6.211.0±20.1

上の表はベースラインでの1日の食事の栄養素です。まずはエネルギー摂取量に注目でしょう。標準の食事(SD)であっても、2000kcalはイギリス人にとっては少ないのかもしれませんが、女性の方がかなり多いので、これくらいなのかもしれません。過少申告の可能性も十分にあるでしょう。しかし、LCHF群は1500kcal程度です。これは明らかに過少申告か無理なエネルギー(カロリー)制限です。エネルギー制限をしていたとしたら長くは続けられないでしょう。

SD (n = 1,220)LCHF (n = 305)
β-ヒドロキシ酪酸、mmol/L0.06±0.060.14±0.16
アセトン、mmol/L0.01±0.0040.02±0.017
アセト酢酸、mmol/L0.01±0.010.02±0.02
総コレステロール、mmol/L5.85±1.16.08±1.2
LDL-C、mmol/L3.64±0.83.81±0.9
HDL-C、mmol/L1.56±0.41.62±0.4
非 HDL、mmol/L4.29±1.04.46±1.2
アポリポタンパク質 B、g/L1.04±0.231.10±0.25
Lp(a)、nmol/L46.13±50.039.43 ± 44.4
中性脂肪、mmol/L1.53±0.81.34±0.7
HbA1c、%5.33±0.45.37±0.6
血糖、mmol/L5.05±0.75.16±0.8

上の表はベースラインの血液検査です。ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸、アセトン、アセト酢酸)の測定はSD278人、LCHF70人のみです。SDと比較すると確かにケトン体は上昇していますが、いわゆるケトーシスの範囲には達していません。ケトン体質になってうまくケトン体を使えるようになっているとも思えないので、糖質制限が甘いか、インスリン抵抗性が高くて、ケトン体が少し上がっているかのどちらかでしょう。

LDLコレステロールはLCHF群で高いとはいえ、たった6.6mg/dLの違いしかありません。個人差、誤差範囲のレベルの違いですね。ApoBなんて0.06g/Lの違いです。日本の単位だと6mg/dLの違いです。基準値は100mg/dL前後です。6mg/dLの違いなんてほとんど臨床的に意味がありません。LDLもApoBもあまりにも違いが小さすぎるので、無理やり次のような図を出してきました。

LDLコレステロールが193mg/dL(5mmol/L)以上の人の割合は確かにLCHF群の方が多いですが、これが自己申告のなんちゃって糖質制限で起きた証拠はありません。上を切り取って都合の良いことを書いているだけのような気がします。全体的な分布はどちらの食事も大して変わりません。

上の図はASCVD(アテローム性動脈硬化性心血管疾患)の発生率などです。ASCVDは不安定狭心症、心筋梗塞、虚血性脳卒中、末梢動脈疾患、および冠動脈および頸動脈の血行再建として定義されました。ASCVDはLCHF群で9.8%、SD群で4.3%で2倍以上の差がありますね。ASCVDのリスクはLCHF群で2.18倍です。

しかし先ほど書いたように、LDLコレステロールの違いはたった6.6mg/dLしかありません。この違いで果たして2倍以上の差が出るでしょうか?

上の図はLDLコレステロールの値によってさらに分類しています。日本の単位でLDLコレステロールが135mg/dL未満、135~193、193以上(<3.5、≧3.5-5.0、≧5.0mmol/L)と食事によってのASCVDのリスクを示しています。 LDL-C<3.5mmol/LのSD群と比較すると、心血管疾患リスクは≧3.5-5.0のSDで2.05倍ですが、≧5.0mmol/LのSD群では1.9倍(有意差なし)です。標準的な食事をしていればLDLコレステロールは高くても問題ないのでしょうか?変ですね。

LCHF群ではLDL-C<3.5mmol/Lだと2.51倍、≧3.5-5.0では3.67倍、≧5.0mmol/Lは何と6.68倍です。ほんとかいな。

そもそも食事のアンケートデータは質が低いし、追跡期間が11年以上なのに、80%以上の人で1回のみの調査しかしていません。さらに25%も糖質を摂っていれば、中途半端な糖質制限です。

ちゃんと糖質制限ができていて、LDLコレステロールが上昇する場合は、HDLコレステロールが非常に高くなり、中性脂肪が十分に低下します。今回のLCHF群では平均でLDLコレステロール147mg/dL、HDLコレステロール63mg/dL、中性脂肪119mg/dLです。糖質制限でLDLコレステロールが変化するほど中性脂肪は低下していません。

もともと心血管疾患リスクの高い、糖尿病や肥満の人が、何とかしようと多少糖質を減らしてみたけど、効果があるほど糖質は減っていないし、無理なカロリー制限になってしまい、長期には続けられず、結局その人たちはその後心血管疾患を発症する可能性が高くなってしまった、というストーリーでしょう。

またまともでない研究の結果だけを悪用する専門家が出てくるかもしれませんので、注意が必要です。

「Association of a Low-Carbohydrate High-Fat Diet With Plasma Lipid Levels and Cardiovascular Risk」

「低炭水化物高脂肪食と血漿脂質レベルおよび心血管リスクとの関連性」(原文はここ

 

2 thoughts on “糖質制限は危険? 低炭水化物高脂肪食と血中脂質レベルおよび心血管疾患リスクとの関連性

  1. シミズ先生こんにちは。
    研究施設とかに入所してガッツリ糖質制限食を管理されて実験してもらえるところがあったらむしろ協力したいくらいなのですが。
    それをすると出したい結果と逆になってしまうから出来ないんじゃないの?って思ってしまいます。性格悪いので。笑

    1. ミホさん、コメントありがとうございます。

      あたりです。ちゃんとやってしまうと医療は困ります。

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