過度の持久運動による心臓血管への悪影響 その2 冠動脈石灰化

サロマ湖100kmウルトラマラソンが近づいてきました。週間の天気予報を見て一喜一憂しています。今日の予報では最高気温は31~32度!(デスバレーを考えれば大したことはない?)30度以上の気温で100km走った経験はありません。生きて帰ってこれるのでしょうか?生きていれば、来週もブログが更新されます。

その1」の続きです。

過度の持久運動であるマラソン、ウルトラマラソンなどは心血管系に負担をかけます。それによって心臓の冠動脈の石灰化(CAC)はどうなるでしょうか?

50歳以上の男性で、過去3年間にフルマラソンを5回以上完走した人が対象の研究を見てみましょう。50~72歳の男性ランナー108人が対象となりました。平均して、ランナーたちは、20回のマラソンを完走し、9年間のマラソン歴があり、年間を通じて週5日、55kmのトレーニングをしています。心血管リスク因子についてはフラミンガムリスクスコア(FRS)というもので評価しています。(図は原文より、表は原文より改変)

マラソンランナー(グループI)年齢をマッチさせた対照群(グループII)年齢とリスク因子をマッチさせた対照群(グループIII)
log 2 (CAC + 1) (平均±SD)4.1 ± 3.64.9±3.33.8±3.4
CAC (Q1/中央値/Q3)0/36/2173/38/1870/12/78
ゼロCAC(%)28.718.431.5
CAC >75パーセンタイル(%)25.024.214.8
CAC 0~<1040.7434.6148.61
CAC 10~100未満23.1529.0529.63
CAC 100~400未満23.1522.8013.43
CAC ≥40012.9613.548.33

マラソンランナーでは、CACスコアがゼロとなる割合が同年齢対照群よりも高くなりましたが、心血管リスク因子のFRSをマッチさせた対照群と比較した場合と同様でした。全体的な CACスコアの分布は、マラソンランナーと同年齢対照群で同様で、これらのグループでは CAC≥100 の割合も同様でした。しかし、FRS をマッチさせた対照群と比較した場合、マラソンランナーの方が割合が高くなりました。

ランナー102人にMRIを行い、心筋後期ガドリニウム増強(LGE)を確認しました。LGEは12 人 (12%) に認められ、LGEのあるランナーはLGEのないランナーよりもCACスコアが高く、 192対26でした。多変量解析では、CACパーセンタイル分布とマラソン回数はLGEの存在と独立して関連していました。

そして、21か月追跡すると、死亡したランナーはいませんでしたが、冠動脈イベントは4人のランナーで発生しました。このうち2人は運動中の突然の心室頻拍なので危なかったです。4人のCACスコア128~874でした。イベントが発生したランナーのCACの分布は、CAC <100: 69人中0人 (0%)、CAC100~<400: 25人中 2人 (8%)、CAC≥400: 14人中2人 (14.3%) でした。

上の図はCACの程度別の無イベント生存率です。CAC<100のランナーは冠動脈イベントを経験しませんでしたが、CAC100~<400で8%、≥400で14.3%で追跡期間中に血行再建術を必要としました。そして、やはりCACが400以上の方が追跡の早い段階でイベントが起きていました。

50歳以上のマラソンランナーの36%がCACスコア100以上で、そのうち10% が2年間の追跡期間中に冠動脈血行再建術を必要としました。

別の研究を見てみましょう。45歳以上の男性で、無症状で、競技スポーツまたはレクリエーションレジャースポーツ(持久系の運動だけではありません)をしていて、心血管疾患の既往がなく、自転車運動心電図によるスポーツ医学的検査を受けて異常が見られなかったと担当医師が判断した284人(平均年齢55歳)が対象です。運動量とCACと冠動脈プラークの特性を評価しました。運動量は1 週間あたりのMET分を計算し<1000、1000~2000、または>2000 MET分/週に分類されました。

CACのあるアスリートは、CACのないアスリートと⽐較して、年齢が⾼く、収縮期⾎圧と拡張期⾎圧が⾼く、総コレステロールが⾼く、スタチンをより頻繁に使⽤(9%対1%)し、元喫煙者であり、冠動脈疾患の家族歴がある⼈が多いという違いがありました。(スタチン怪しいですね)

CACのあるアスリートは、CACのないアスリートと⽐較して、⽣涯を通じてより⾝体的に活動的であり、これは運動年数、1 週間あたりの運動回数、1 週間あたりの時間、1 週間あたりのMET分数、および⽣涯 MET 時間が多くなりました。CACがある可能性は、⾮常に激しい運動(週あたりの時間)で1.47倍になりました。運動量ではMET分/週が<1000と比較して>2000では3.2倍でした。(図は原文より)

上の図は運動量とCAC(A)およびとアテローム性動脈硬化性プラーク(B)の有病率です。CACがある割合は<1000で43%、>2000では68%でした。運動量が多いほどCAC=0は少なくなりました。

プラークの有病率は>2000で77%、<1000で56%と、やはり運動量が多い方がプラークがある割合が高くなります。

上の図はプラークのタイプです。>2000では混合プラークが少なく、石灰化プラークが主なプラークタイプであることが多く認められました。

持久系の過度の運動は冠動脈の石灰化を起こす可能性があります。では冠動脈石灰化で運動レベルによる死亡率はどうでしょうか?

自己申告でどれだけ運動するかとCACとの関連を見てみると、やはり運動した方が死亡率は低くなります。(ここ参照、図と表もこの論文より)

非常に活発適度に活動的運動不足運動なし
全原因死亡リスク
 CAC= 010.69 (0.32–1.50)0.89 (0.44–1.78)1.1 (0.43–2.79)
 CAC1~3990.76 (0.34–1.75)1.36 (0.68–2.69)1.26 (0.64–2.48)2.48 (1.18–5.22)
 CAC ≥4001.23 (0.47–3.23)1.59 (0.72–3.48)2.62 (1.27–5.44)3.1 (1.35–7.11)

過度な持久運動を想定したものではないかもしれませんが、非常に活発に運動する人は、例えCACが400以上であっても、運動しない人よりは死亡リスクは非常に少なくなっています。CAC=0と有意な差はありません。運動しないCAC400以上では死亡リスクが3.1倍です。

上の図はCACと生存率の関連を示しています。CAC=0であれば、運動は関連していませんが、CACがある場合は運動しないと非常に死亡リスクが高くなり、CAC400以上では、身体活動が減少するごとに生存率もどんどん下がっています。

先ほども書いたように、過度の持久運動がどのように死亡率と関連するかはわかりません。しかし、少なくとも運動しない人よりは良いのではないかと思います。

「Running: the risk of coronary events : Prevalence and prognostic relevance of coronary atherosclerosis in marathon runners」

「ランニング:冠動脈イベントのリスク:マラソンランナーにおける冠動脈アテローム性動脈硬化症の有病率と予後との関連性」(原文はここ

「Relationship Between Lifelong Exercise Volume and Coronary Atherosclerosis in Athletes」

「生涯にわたる運動量とアスリートの冠動脈硬化症の関係」(原文はここ

4 thoughts on “過度の持久運動による心臓血管への悪影響 その2 冠動脈石灰化

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      ありがとうございます。暑さ楽しんできます。

    1. ミホさん、コメントありがとうございます。

      ありがとうございます。天気もそうですが、一番は暑さとの戦いになりそうです。
      でもさっき見たらちょっとだけ予報の気温が下がっていました。30~31度でした。

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