以前の記事「糖質制限でケトーシスになっている人が糖質制限を止めたらどうなる? その1」「その2」で書いたように、糖質制限をしている人が一旦糖質制限を止めると興味深い代謝の変化があります。
今回はその第2弾の研究です。対象は前回と同じく、試験開始前にケトーシスのライフスタイルを送って習慣的(平均3.9年)にケトン体質に適応している健康な閉経前女性10名が対象で、平均年齢32.3歳、平均BMI20.5でした。それぞれ21日間の3つのフェーズがあり、ベースラインの栄養性ケトーシスはβヒドロキシ酪酸≥ 0.5 mmol/L (フェーズ 1、P1)を維持し、フェーズ 2(P2) ではケトーシスを抑制する食事をし、βヒドロキシ酪酸< 0.3 mmol/Lとして、食事中の炭水化物は、例えば2000kcalのエネルギー摂取量のうち炭水化物から55%、糖質量として275 g/日でした。フェーズ3(P3)は再度栄養性ケトーシスの状態に戻ります。(図は原文より、表は原文より改変)
P1 | P2 | P3 | |
---|---|---|---|
BMI | 20.52 (±1.39) | 21.54 (±1.30) | 20.82 (±1.46) |
脂肪量(kg) | 14.21 (±2.55) | 15.88 (±2.23) | 14.78 (±2.20) |
インスリン(µIU/mL) | 4.95 (±1.24) | 9.06 (±2.14) | 5.62 (±1.83) |
血糖値(mmol/L) | 4.36 (±0.53) | 5.12 (±0.59) | 4.41 (±0.30) |
βヒドロキシ酪酸(mmol/L) | 2.43 (±1.28) | 0.18 (±0.13) | 2.31 (±0.71) |
HOMA-IR | 0.97 (±0.32) | 2.07 (±0.61) | 1.11 (±0.41) |
tOCN (ng/mL) | 33.84 (±13.66) | 55.31 (±29.71) | 34.02 (±12.05) |
cOCN(ng/mL) | 31.54 (±12.59) | 50.78 (±26.22) | 32.02 (±11.13) |
unOCN(ng/mL) | 2.29 (±1.25) | 4.54 (±3.79) | 2.00 (±1.16) |
tOCN % (P1に対する%) | 100.00 | 162.36 (±46.53) | 109.70 (±40.36) |
cOCN % (P1に対する相対値) | 100.00 | 161.56 (±46.73) | 111.52 (±42.90) |
unOCN % (P1 に対する相対値) | 100.00 | 176.67 (±66.66) | 87.11 (±21.43) |
レプチン(ng/mL) | 4.50 (±3.67) | 15.08 (±8.00) | 4.57 (±3.48) |
コルチゾール(ng/mL) | 126.20 (±52.67) | 112.70 (±58.46) | 131.90 (±52.18) |
セロトニン(ng/mL) | 21.05 (±22.83) | 18.38 (±16.03) | 21.77 (±16.80) |
GLP-1 (pg/mL) | 1383.18 (±911.36) | 576.72 (±452.43) | 1471.85 (±1066.75) |
上の表は様々なパラメータの変化です。OCNはオステオカルシンです。tOCNは総オステオカルシン、cOCNはカルボキシル化オステオカルシン、unOCNは非カルボキシル化オステオカルシンです。オステオカルシンは血糖値恒常性、インスリン感受性、神経新生、認知的健康、ミトコンドリア生合成において内分泌機能を持つことが示されています。
上の図はインスリン抵抗性のHOMA-IRの推移です。ケトーシスを抑制したP2でHOMA-IRは増加し、P1のおよそ2倍です。インスリン値もP2で1.8倍程度になっています。
上の図は血中のオステオカルシンの推移です。全てのオステオカルシンで増加している人が多く、平均で総オステオカルシンが1.63倍、非カルボキシル化オステオカルシンが1.98倍と有意に増加しています。
メタボリックシンドロームの人では、血中のオステオカルシンレベルは、HOMA-IR、空腹時インスリンおよび血糖値、レプチン、BMIと逆相関していることが示されています。さらに、オステオカルシンは肥満の人や2型糖尿病患者で低いことがわかっています。そうであるならば、オステオカルシンが高いほど健康に良いと思ってしまいます。
しかし、今回の研究では逆で、ケトーシス抑制でHOMA-IRが増加したにもかかわらず、オステオカルシンが増加しています。さらに、P2でBMIと脂肪量が増加すると、すべてのOCNも増加しています。
P2ではオステオカルシンが増加し、インスリンも増加したことから、オステオカルシンがインスリン分泌を増加させる潜在的な効果があることが示唆されたと書かれています。正しいのかどうかはわかりません。P2では空腹時血糖値が有意に上昇しましたが、平均値はまだ健康的な範囲内であったことを考えると、オステオカルシンが増加していなければ、血糖値がさらに上昇し、インスリン抵抗性がもっと増加していたかもしれません。オステオカルシンは興味深いですが、まだ勉強不足でよくわかりません。
レプチンはP2で3.35倍と大きく増加しています。レプチンは高インスリン血症のより敏感なマーカーと考えられています。P2で空腹時インスリンが大幅に増加したため、空腹時レプチンも大幅に増加しました。レプチン濃度が高いほど、高齢者のフレイルのリスクが高くなります。今回の研究は若い人でしたが、糖質過剰摂取でレプチンが高まることは高齢者にはさらに危険なことなのかもしれません。
上の図はコルチゾールとセロトニンの推移です。変化を認める人もいますが、全体としては有意な変化を認めませんでした。
上の図はGLP-1の推移です。GLP-1はケトーシスの抑制で大幅に減少しています。P1と比較しておよそ40%程度の値まで減少しています。最近GLP-1受容体作動薬が流行っていますが、糖質制限をすれば、そんな薬を使用しなくてもGLP-1は大きく増加します。逆に言えば、糖質がGLP-1を低下させている原因です。間違った食事をしているために、無駄な薬を使う羽目になるのです。
今回の研究では糖質過剰摂取を止めて、ケトーシスになる食事に戻すと、速やかに様々なパラメータも元に戻りました。
糖質過剰摂取を止めて、老化を少しでも抑制しましょう。
「Ketosis Suppression and Ageing (KetoSAge) Part 2: The Effect of Suppressing Ketosis on Biomarkers Associated with Ageing, HOMA-IR, Leptin, Osteocalcin, and GLP-1, in Healthy Females」
「ケトーシス抑制と老化(KetoSAge)パート2:健康な女性におけるケトーシス抑制が老化に関連するバイオマーカー、HOMA-IR、レプチン、オステオカルシン、GLP-1に与える影響」(原文はここ)
「間違った食事をしているために、無駄な薬を使う羽目になるのです。」
ということは、
既得権を守るためにも、
「常識的な」医療者が、
間違った食事を推奨するのは
理に叶ってますね。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
はい、理にかなっています。