連日の猛暑、札幌でも30度以上の日が続いています。夕方でも30度くらいあるなんて、かなり札幌でも珍しいのではないでしょうか?そんな中でランニングをするのは結構大変です。でも暑い中を走るのは好きです。
先日夕方に1時間ちょいのランニングをしました。スタート時点では30度弱だったと思いますが、比較的北海道としては湿度が高めでした。案の定、大量の汗をかきました。1時間程度なので、もちろん無給水です。こまめな水分補給はしていません。暑い中、2時間以上走る場合はさすがに、10kmくらいから水分を摂りますが、2時間くらいなら500~600mlのペットボトル1本です。
でも、さすがにランキング後は喉が渇きます。夕方のランニングの後はシャワーに入り、食事とビール(糖質ゼロ)350ml1本を飲みました。もちろんそれ以外にも水分は喉の渇きが癒されるまで飲みます。相当量飲みます。脱水時には利尿作用のあるビールやコーヒーは逆効果で、脱水を悪化させるとマスコミなどで時折言われています。まあ、ウソでしょう。ビールに加えてたくさん水分摂取しても、次にトイレに行ったのは数時間後で、通常よりも濃いオシッコでした。もちろん利尿が無かったのは、飲んだビールの量が少なかったというのも一つです。
以前の記事「脱水時にアルコールを飲むとさらに脱水になるか?」でも書いたように、ビールに利尿作用があるからと言って、脱水時でもオシッコがたくさん出て、脱水が悪化するなんてことはないでしょう。利尿薬を飲んでいるわけではなく、自然な利尿作用のある物質では脱水を上回る利尿なんて起きないでしょう。この記事の研究では600mlのビールでも利尿作用はありませんでした。
ビールにかかわらず、アルコールには利尿作用があると言われています。そのメカニズムは、バソプレシン(抗利尿ホルモン)分泌の抑制と腎尿細管再吸収の抑制に関係していると考えられています。
今回の研究では、平均年齢23歳の12人の健康な男性ボランティアが対象で、同じ人が4回の試験を行います。ノンアルコールビール1Lまたはノンアルコールビールにエタノールを加えて4%のアルコール分にしたビール1Lを飲みますが、運動後に脱水状態のままと正常の水分量に戻した状態の2通りの状態で試験を行います。つまり、アルコールなしで正常水分 (ENA)、アルコールありで正常水分 (EA)、アルコールなしで脱水 (HNA)、アルコールありで脱水 (HA)の4つの試験です。
すべての試験において、温度35.1°C、相対湿度68%で断続的に運動することによって脱水状態が誘発されました。運動は10分間行われ、5 分間の休憩が設けられ、その間に被験者はタオルで体を拭いて裸の体重を記録しました。運動は、減少した体重が運動前の体重の少なくとも1.8%になるまで繰り返されました。
正常水分状態にする試験の場合、運動前の体重の2%に相当する量の水を摂取しました。脱水状態にする試験では、食事と一緒に水100ml が与えられ、翌朝研究室に戻るまで水分の摂取を控えるように求められました。かなりキツイですね。脱水のまま一晩過ごせるのでしょうか?
さて、次の朝にアルコール入り、またはノンアルコールのビール1L与えられ、30分かけて全量を飲むように求められました。そして、4時間観察されました。(図は原文より、表は原文より改変)
体重減少率 (%) | |||
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試験 | 脱水のための運動直後 | ビールを飲む前 | 観察期間後 |
ENA | 1.85 ± 0.04 | 0.57 ± 0.43 | 1.14 ± 0.36 |
EA | 1.85 ± 0.05 | 0.65 ± 0.56 | 1.38 ± 0.53 |
HNA | 1.83 ± 0.04 | 2.48 ± 0.27a | 1.74 ± 0.41 |
HA | 1.84 ± 0.04 | 2.47 ± 0.25a | 1.89 ± 0.33 |
上の表はそれぞれの試験の体重減少率です。運動で脱水になった後はどの場合も1.8%程度の体重減少です。脱水状態のまま一晩過ごした試験では、ビールを飲む前では2.5%程度の体重減少で、正常水分状態の0.6%の体重減少とはかなり違いますね。4時間の観察後では、多少脱水試験で体重減少が多いように見えますが、正常水分状態の試験と有意差はありません。
上の図は4時間の尿量です。まあ予想どおり、正常水分試験の方が脱水試験よりも圧倒的に尿量が多いですね。また、EA試験 (1279 ± 256 ml) の方が ENA試験 (1121 ± 148 ml) よりも尿量が多かったことがわかります 。つまり、正常水分状態ではアルコールにより尿量が増加しました。
HA試験の尿の量は、HNA試験の量と有意差はありませんでした。つまり、脱水状態ではアルコールにより尿量が有意に増加していません。少しは多くなるようには見えますが。
上の図は、ビール摂取後の1時間ごとの尿量を示しています。すべての試験において、ピークの尿量が摂取終了の1時間後に発生し、 その時点での尿量は、正常水分試験の両方 (EA 643 ± 303ml、ENA 599 ± 205ml) の方が、いずれの脱水試験 (HA 113 ± 81ml、HNA 70 ± 30ml) よりも有意に多くなっています。ややアルコール摂取試験の方が尿量は多く見えますが、有意差はありませんでした。EAとHA を合わせた総尿量をENAとHNA を合わせた総尿量と比較すると、アルコール試験の方がノンアルコール試験よりも尿の生成量が有意に多くなりました (それぞれ 1540 ± 345 対 1295 ± 147)。
データは示されていませんが、飲酒後1時間から2時間の間に、両方のアルコール試験で血糖値が有意に低下したそうです。
上の図は脱水前と比較した血漿量(血液量)の変化率です。脱水状態の試験では、ビールを飲む前に血漿量が減少しています。HNAではノンアルコールビールによりベースラインまで戻っていますが、HA試験ではアルコール摂取後1時間で少し増加したものの2時間では再び減少しています。3時間と4時間で少しずつ回復しています。正常水分ではEAのアルコール摂取試験でHAと同様に2時間後に急激に血漿量が減少しています。
つまり、脱水状態ではアルコールにより、脱水が悪化するほど尿量は増加しませんが、脱水を改善することにもならず、4時間後くらいで戻ってくる感じです。
上の図は自由水クリアランスです。マイナスは濃いオシッコ、プラスは薄いオシッコです。アルコールおよびノンアルコールを飲んでから2時間後、EAとENA間の自由水クリアランス速度はそれぞれ5.12 ± 1.95と3.19 ± 1.77 ml/分であり、HAとHNA間の自由水クリアランス速度はそれぞれ−0.34 ± 0.94と−1.28 ± 0.44 ml/分で有意差がありました。つまり、脱水時でも2時間後で見れば、ある程度の利尿作用を認めることになります。しかし、3時間後以降ではその効果は消失しています。
4時間という時間幅で見れば、脱水時のアルコールは利尿作用を示すとは言えませんが、2時間では多少の利尿作用を示しています。しかし、先ほども書きましたが、脱水が悪化するほどではないと思われます。そして4時間かけて正常に近づいていきます。
また、4%のアルコールを1L飲んで、正常水分状態では、ノンアルコールと比較して排泄した尿の平均余剰量はわずか158mlでしたが、個人の反応は-165~468 mlの範囲であり、脱水状態では、同量のアルコールの追加により平均87 mlの尿が余分に生成され、個人の反応は-165~411 mlの範囲で、非常に個人差が大きいのがわかります。恐らく同一の個人でも日によって違いが出ると思います。バゾプレシン分泌に影響を与える栄養素は他にもあらからです。例えば果糖はバゾプレシン分泌を促進します。
先日のウルトラマラソンの夕食時にアルコールを飲みましたが、全く利尿は得られませんでした。アルコールだけでなくかなりの水分を摂取してもオシッコはジャンジャン出てくれませんでした。
アルコールの利尿作用よりも脱水を脱する人間のメカニズムの方が強いのでしょう。マスコミの言うことなど気にせず、今日もアルコールを飲みます。
「Hydration status and the diuretic action of a small dose of alcohol」
「水分補給状態と少量のアルコールの利尿作用」(原文はここ)