糖質制限でケトーシスになっている人が糖質制限を止めたらどうなる? その2

今回は「その1」の続きです。まずはOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)についてです。その1でも示したように、フェーズ1(P1)は糖質制限でケトーシスの状態、フェーズ2(P2)は糖質制限を止めた糖質過剰摂取の状態、フェーズ3(P3)は再度糖質制限をしてケトーシスの状態です。(図は原文より、表は原文より改変)

上の図の青がP1、赤がP2、黒がP3です。図のAは血糖値、Bはインスリン値、Cはケトン体のβヒドロキシ酪酸値の推移です。OGTT直前の空腹時血糖値は、P2で5.01mmol/L(日本の単位で90mg/dLでしたが、P1およびP3では76mg/dLでした。

OGTTのピークの時間は糖質過剰摂取のP2で30分後、ケトーシスのP1とP3では60分後でした。ピークの値もP2では119mg/dL、P1で150mg/dL、P3で135mg/dLでした。やはり糖質制限でいきなりOGTTをやると血糖値は上がりやすくなりますね。P1とP3では240分でベースラインに戻っていましたが、P2は180分で戻った後に再び増加を示しました。恐らくP2の180分後では血糖値が66mg/dLと下がり過ぎたために、慌てて体の警報が鳴ってアドレナリンなどが分泌されて、血糖値を再上昇させたのではないかと思います。

インスリン値のピークも血糖値と同様にP1とP3では60分後で、P2で30分後でした。ピーク値はP2の方が高くなっていました。

当然ケトン体はP2で非常に低く、ケトーシスでは非常に高くなっていました。ブドウ糖負荷後でもケトン体は60分後で比較すると、P1(1.41mmol/L、日本の単位で1400μmol/L)とP2(0.19mmol/L、190μmol/L)P3(1.08mmol/L、1080μmol/L)でした。以外にも糖質過剰摂取のP2でも意外とケトン体が出ていますね。ケトーシスのP1とP3でケトン体がブドウ糖負荷でさらに大幅に低下しましたが、180分後でもP1で0.42mmol/L(420μmol/L)、P3で0.52mmol/L(520μmol/L)でした。血糖値が低下するとともに、速やかにケトン体が増加し始めています。

肝機能のマーカーの一つであるγGT(GGT)と線溶系の阻害因子のPAI-1は糖質制限を止めたらどうなったでしょうか?

ケトーシスのP1と比較すると糖質制限を止めたP2ではγGTは上昇しています。もちろん、異常値ではありませんが、ケトーシスでは非常に低くなることがわかります。一方PAI-1はP1よりもP2で増加しています。血管内皮障害や血栓形成促進状態などでPAI-1は増加します。糖質過剰摂取ではPAI-1が増加するのです。ただ、一度P2で高くなったPAI-1はP3で再度低下する傾向は見られるものの、有意には低下していません。PAI-1はすぐには戻らないのかもしれません。

P1P2P3
中性脂肪(mg/dL)66.80 (±28.00)66.10 (± 21.09)79.30 (± 45.88)
総コレステロール (mg/dL)231.50 (±62.42)188.50 (± 30.28)210.20 (± 43.44)
HDL コレステロール (mg/dL)70.10 (±10.37)72.70 (± 13.59)69.80 (±11.84)
LDL コレステロール (mg/dL)4.46 (± 2.03)3.13 (± 0.91)3.96 (± 1.34)
中性脂肪/HDL(mmol/L)1.01 (± 0.55)0.95(±0.38)1.25 (±0.90)
CRP (超高感度) (mg/L)1.00 (±1.19)1.16 (±1.56)1.35 (± 2.23)
γGT(U/L)9.60 (± 3.13)12.40 (± 2.55)9.70 (± 2.50)
コルチゾール (μg/dL)12.62 (± 5.27)11.27 (± 5.85)13.19 (± 5.22)
PAI-1 (ng/mL)13.34 (± 6.85)16.69 (± 6.26)17.05 (± 5.58)

予想に反して、中性脂肪はP2では変化しませんでした。そしてケトーシスに戻したP3で中性脂肪が少し増加を示していました。CRPもP3で少し増加傾向を示していました。LDLコレステロールは有意ではありませんが、やはり糖質過剰摂取で低下傾向を示しました。

上の図は、上皮成長因子(EGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、単球走化性促進因子(MCP-1)です。どれもケトーシスのP1では低く維持されていますが、糖質制限を止めたP2では増加を示しています。
VEGFはP3で有意には低下していませんが、EGFとMCP-1はP3で再度低下しています。21日間という長さは、VEGFなどのいくつかの成長因子が十分に低下しないほどの期間になっているのかもしれません。VEGF、EGF、MCP-1 が多くのがんで上昇していることが多いことを考えると糖質制限はがんの予防に非常に有利になる可能性が高いと思われます。
P1P2P3
EGF (pg/mL)33.02 (± 30.96)50.13 (± 38.19)37.82 (± 26.81)
VEGF (pg/mL)93.93 (±54.30)147.33 (±100.03)134.80 (± 98.79)
インターフェロン-γ(pg/mL)1.14 (± 2.64)0.72 (± 1.05)0.57 (± 0.90)
MCP-1 (pg/mL)103.98 (± 39.30)192.53 (± 84.73)128.52 (±51.80)
TNF-α (pg/mL)2.23 (± 1.75)2.66 (±1.26)2.09 (± 0.97)
IL-1a (pg/mL)0.30 (±0.40)0.26 (±0.25)0.26 (±0.25)
IL-1b (pg/mL)2.23 (± 3.42)1.85 (± 2.02)1.71 (± 2.04)
IL-2 (pg/mL)1.92 (± 1.48)1.71 (± 1.16)1.94 (± 1.37)
IL-4 (pg/mL)2.14 (±0.80)2.06 (± 0.99)2.25 (± 1.17)
IL-6 (pg/mL)0.95 (± 0.80)1.22 (±1.11)0.84 (± 0.56)
IL-8 (pg/mL)8.91 (± 9.56)8.60 (± 5.93)8.08 (± 6.30)
IL-10 (pg/mL)0.61 (± 0.37)0.68 (± 0.46)0.53 (± 0.25)

上の表のようにインターロイキンは有意な変化はありませんでした。

我々人類は、断続的で時間制限のある摂食パターンに適応してきました。その食事内容も糖質はほとんどなく、その結果血糖値の大きな変動も、インスリンの大きな分泌増加もありませんでした。それが人類の獲得した初期設定です。それに反した現在の食事には適応できていません。適応症と無理をしているので、様々な不具合、疾患が起きてくるのです。

21日という短期間でさえ、食事を変えれば代謝は大きく変わります。糖質制限から糖質過剰摂取に変えれば、様々なパラメータが悪化します。そしてその中の一部は、もとの糖質制限に戻しても21日という短期間ではもとに戻ってくれません。悪い代謝にはすぐに変化するのに、一度悪い代謝になると良い代謝に完全に戻るのにはもう少し期間が必要なのかもしれません。

様々な疾患のもととなる高血糖、高インスリン血症を回避するために、糖質制限をしましょう。食事の回数および時間を減らしましょう。

ほとんどの症状や疾患は糖質過剰症候群です。

 

「Ketosis Suppression and Ageing (KetoSAge): The Effects of Suppressing Ketosis in Long Term Keto-Adapted Non-Athletic Females」

「ケトーシス抑制と老化 (KetoSAge): 長期ケト適応非アスリート女性におけるケトーシス抑制の効果」(原文はここ

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