鉄欠乏に近づけると痛風発作は激減する

痛風=尿酸値の上昇、と単純に考えている人が多いと思いますが、実は痛風発作がどうして起きるのかは詳細にはよくわかっていません。でも単純にすることにより、高尿酸血症があれば治療対象にできるので、医療にとっては非常に有益です。そして、一旦薬を処方すれば、ずっと患者のままでいてくれます。尿酸値と痛風の関係はコレステロール値と心血管疾患の関係とよく似ているのではないかと感じています。

確かに、高尿酸血症の重症度とともに痛風発作の有病率も高くなりますが、高尿酸血症の患者の中には何年も症状が出ない人もいます。同様に、尿酸結晶沈着は痛風性関節炎の病理学的特徴ですが、発作の合間に、つまり炎症の徴候や症状がない場合でも尿酸結晶が見つかることがあります。また、痛風発作時に尿酸値が正常であることもあります。

つまり、高尿酸血症や尿酸結晶沈着だけでは急性痛風発作を引き起こすには不十分であり、炎症を誘発するには他の何らかの要因が必要であると考えられます。

以前の記事「若い男性におけるメタボリックシンドロームと痛風発症リスクの関係」で書いたように、メタボやインスリン抵抗性との関連から考えれば、糖質過剰摂取が最も原因であると思われますが、糖質過剰摂取による何が問題なのかというのもあります。

今回の研究では、痛風発作が酸化ストレスの増加により起きていることを示唆しています。そして、それは糖質過剰摂取ではなくても、他の要因による酸化ストレスの増加が関連しているとも考えられます。その酸化ストレスの増加をもたらすのは鉄です。

いくつもの研究で、鉄が酸化ストレスを増加させて、痛風発作と関連しているということが示されています。

今回の研究では、体内の鉄が最大限に枯渇しつつも正常な赤血球生成を維持するのに十分なレベルまで減らした場合、痛風性関節炎のさらなる発作を予防または緩和できるかどうかを試験しました。

対象の12人の患者は全員、高尿酸血症で、非喫煙者であり、3年以上の痛風の病歴がり、12人中8人の患者では、以前に関節液穿刺で尿酸結晶が検出されました。

500mlの血液を抜く(瀉血)ことを、毎月または2か月に1回実施されました。貧血を予防するために必要に応じて次の瀉血を延期することで、各患者のヘマトクリット(Hct)がベースライン値から5%を超えて低下しないようにしました。near-iron deficiency (NID)(鉄欠乏に近い状態)は体内の鉄貯蔵量が貧血を回避するのに十分であるものの、血清フェリチン≤30μg/l、鉄飽和度≤15%、平均赤血球容積(MCV)≤82flで示されるように大幅に減少している状態です。この状態を目指します。

これらの状態では、一般に染色可能な肝臓鉄は無視できるかまったく存在せず、体内の総鉄貯蔵量はおそらく100~200mgらしいです。

NID到達後は毎月の血清フェリチンおよび鉄飽和指数が NID 値を超えて上昇したときに定期的に血を抜き、NID が維持されました。NIDを達成および維持するために必要な瀉血の平均回数は、0年目、1年目、2年目それぞれ7回、3回、3回でした。初期の体内鉄貯蔵量は1.8gでした。

そうすると痛風発作はどうなったでしょうか?まずは様々なパラメータを見てみましょう。(図は原文より、表は原文より改変)

2年前ベースライン2年後
年齢(歳)50±652±654±6
BMI28±228±229±3
男性 10/12 10/12 10/12
エタノール摂取量(g/日)12±414±515±6
フェリチン(μg/l)287±81301±9826 ± 10
鉄飽和度(%)44±1345±1213 ± 2
MCV (fl)90±389±480 ± 2
Hct(%)45±244±243 ± 1

上の表のように、年齢はベースラインで平均52歳、12人中10人が男性でした。フェリチンは300程度あったのが、NIDが維持された2年後では26まで大きく低下しています。飽和度も45から13にまで低下しています。Hctは44から43とほとんど変化していません。

上の図は瀉血前の2年間 (-2年目と-1年目)、NIDの導入中 (0 年目)、およびNIDが維持されたその後の2年間 (+1 年目と+2年目) の、重症度に関係なく年間の発作回数を示しています。NIDになる前では年に数回、多い人では10回の発作があったのに、NIDを維持した1年目では発作回数が激減し、2年目ではおよそ60%(12人中7人)が発作がゼロになっています。

上の図はそれぞれの年間発作回数の変化です。年間痛風発作の平均回数の個人内での変化は、NID前6.4回からNID後2.0に減少しました。発作がなくなった患者は、アロプリノールの服用を継続したものの、非ステロイド薬またはコルヒチンによる抗炎症療法はそれ以上必要ありませんでした。

上の図は、全患者におけるNID達成前 (-2 年目と -1 年目)、達成中 (0 年目)、達成後 (1 年目と 2 年目) の痛風性関節炎重症度スコアの中央値を示しています。図の中のNは発作の総回数を示しています。発作回数が激減しただけでなく、重症度も低下しています。ほとんどの発作の重症度スコアは1と最も低くなっています。

NIDを達成した患者の58%で痛風発作の再発を防ぎ、残りの42%においても、発作の頻度と重症度を大幅に軽減しました。

つまり、鉄は痛風発作に大きな影響を与えている可能性が高いと思われます。鉄による酸化ストレス、インスリン抵抗性が、血を抜くことにより大きく減少したと思われます。

一部では、フェリチン値は100以上とか200以上とか、年齢や性別を問わず、常に相当量の鉄を貯蔵しておくべきであるという考えを信じている人がいます。確かに鉄欠乏で貧血を呈するような状態は良くないでしょう。

しかし、最適なフェリチン値が100~200以上とは思えません。様々な欧米の研究でさえ、健康な対照群のフェリチン値は100以上というのはそれほどありません。ほとんどが代謝的に不健康な欧米の人たちの平均値は全く当てになりません。日本人は欧米人ほど代謝的に不健康がそれほど多くないので、欧米人に比べて日本人のフェリチン値は低いというのは、ある意味当たり前です。

進化の過程で、人類は鉄の塊を飲み込んでいた時代は全く存在しません。肉をしっかり食べて、自然に鉄を補給すれば十分でしょう。

痛風発作のある方は、積極的に献血をしてみてはいかがでしょうか?

「Near-iron deficiency-induced remission of gouty arthritis」

「鉄欠乏に近い状態による痛風性関節炎の寛解」(原文はここ

3 thoughts on “鉄欠乏に近づけると痛風発作は激減する

  1. R5.4.15健診で赤血球値が若干低く、
    鉄剤を飲み始め、R6.3.15尿酸値7.5
    に上がりました。

    幸い痛風発作は無いですが、、、

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      鉄で尿酸値がいくつからいくつに増加したのでしょうか?

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