糖質制限は肥満高齢者の内臓脂肪やインスリン抵抗性の低下をもたらす

日本でも肥満の高齢者が増加しているように思います。代謝や身体機能が衰えていく時期に肥満であれば、さらに様々な慢性疾患や身体機能の障害を起こす可能性が高くなるでしょう。

肥満は運動不足で起きるのではなく、食事の間違いで起きます。肥満は糖質過剰症候群です。

今回の研究では高齢者に糖質制限または低脂肪食を行ってどうなるかを調べています。肥満(BMIが30~40 )のある60~75歳(平均年齢70歳)の男女34人が対象です。無作為に超低炭水化物食または低脂肪食に分けられ、それを8週間続けてもらいました。

超低炭水化物食は、摂取エネルギーのうち、炭水化物から10%以下、タンパク質から25%、脂質から65%以上とし、肉、魚、豚肉、鶏肉などの他のタンパク質源とともに、1日あたり全卵3個 を摂取するように求められました。食事は低血糖の炭水化物源を重視し、主に葉物野菜、非デンプン質の野菜、一部の果物、高繊維穀物などの自然食品を含み、高度に加工された穀物製品や添加糖は最小限に抑えました。脂質を含む食品には、オリーブ、ココナッツ、ナッツオイル、バター、木の実とナッツバター、チーズ、クリーム、ココナッツミルク、アボカドなどや、全脂肪乳製品もいくつか含まれていました。(これはなぜかわかりませんが)赤身の肉に含まれる飽和脂肪は、1日の摂取カロリーの10%未満に制限されていました。エネルギー(カロリー)制限はありません。

低脂肪食グループの参加者は、炭水化物55%、タンパク質25%、脂質20%のエネルギーを摂取する標準的な低脂肪食を摂取するよう指導されました。この食事では、赤身の肉、低脂肪乳製品、全粒穀物、豆類、果物、野菜の摂取を重視しました。高脂肪食品、高コレステロール食品、加工デンプン、添加糖を最小限に抑え、1 日のナトリウム摂取量を2,300mg未満に抑えました。(塩分制限もなぜかわかりません)飽和脂肪は総エネルギーの10%未満に制限し、無脂肪または低脂肪乳製品が推奨されました。このグループの参加者は、8 週間の介入期間中は全卵の摂取を避けるよう求められ、毎日、間食または食事と一緒に食べる朝食バー(約 180 kcal、タンパク質4 g、脂質10 g、炭水化物22 g)が提供されました。この食事もエネルギー制限はありません。(図は原文より、表は原文より改変)

低脂肪食超低炭水化物食
ベースライン8週後ベースライン8週後
体重 (kg)96.8 ± 30.995.9 ± 28.493.7 ± 15.187.8 ± 12.5
総脂肪量 (kg)40.3 ± 7.539.5 ± 7.542.4 ± 9.638.3 ± 10.9
内臓脂肪(kg)1.8 ± 0.81.7 ± 0.82.2 ± 1.01.7 ± 0.7
内臓脂肪 (cm3)2077.6 ± 10382145.4 ± 1056.82613.6 ± 943.52249.2 ± 778.2
皮下腹部脂肪 (cm3)5496.8 ± 20495116.8 ± 2117.35481.1 ± 2499.34340.9 ± 1626
大腿皮下脂肪 (cm3)349.6 ± 225.5346.2 ± 216.1317.2 ± 199.7289.6 ± 186.4
大腿筋肉周囲脂肪 (cm3)36.2 ± 16.236.4 ± 18.333.8 ± 11.330.9 ± 13.8
大腿筋間脂肪 (cm3)15.1 ± 6.615.7 ± 8.720.9 ± 13.415.8 ± 9.9
大腿筋 (cm3)345.9 ± 78.8339.4 ± 76.3366.5 ± 95.2354.3 ± 84.9
総除脂肪 (kg)47.3 ± 7.248.0 ± 6.950.3 ± 1.248.8 ± 1.2

上の表のように、超低炭水化物食で体重、総脂肪量、内臓脂肪、皮下腹部脂肪、大腿部皮下脂肪、大腿部筋間脂肪、および総除脂肪量が有意に減少しました。超低炭水化物食グループでは総脂肪量が9.7%減少し、低脂肪食グループでは2.0%しか減少しませんでした。

上の図は個々の参加者の総脂肪量、総除脂肪量、内臓脂肪量の変化です。超低炭水化物食の方が大きく減少しています。

上の図のように、平均して、超低炭水化物食では内臓脂肪が22.8%減少したのに対し、低脂肪食では1.0%減少し、大腿筋間脂肪は超低炭水化物食で24.4%減少したのに対し、低脂肪食では+1.0%でした。総脂肪の変化を調整した後、大腿部筋間脂肪は低脂肪食グループと比較して超低炭水化物食グループの方が有意に低いままであり、大腿部筋肉は低脂肪食グループ(334.4cm3)と比較して超低炭水化物食グループ(358.9cm3)の方が有意に高くなっていました。

低脂肪食超低炭水化物食
週 0第8週週 0第8週
空腹時血糖値(mg/dl)103.4 ± 9.6101.6±10.6106.0 ± 13.3103.4 ± 9.8
空腹時インスリン(μU/ml)15.6±6.516.0 ± 8.213.7 ± 5.69.4 ± 4.0
HOMA-IR4.0±1.64.1±2.03.4±1.42.4 ± 01.1
SIクランプ(10 -4 .kg -1 .min -1 /(μU/ml)1.8±1.02.1±1.41.7±0.62.8 ± 1.7
CRP (mg/l)3.7 ± 3.75.3 ± 5.33.2±2.35.3±4.9
TNF-α(pg/ml)1.8±0.92.0±1.21.5±1.01.6±0.9
IL-6 (pg/ml)1.6±0.91.9±1.12.2±1.12.1±1.1
コレステロール(mg/dl)185.5±36.9183.7±43.0186.6±40.0176.0 ± 41.2
LDL(mg/dl)101.9 ± 26.2103.8 ± 27.4108.6 ± 34.098.4 ± 37.9
HDL(mg/dl)56.0 ± 19.856.5±19.453.9 ± 10.561.2 ± 10.4
中性脂肪(mg/dl)138.1 ± 47.3117.2 ± 36.6121.1 ± 47.981.8 ± 22.9

上の表は食事グループによる代謝とホルモンの変化です。 超低炭水化物食後、空腹時インスリン、HOMA-IRは有意に減少、SI(インスリン感受性)は有意に増加しています。もちろんそれに伴い、HDLコレステロールは増加し、中性脂肪は減少しています。低脂肪食では中性脂肪が少し減少したい以外、変化がありません。空腹時インスリンの高値、インスリン抵抗性もそのままです。

上の図は超低炭水化物食および低脂肪食摂取後の安静時エネルギー消費量(REE)および呼吸商の平均変化です。REEは食事グループ内での有意な変化はなく、8週後のREEの変化についても食事グループ間での差はありませんでした。超低炭水化物食ではRQが大幅に減少しましたが、低脂肪食では変化がありませんでした。

8 週間の介入の中間点における参加者の「自己申告」による平均的な食事摂取量は、食事グル​​ープの間で、1日あたりに摂取される総タンパク質と脂質のグラム数に有意差はありませんでした。2つのグループ間で、1日あたりに摂取される総炭水化物のグラム数に有意差があり、平均して、超低炭水化物食グループには 48g、低脂肪食グループは188gでした。 さらに、エネルギー制限がないにもかかわらず、自己申告のエネルギー摂取量は超低炭水化物食グループで1114kcal、低脂肪食グループで1535 kcal 報告されました。ちょっと少なすぎですね。過少申告かもしれません。もっとエネルギーを摂取しても糖質制限では体重が減少します。

8 週間で、超低炭水化物食は低脂肪食と比較して内臓脂肪と筋間脂肪 が3 倍減少しました。MRIによる骨格筋の直接測定では、脂肪量の変化を調整した後、超低炭水化物食の参加者の大腿部の筋肉が大きく、脂肪組織の減少にもかかわらず大腿部の骨格筋が保持されたことが示唆されました。超低炭水化物食は測定された除脂肪体重の大幅な減少を認めましたが、脂肪量の変化を調整した後の除脂肪体重の変化には食事群間で差はなく、水分状態が除脂肪体重の結果に影響を与えた可能性があります。

いずれにしても、高齢者でも糖質制限をすると、代謝に有益な効果が認められます。低脂肪食では大きな体重減少、インスリン抵抗性などの代謝的な変化は得られません。

肥満になる前に、様々な疾患や症状が現れる前に、まずは糖質制限をしましょう。

「Effects of weight loss during a very low carbohydrate diet on specific adipose tissue depots and insulin sensitivity in older adults with obesity: a randomized clinical trial」

「超低炭水化物食による減量が肥満高齢者の特定の脂肪組織蓄積とインスリン感受性に与える影響:ランダム化臨床試験」(原文はここ

2 thoughts on “糖質制限は肥満高齢者の内臓脂肪やインスリン抵抗性の低下をもたらす

  1. 日清食品の「完全飯」始め、中途半端な「糖質オフ」
    手軽で健康的との宣伝に惑わされる高齢者(に限りませんが)
    は多いでしょうね。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      そもそも手軽を求めることが、企業などに付け込まれるのでしょう

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