体内のマグネシウム量を測定することは非常に難しいです。血中のマグネシウム値がそのまま体内のマグネシウム量を反映しているわけではありません。体内の総マグネシウム含有量は約24 gで、その99%は細胞内にあり、主に骨、筋肉、軟部組織に蓄えられ、細胞外スペースには1%しか存在しません。
しかし、マグネシウムは非常に欠乏しやすいですし、重要なミネラルなので、マグネシウムが足りてるかどうかは知りたいですよね。
マグネシウム耐性試験(MTT)は、マグネシウムの状態を測る標準的な方法ですが、非常に煩雑なので通常測定できません。
そこで、マグネシウム枯渇スコア(MDS)というものを提唱した人たちがいます。足りているかどうかというよりも、マグネシウム欠乏を予測するスコアです。MDSとMTTが相関していることを確認しています。
マグネシウムの一般的な摂取量は約300mg/日だそうです。腸管吸収率は、マグネシウムを多く含む食事を摂取した場合の25%から、マグネシウムが欠乏した食事を摂取した場合の75%までの範囲らしいです。およそ120mgのマグネシウムが吸収され、20mgが消化管分泌物として失われるため、1 日の純摂取量は100mg/日になります。
しかしPPI(プロトンポンプ阻害薬)は、マグネシウムの吸収を低下させ、特に長期使用後には低マグネシウム血症を引き起こすことが知られています。
また、マグネシウムは腎臓で調節されています。正常な腎機能では、腎臓は1日あたり約2000~2400mgのマグネシウムを濾過するそうです。そして正常な状態では、濾過されたマグネシウムの96%は、尿細管で再吸収されます。重要なマグネシウムはほとんどが再吸収されるのです。
しかし利尿薬の使用はこの再吸収を低下させます。
さて、このマグネシウム枯渇スコア(MDS)とはどんなものでしょう。実に単純です。PPIによる吸収阻害、利尿薬による排泄増加を考慮し、そこに腎機能低下と飲酒(ともにマグネシウムの排泄増加)を合わせて、4つの因子でスコア化します。
・利尿薬の使用(現在使用中の場合は1点)
・PPIの使用(現在使用中の場合は1点)
・腎機能:推定糸球体濾過量(eGFR)が90未満の場合は1点、60未満の場合は2点
・飲酒(大量飲酒の場合は1点)、女性が1日1杯以上、男性は1日2杯以上を飲んだ場合を大量飲酒としています。(1杯はエタノール14g程度)
最高点は5点です。私は飲酒は1杯程度なので一応MDSは0点ですね。
MDSが0点の人と比較すると、MDS3点以上の人では、心血管疾患死亡率が3.13倍、MDS3点以上の人でマグネシウム摂取量が少ない(およそ300mg以下かな?でも摂取量を推定するのも非常に困難ですが…)場合、全原因死亡リスクが1.63倍、心血管疾患死亡率が4.14倍でした。
MDSとメタボリックシンドロームとの関連(ここ参照)を見てみると、MDSが0点の人と比較して、メタボの可能性はMDS 1点の場合は1.41倍、MDS2点は3.12倍、MDS3点は6.59、MDS4点では9.05倍でした。(MDS5点はサンプル数がほとんどいないため除外しています。)
MDSと高血圧の関連(ここ参照)を見てみると、MDSが1点増加するごとに高血圧の可能性が1.87倍になり、MDSが0~1点の人と比較して、3~5点の人では高血圧の可能性は8.31位倍でした。
さて、このマグネシウム枯渇スコア(MDS)の成り立ちを見てみると、飲酒は自分でコントロールする以外にはありませんが、半分の因子は医原性です。利尿薬とPPIの使用です。特にPPIは無駄に過剰に処方されているケースが非常に多いので注意が必要です。腎機能の低下は食事の間違いと医原性の両方でしょう。
様々なリスクを低下させるため、マグネシウムを毎日十分に摂り、お酒は控えめにして、PPIはできる限り避けましょう。
「Magnesium Depletion Score (MDS) Predicts Risk of Systemic Inflammation and Cardiovascular Mortality among US Adults」
「マグネシウム枯渇スコア(MDS)は米国成人の全身性炎症と心血管疾患による死亡リスクを予測する」(原文はここ)
利尿剤にしてもPPIにしても、
何らかの理由で処方されるの
でしょうけれど、
マグネシウム吸収阻害剤なのですね。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
利尿剤はマグネシウム排泄促進剤、PPIは吸収阻害剤ですね。
特にPPIの有害性は低マグネシウムだけでなく、非常に多様です。
PPIは手を出してはいけない薬です。