心血管代謝疾患とそれに伴う心血管イベントリスク

糖尿病、高血圧、脂質異常症は、心血管疾患イベントの発生率を高めると考えられています。しかし、それらの個別の心血管イベント発生リスクとの関連性はどうでしょうか?

今回の研究では、40歳以上の133,572人を対象に、心血管イベント発症との関連性を分析しました。

平均3.60年の追跡調査期間中に、3,632件の心血管イベントが記録されました。心血管イベントリスクは、糖尿病、高血圧、脂質異常症を併発していない参加者と比較して、糖尿病のみの人では1.58倍、高血圧のみの人では2.04倍のリスク増加でしたが、脂質異常症のみの人では0.97倍とリスク増加はありませんでした。

また、糖尿病、高血圧、脂質異常症のない参加者と比較して、糖尿病と高血圧があると2.67倍、、糖尿病と脂質異常症では1.57倍、高血圧と脂質異常症で2.12倍でした。糖尿病、高血圧、脂質異常症すべてを併発している人では3.06倍でした。

ただし、男女別で見ると、脂質異常症のみの男性は心血管イベントリスクが0.76倍と有意に低くなりました。

心血管代謝疾患に関連する心血管イベントのリスクを項目別に見てみましょう。(表は原文より改変)

HR(95%CI)
糖尿病関連
空腹時血糖値 ≥126mg/dL1.64 (1.51-1.78)
OGTT 2時間血糖値 ≥200mg/dL1.57 (1.45-1.69)
HbA1c ≥6.5%1.54 (1.42-1.66)
高血圧関連
収縮期血圧≥140mmHg1.89 (1.76-2.03)
拡張期血圧90mmHg以上1.74 (1.60-1.88)
脂質異常症関連
総コレステロール ≥240mg/dL1.18 (1.08-1.30)
LDLコレステロール ≥160mg/dL1.30 (1.17-1.44)
HDLコレステロール <40mg/dL1.00 (0.92-1.09)
中性脂肪 ≥200mg/dL1.10 (1.01-1.20)

糖尿病関連、高血圧関連では、どの項目もリスク増加に関連しています。脂質異常関連では、HDLコレステロールだけ関連がありませんでした。一応、LDLコレステロールも関連がありますが、糖尿病関連、高血圧関連の項目と比較すると、リスク増加は少ないですね。

次に、性別ごとの各疾患の治療に関連する心血管イベントのリスクを見てみましょう。

HR(95%CI)
男性
糖尿病、高血圧、脂質異常症なし1.00
糖尿病
 ベースラインで新たに診断された1.99 (1.64-2.40)
 治療あり(HbA1c <7.0%)2.77 (2.20-3.50)
 治療あり(HbA1c ≥7.0%)3.44 (2.81-4.22)
高血圧
 ベースラインで新たに診断された2.16 (1.83-2.56)
 治療あり(収縮期血圧/拡張期血圧<1​​40/90 mmHg)2.19 (1.76-2.71)
 治療あり(収縮期血圧/拡張期血圧 ≥140/90 mmHg)3.01 (2.52-3.59)
脂質異常症
 ベースラインで新たに診断された1.80 (1.53-2.13)
 治療あり(LDL <160 mg/dL)1.94 (1.52-2.46)
 治療あり(LDL ≥ 160 mg/dL)1.79 (1.01-3.15)
女性
糖尿病、高血圧、脂質異常症なし1.00
糖尿病
 ベースラインで新たに診断された1.94 (1.65-2.28)
 治療あり(HbA1c <7.0%)2.31 (1.86-2.86)
 治療あり(HbA1c ≥7.0%)3.01 (2.51-3.63)
高血圧
 ベースラインで新たに診断された2.02 (1.75-2.34)
 治療あり(収縮期血圧/拡張期血圧<1​​40/90 mmHg)1.94 (1.61-2.34)
 治療あり(収縮期血圧/拡張期血圧 ≥140/90 mmHg)2.92 (2.52-3.39)
脂質異常症
ベースラインで新たに診断された1.72 (1.50-1.97)
 治療あり(LDL <160 mg/dL)1.82 (1.48-2.23)
 治療あり(LDL ≥ 160 mg/dL)1.88 (1.29-2.72)

上の表は、糖尿病、高血圧、脂質異常症なしと比較して、治療効果で心血管イベントリスクがどれほどになるかを示しています。どの疾患でも、治療しても心血管イベントは高いままです。もちろん、治療効果で、数値的な改善がある方が、治療目標を達成していない人よりもリスクは低いですが、例えば、男性の糖尿病で、治療でHbA1cが7未満になっても、心血管イベントリスク2.77倍です。男性の高血圧でも血圧が140未満になっても2.19倍です。LDLコレステロールに関して言えば、男性で160mg/dL未満になっても1.94倍であり、160mg/dL以上の人のリスク1.79倍よりも高いくらいです。

つまり、糖尿病でも高血圧でも、高LDLコレステロールでも、治療によって治療目標を達成したとしても、依然として心血管イベントリスクはかなり高いままなのです。薬の効果は数値が下がるだけであり、リスクを下げる効果は非常に弱いと言えます。それは当然です。根本の原因に対処していないのですから。

そして、糖尿病も高血圧も、脂質異常症の中の低HDLおよび高中性脂肪も、そして心血管疾患も、すべて同じ原因、糖質過剰摂取で起きる糖質過剰症候群です。数値合わせではなく、根本原因を改善する食事の変更が必要でしょう。

「Individual and Combined Cardiometabolic Morbidities and the Subsequent Risk of Cardiovascular Events in Chinese Adults」

「中国成人における個別および複合的な心血管代謝疾患とそれに伴う心血管イベントリスク」(原文はここ

One thought on “心血管代謝疾患とそれに伴う心血管イベントリスク

  1. 「糖尿病でも高血圧でも、高LDLコレステロールでも、治療によって治療目標を達成したとしても、依然として心血管イベントリスクはかなり高いままなのです。」
    この事象も「パラドックス」にされそうですが、
    「薬の効果は数値が下がるだけであり、リスクを下げる効果は非常に弱いと言えます。」
    「糖尿病も高血圧も、脂質異常症の中の低HDLおよび高中性脂肪も、そして心血管疾患も、すべて同じ原因、糖質過剰摂取で起きる糖質過剰症候群です。数値合わせではなく、根本原因を改善する食事の変更が必要でしょう。」
    その通りだと思います。

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