多くの医師はLDLコレステロール増加は危険だ、と叫び続けています。でも、人間に必須のコレステロールが悪さをする元凶なのでしょうか?
今回の研究では、炎症のマーカーである高感度C反応性タンパク質(hsCRP)と心血管イベントの関連を調べています。
アングロ・スカンジナビア心臓アウトカム試験(ASCOT)レガシー研究の脂質低下群の参加者で、ベースライン時にhsCRPおよび総コレステロール値を測定された5294人が対象です。まずは、hsCRP値により、3つのグループに分けました。最低群はhsCRP: 0.01–1.51mg/L(中央値0.88)、中間群1.52–3.71mg/L(中央値(IQR)2.41)、最高群3.72–191.37mg/L (中央値6.41)です。
またCRP値により、hsCRP<2mg/L、hsCRP2–4.9mg/L、hsCRP≥5mg/Lの3つのグループに分けました。日本の単位にするには、数値を10分の1にします。つまり、hsCRP<0.2mg/dL、hsCRP0.2–0.49mg/dL、hsCRP≥0.5mg/dLです。(図は原文より、表は原文より改変)
モデル2、HR(95% CI) | |
---|---|
非致死性心筋梗塞および致死性冠動脈疾患 | |
最低 | 1.00 |
中間 | 1.20 (0.96–1.51) |
最高 | 1.32 (1.05–1.67) |
非致死性および致死性脳卒中 | |
最低 | 1.00 |
中間 | 0.90 (0.72–1.13) |
最高 | 1.02 (0.81–1.29) |
総冠動脈イベントと治療 | |
最低 | 1.00 |
中間 | 1.22 (1.05–1.41) |
最高 | 1.27 (1.09–1.47) |
総心血管イベント | |
最低 | 1.00 |
中間 | 1.09 (0.97–1.23) |
最高 | 1.22 (1.08–1.37) |
全死亡率 | |
最低 | 1.00 |
中間 | 1.01 (0.89–1.15) |
最高 | 1.25 (1.10–1.42) |
上の表はベースライン hsCRPを3つのグループに分けたときの結果との関連性です。hsCRP最高群は、最低群と比較して、非致死性心筋梗塞および致死性冠動脈疾患1.32倍、冠動脈イベントおよび治療の総数1.27倍、総心血管イベント1.22倍、全死亡率1.25倍でした。しかし、hsCRP値と脳卒中イベントとの関連性は認められませんでした。
上の図は上の表をグラフにしたものです。脳卒中以外は、CRPが高いほど様々な転帰の発生率が増加しているのがわかります。
下の表はベースラインのhsCRPおよび総コレステロールに関連した長期心血管イベントおよび死亡のリスクです。総コレステロールは5mmol/L(日本の単位で194mg/dL)未満と5mmol/L(194mg/dL)以上で分けました。
成果 | モデル2、HR(95% CI) |
---|---|
非致死性心筋梗塞および致死性冠動脈疾患 | |
hsCRP<2かつ総コレステロール<5 | 1.00 |
hsCRP<2かつ総コレステロール≥5 | 1.01 (0.74–1.38) |
hsCRP ≥2かつ総コレステロール<5 | 1.17 (0.83–1.66) |
hsCRP ≥2かつ総コレステロール≥5 | 1.27 (0.95–1.71) |
非致死性および致死性の脳卒中 | |
hsCRP<2かつ総コレステロール<5 | 1.00 |
hsCRP<2かつ総コレステロール≥5 | 0.84 (0.62–1.12) |
hsCRP ≥2かつ総コレステロール<5 | 1.08 (0.77–1.50) |
hsCRP ≥2かつ総コレステロール≥5 | 0.78 (0.59–1.05) |
総冠動脈イベントと治療 | |
hsCRP<2かつ総コレステロール<5 | 1.00 |
hsCRP<2かつ総コレステロール≥5 | 1.18 (0.96–1.46) |
hsCRP ≥2かつ総コレステロール<5 | 1.36 (1.07–1.71) |
hsCRP ≥2かつ総コレステロール≥5 | 1.32 (1.08–1.61) |
総心血管イベント | |
hsCRP<2かつ総コレステロール<5 | 1.00 |
hsCRP<2かつ総コレステロール≥5 | 0.95 (0.81–1.10) |
hsCRP ≥2かつ総コレステロール<5 | 1.23 (1.03–1.46) |
hsCRP ≥2かつ総コレステロール≥5 | 1.05 (0.91–1.22) |
全死亡率 | |
hsCRP<2かつ総コレステロール<5 | 1.00 |
hsCRP<2かつ総コレステロール≥5 | 0.84 (0.71–0.99) |
hsCRP ≥2かつ総コレステロール<5 | 1.16 (0.96–1.39) |
hsCRP ≥2かつ総コレステロール≥5 | 1.02? (1.07–1.19)(数値が間違っている可能性あり) |
総コレステロール値とhsCRP値の両方が高かった患者は、対照群と比較して、非致死性心筋梗塞および致死性冠動脈疾患のリスクが1.27でしたが有意ではありませんでした。総冠動脈イベントおよび治療のリスクは、総コレステロール値とhsCRP値の両方が高いと1.32倍でしたが、hsCRP値が高かったがコレステロール値が低い患者でも1.32倍と有意に高くなっていました。逆にhsCRP値が低くコレステロール値が高い患者では有意ではありませんでした。つまり、コレステロール値は心血管疾患に関連せず、炎症を示すCRP値の方が重要ということですね。hsCRP値が低い群で、リスクが有意に高くなっている結果はありませんでした。
hsCRP値が高い群でコレステロール値が低い患者で総心血管イベントリスクが1.23倍でした。
下の表はベースラインから6か月後のhsCRP および総コレステロールの変化に関連した長期心血管イベントおよび死亡のリスクです。
成果 | モデル3、HR(95% CI) |
---|---|
非致死性心筋梗塞および致死性冠動脈疾患 | |
hsCRP減少/コレステロール減少 | 1.00 |
hsCRP減少/コレステロール増加 | 0.98 (0.77–1.26) |
hsCRP増加/コレステロール減少 | 1.37 (0.98–1.91) |
hsCRP増加/コレステロール増加 | 1.48 (1.05–2.08) |
非致死性および致死性の脳卒中 | |
hsCRP減少/コレステロール減少 | 1.00 |
hsCRP減少/コレステロール増加 | 0.90 (0.70–1.16) |
hsCRP増加/コレステロール減少 | 1.01 (0.71–1.44) |
hsCRP増加/コレステロール増加 | 1.00 (0.69–1.45) |
総冠動脈イベントと治療 | |
hsCRP減少/コレステロール減少 | 1.00 |
hsCRP減少/コレステロール増加 | 1.09 (0.93–1.28) |
hsCRP増加/コレステロール減少 | 1.15 (0.92–1.45) |
hsCRP増加/コレステロール増加 | 1.32 (1.04–1.66) |
総心血管イベント | |
hsCRP減少/コレステロール減少 | 1.00 |
hsCRP減少/コレステロール増加 | 1.07 (0.95–1.21) |
hsCRP増加/コレステロール減少 | 1.07 (0.89–1.29) |
hsCRP増加/コレステロール増加 | 1.19 (0.99–1.44) |
全死亡率 | |
hsCRP減少/コレステロール減少 | 1.00 |
hsCRP減少/コレステロール増加 | 1.22 (1.07–1.39) |
hsCRP増加/コレステロール減少 | 1.08 (0.89–1.31) |
hsCRP増加/コレステロール増加 | 1.21 (0.99–1.48) |
hsCRPおよびコレステロールの両方が増加していた群では、非致死性心筋梗塞および致死性冠動脈疾患1.48倍、総冠動脈イベントと治療リスク1.32倍でした。ただ例外的に全死亡率はhsCRP減少でコレステロール増加の群で1.22倍になっていました。これはなぜかはよくわかりません。hsCRPが0.2mg/dL未満の低い状態で6か月後にコレステロール値が単独で上昇しても、様々な転帰のリスクの統計的に有意な上昇は示されませんでした。
いずれにしても、明らかな心血管疾患のない患者におけるベースラインのhsCRPがわずかに上昇している場合、さまざまな重要な転帰が予測されるます。しかも、そのほとんどがコレステロール値とは関連していないのです。hsCRPがわずかに上昇するような慢性炎症は肥満、インスリン抵抗性など代謝障害で起こることがほとんどでしょう。その根本原因は糖質過剰摂取です。
なぜか、多くの医師は心血管疾患に対してはコレステロール一辺倒です。他のことには盲目になる傾向が強いです。これは医学教育、医学洗脳の賜物です。
心血管疾患は糖質過剰症候群です。
「The relationship of baseline high-sensitivity C-reactive protein with incident cardiovascular events and all-cause mortality over 20 years」
「ベースラインの高感度C反応性タンパク質と20年間の心血管イベントおよび全死亡率との関係」(原文はここ)