以前の記事「食後の過度の眠気は糖質過剰摂取が原因」に対してコメントをいただきました。
清水先生、はじめまして。Xでの投稿から記事を読ませていただきました。
自分も食後の血糖値の推移や、血糖ピーク時に抗い難い異常な眠気が来るため、この記事の患者と非常に似た状況にあります。違う点は、私は糖質制限で対応しているという点です。
この耐糖能異常についてお聞きしたいことがありコメントさせていだきます。以下、お時間許せば読んでいただければ幸いです。
私が知りたいのは、なぜこのような耐糖能異常が起きているか、です。
根本原因は何なのか、それをどう調べればよいのか。基本的に3食とも糖質制限で体調が良いので他の解決策を知ることは急務ではないのですが、たまに糖質摂取イベントがあると体調、主に睡眠とメンタルが崩れ、血糖値に振り回されるのが不便で仕方がないです。
清水先生の「糖質過剰症候群」の書籍は数年前に読みました。江部先生、夏井先生、溝口先生と、糖質制限に関して詳しい先生方の書籍はほぼ読んでいます。今も、自分の体調を改善させるために書籍や論文を探しては試して、を続けています。
「今回の研究の良いところは、過度の眠気と、血糖値スパイクの関連を示したことです。よくマスコミや専門家が低血糖で眠くなる、なんてウソを言いますが、食後の眠気は低血糖になるもっと前の、ピークの血糖値のころにやってきます。」
自分もこれが当てはまります。ずっと、不思議でした。反応性低血糖症と思っており血糖値が下がるから眠気が出ると思っていたのに、明らかに血糖値が下がる前から眠気が出ていたからです。高インスリンによる症状なのか、他のホルモンが複雑に絡み合っているのか。
空腹時血糖は50-100くらいで、”一般的な”炭水化物ありの食事をとると血糖値が200まで上がります。その後、1時間〜1時間半ほどで70くらいまで落ちます。
私はビタミンDを高容量摂取するようにしてから、眠気の程度が以前よりマイルドになったように感じています。その事実(プラセボかもしれませんが、効果は続いています)からも、栄養素にヒントがないかと色々試しています。しかし遺伝的なものでこれ以上どうしようもないのであれば諦めもつきます。
この記事の患者や私のような耐糖能異常がある人が、糖質制限以外に打てる手として、なにかありますでしょうか。
まず面白いのは「耐糖能」という言葉です。一般的には必須の栄養素と考えられてしまっている炭水化物、糖質を摂取して、血糖値が大きく変動するとき、「耐糖能」が正常であるとか、異常である、という話をします。でも、本当に必須の栄養素を、国や専門家が推奨する量を摂っただけで、異常が起きるというのがおかしな話です。その推奨自体も間違っているのですが、そもそも「糖」に「耐える」「能力」が人間には必要なのでしょうか?必須の栄養素に耐える能力が必要なのでしょうか?エネルギー摂取量の50%前後の糖質を摂らされて、それに耐えられない体は病気の扱いなのです。
脂質を一度に摂りすぎても、体に害を与えるような代謝が大きく異常な変化はしませんし、タンパク質も同様です。しかし、糖質の摂りすぎは代謝が大きく乱れ、害を与えます。「耐脂質能」とか「耐タンパク質能」という言葉はありませんよね。
我々人類は進化の過程で、糖に耐える必要はありませんでした。糖質たっぷりの食材自体がほとんど存在しなかったからです。果物も現在のように糖質たっぷりではありませんでした。つまり、狩猟採集時代に手に入れられた程度の糖質量は人間には害を及ぼさないと考えられます。しかし、人類が定住して、穀物等を食べるようになり、様々な変化が起きたでしょう。そして、糖質の摂取量が爆発的に増加し、糖に耐える能力が必要になってきたわけです。
なぜ、糖質を摂ったときに耐糖能異常が起きるかと言えば、そもそも人類の初期設定では、糖に耐えるような状態には作られていないからです。摂らなくても良い糖質をたくさん摂るので、耐糖能異常になるのです。糖質をたくさん摂るようにはできていない体に、たくさんの糖質を入れるので耐糖能異常になるのです。
現在の食生活で、糖質がたっぷりと体に入ってきたときに、インスリンで何とかできる人もいれば、できない人もいます。そして、インスリンが大量に分泌されることも人類の進化の過程で起きていなかったので、大量のインスリンに耐える能力も昔は必要ありませんでした。だから、大量のインスリンに耐える状態には初期設定では作られていません。大量のインスリンは様々な病気、病態を起こします。体内時計の時計遺伝子は、正常な生理機能と日内パターンを維持するために密接に調整されていて、インスリン依存的に調節されています。インスリン抵抗性が様々な症状を起こすのは明らかでしょう。
あとは個人差の問題です。そして、インスリン感受性は変化します。以前は何とか出来ていたのに、インスリン抵抗性が高まり、何ともならないようなことが起きるようになることもあります。
「根本原因は何なのか、それをどう調べればよいのか」という質問ですが、根本原因は基本的に糖質過剰摂取だと私は考えています。恐らく間違いないでしょう。そして、それを調べる方法は、自分で糖質をゼロに近づけてみることしかありません。それで様々な症状が改善すれば、糖質が原因である可能性が非常に高いでしょう。さらに、もう一度糖質を摂ってみたときに、症状が再発するなら、確定です。
糖質は必須の栄養素ではありません。それを必須と思わせて、大量に摂取させて、利益を得ているのは誰かを考えましょう。
人類の進化の過程を考えると、恐らく、初期設定では、食後は眠くなるように作られているのではないかと推測します。狩猟採集生活では、得た食材を夜に食べて、その後は眠くなり眠る、という1日1食、食後は睡眠、という生活パターンだったのではないかと思います。
以前の記事「糖質制限と食後の眠気」で書いたように、オレキシンという神経伝達物質が睡眠、覚醒調節に大きな役割を担っていることがわかっています。オレキシンを合成するニューロンは視床下部にあります。この部位が睡眠/覚醒サイクル、エネルギー代謝、闘争/逃走、摂食などの中核的な生存行動を制御していることが示されています。通常、オレキシンは脳内の重要な部位に到達し、特に覚醒に関連する領域に作用します。オレキシンのレベルが低いと睡眠が開始され、非常に低いレベルで昏睡になります。
そして、食事をして、お腹が満たされると、レプチンによるオレキシン抑制が起きます。これは糖質制限をしている人でも起きます。しかし、糖質過剰摂取で、血糖値が非常に高くなると、オレキシンの低下が非常に強く起こり、過度の眠気が来るのであろうと考えています。糖質制限で起きる眠気と糖質過剰摂取で起きる眠気の違いは、恐らくその程度、強度の問題だと思います。
オレキシンはインスリン抵抗性とは負の相関を示し、インスリン感受性とは正の相関を示します。つまり、インスリン抵抗性が高いと、オレキシンが低下し、覚醒度が低下するのです。糖質制限で頭がハッキリしたり、肥満や糖尿病の脳はいつも霧がかかっている感じがするのも、オレキシンが関係していると思います。
上の図(ここ参照)はBMIとオレキシンおよびレプチンの関連を示しています。BMIが増加するにつれてレプチンは増加し、オレキシンは低下します。
上の図は、体重による分類別のオレキシンとレプチンの濃度です。正常体重ではオレキシンが高く、レプチンは低い状態です。しかし肥満だと逆転し、オレキシンが低く、レプチンが高くなります。
ただし、オレキシンが多い、少ないと言っても、その違いはわずかなので、どれほどの意味があるのかは不明です。
また、血中のオレキシン濃度の増減が問題なのか、眠気は脳の作用なので、脳脊髄液中のオレキシンの増減が問題なのかはわかりません。
オレキシンがインスリンと血糖値のどちらに反応して低下するのかを考えてみると、なんとも言えません。人間のデータがあまりないからです。しかし、ネズミさんでは、インスリン投与で低血糖を起こすと、オレキシンが活性化されます。(ここ参照)しかし、反復していると、慣れてしまい、オレキシンの活性化は減弱します。(ここ参照)
逆にネズミさんにオレキシンを投与すると、インスリン分泌が増加します。(ここ参照)ただ、慢性的なインスリン分泌増加で負のフィードバックがかかってしまうかもしれません。
いずれにしても、オレキシンは摂食と覚醒に大きな役割があります。それ以外の様々な作用も指摘されています。その重要なオレキシンの分泌の乱れを起こしている根本原因は恐らく糖質過剰摂取でしょう。
ビタミンD不足そのものが過度の眠気を起こすとは考えていませんが、ナルコレプシーではビタミンD欠乏が多いと言われています。(ここ参照)ビタミンDの25(OH)Dレベルが最も低いグループでは脱力発作を伴うナルコレプシーの発症の可能性は5.34倍でした。
なので、ビタミンDサプリが過度の眠気を和らげる可能性はあるかもしれませんし、ただのプラセボかもしれません。ビタミンDとオレキシンに何らかの関係があるのかもしれません。
また、ナルコレプシー関連で言えば、ナルコレプシー患者は肥満が多く、腹囲、つまり内臓脂肪が多い割合が多くなっています。(ここ参照)ナルコレプシー患者では一般人口と比較して、BMI30以上の肥満は2倍以上、男性102cm以上、女性88cm以上のレベル2の腹囲を示すこともほぼ2倍です。
また、ナルコレプシー患者はナルコレプシーではない人と比較して、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症の有病率が高く、BMI、腹囲、血中のインスリンの上昇と関連しているというメタアナリシスもあります。
つまり、ナルコレプシーでさえ糖質過剰摂取と大きく関連しているのです。
なんか、記事を書いているうちに、話がそれてしまっていますかね?長くなってしまいました。
さて、最後の文の「この記事の患者や私のような耐糖能異常がある人が、糖質制限以外に打てる手として、なにかありますでしょうか。」について私の考えを述べたいと思います。
根本原因に対処せずに、症状を改善したい場合は、足し算になります。引き算をせずに足し算をしてしまうと、恐らく背後でどんどん進行します。栄養素にヒントがある可能性はありますが、それも足し算です。
過度の日中の眠気は、医療では神経内科的な疾患として扱われることがあり、覚せい剤もどきの薬が処方されることがあります。肥満は過度の日中の眠気の発症および慢性化の主要な危険因子です。一方、体重減少は過度の日中の眠気の寛解と関連しています。
糖質過剰摂取が原因である食後の過度の眠気は、病気ではなく、もともと人間に備わっていない過剰な糖質への対応を無理に迫られて、代謝の歪みが起きている証拠です。
不快な症状はアラームです。アラームが鳴っているのに、アラームのスイッチを切ることは、さらなる問題を起こす可能性が高くなります。
「食後の過度の眠気は糖質過剰摂取が原因」の論文で書かれていたように、糖尿病に使う薬を使用することも一つの対処法です。私があまり好きではない、GLP-1受容体作動薬も恐らく効果があります。オレキシンはGLP-1と同じインクレチンファミリーです。(もしかしたら、一部のブレインフォグもGLP-1受容体作動薬で改善する可能性があるかも?)医療に頼りたければそれでも良いと思います。医療には頼りたくないけれでも、糖質摂取をしなければならないような状況もあるでしょう。そのときは少しでも血糖値上昇を抑制するように、食前に酢を飲むとか、ホエイプロテイン(もしかしたらBCAAサプリでも良いかも?)を飲むとか(インスリン分泌は増加しますが)、野菜から最初に摂取してみるとか、講演会で紹介したSPU(ヒラメ筋プッシュアップ)を食後長時間行ってみるとか、などの対処を試してみるのも一つでしょう。
私であれば、私は医療に頼りたくないので、根本原因に対処します。それでもダメな場合、または急性期であれば、医療に頼りたいと思います。食事も糖質以外で好きなものを好きな順番に食べたいので、あまり考えていません。
ダラダラと長い文章で申し訳ありません。答えになっていますでしょうか?
「Natural history of excessive daytime sleepiness: role of obesity, weight loss, depression, and sleep propensity」
「日中の過度の眠気の自然史:肥満、体重減少、うつ病、睡眠傾向の役割」(原文はここ)


「耐糖能」という言葉からは確かに
糖質の毒性を感じます。
また今まで何となく感じていた認知機能の改善も
「糖質制限で頭がハッキリしたり、肥満や糖尿病の脳はいつも霧がかかっている感じがするのも、オレキシンが関係していると思います。」
そして
「不快な症状はアラームです。アラームが鳴っているのに、アラームのスイッチを切ることは、さらなる問題を起こす可能性が高くなります。」
対症療法薬の怖さですね。
糖質制限モチベーションが上がります。
いつも有難うございます。
東京の和田と申します。先日のご講演ありがとうございました。本日の先生のコメント、「ホエイプロテイン…(インスリン分泌は増加します)」ですが、これは、実体験としてその通りと思います。4~5年前、粉末プロテインを毎日飲んだら、どんどんと体重が増えました。何が起こったのかよくわからなかったのですが、文献を調べたら(例えば下記)、なるほど、と思いました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15578035/
和田信博さん、コメントありがとうございます。
講演へのご参加もありがとうございました。
牛乳そのものも大量に飲めばインスリンは増加するでしょうし、
ホエイプロテインはインスリンが増加するでしょうね。
文献のご紹介ありがとうございました。