痛覚変調性疼痛の本質は脳のインスリン抵抗性ではないか? その1

日本ペインクリニック学会に参加してきましたが、あるセッションで「痛覚変調性疼痛」の専門家(?)の先生が痛覚変調性疼痛について熱く講演を行っていました。難しいメカニズムの仮説も説明していました。なるほど、とも思ったのですが、「ん?」とも思いました。結局根本原因に行きついていないというのが正直な感想です。

痛みにはいろいろあるのですが、近年提唱された概念として「痛覚変調性疼痛」というのがあります。以前は心因性疼痛とも言われていたものに近いのですが、「心」は実際には心臓にあるのではなく、脳にあるということを考えれば、心因性が脳の働き、変調に関わって起きることは容易に想像できます。そういう意味で考えれば、言葉遊びだけのことで、どちらも同じです。そして、実際には、根本原因を捉えていない病名だと思います。

痛覚変調性疼痛の定義は「侵害受容の変化によって生じる痛みであり、末梢の侵害受容器の活性化をひきおこす組織損傷またはそのおそれがある明白な証拠、あるいは、痛みをひきおこす体性感覚系の疾患や傷害の証拠、がないにもかかわらず生じる痛み」となっています。もう少しわかりやすく言えば、「明らかな組織損傷や神経の障害がないにも関わらず、脳や神経が過敏化を起こしたり、痛みを抑える仕組みが低下したりして、痛みを過敏に感じる状態」でしょう。

痛覚変調性疼痛がある人には、ベースに「過敏性」があると言われています。

では、この過敏性と糖質過剰摂取、インスリン抵抗性がどのようにかかわっているでしょう。

今回の研究では、体脂肪量が正常な人24人と体脂肪量が過剰な人20人(年齢の中央値 23.50 歳)を対象に、急性高血糖が疼痛感受性と疼痛抑制に及ぼす影響を調べました。

痛み刺激としては、針刺激、圧力刺激、熱刺激を与えています。また、痛み抑制効果を誘発するのに高い信頼性がある、両足を1分間冷水(2°C)に浸す刺激も与えました。

血糖値の測定では、6 人 (13.64%) が糖尿病予備軍であることが示されました。1 人が空腹時血糖異常、5 人が耐糖能異常 でした。

正常体脂肪群と比較して、体脂肪過多群はウエスト/ヒップ比、BMI、体脂肪指数、内臓脂肪が高く、相対的な握力は低くなりました。

75gのブドウ糖を飲んだ場合、痛みはどうなるでしょう。まず、ベースラインの血糖値は90mg/dLでしたが、1時間後の血糖値は138、2時間値は121mg/dLでした。そして、75gブドウ糖による高血糖が疼痛感受性、疼痛抑制、および安静時の自律神経機能に及ぼす影響は次の図のようになりました。TIME-0のテストは、飲料の摂取を開始してから20分後(TIME 1)と80分後(TIME 2)に再度実施されました。TIME-1とTIME-2の血糖値は、それぞれ飲料摂取後1時間と2時間の血糖値を表しています。(図は原文より)

上の図の○はコントロール、●が75gブドウ糖です。3Aは時間経過に伴う血糖値です。3Bは冷痛感受性で、両方で低下しましたが、ブドウ糖投与では低下が緩やかでした。3C および Dは圧痛抑制を示しています。ブドウ糖投与では抑制が弱くなりました。3Eは心拍数ですが、コントロールで低下しましたが、ブドウ糖投与では増加しました。3F~Hは自律神経機能への影響です。コントロールで安静時の全体的な自律神経活動 (SDNN) および副交感神経活動 (RMSSD および pNN50) の増加を示唆しました。ブドウ糖投与では変動が認められませんでした。

上の図は、過剰な体脂肪が疼痛感受性、疼痛抑制、および安静時の自律神経機能に及ぼす影響を示しています。○は正常脂肪、●が過剰脂肪です。4Aは血流遮断による痛みです。過剰脂肪群は5分間の静的血流遮断中に、より多くの疼痛を報告しました。4BおよびCは圧痛の抑制ですが、ブドウ糖摂取により、過剰脂肪群では圧痛抑制が弱まりました。4DおよびEは自律神経への影響ですが、ブドウ糖摂取により、過剰脂肪群では安静時の心拍数が増加し、安静時のpNN50(副交感神経活動)が減少しました。

他にも、過剰脂肪群は、正常脂肪群と比較して、単回針刺激による疼痛抑制と5回針刺激による疼痛抑制が弱くなりました。

まとめると、75gのブドウ糖を摂取すると、両足を1分間冷水に浸した際の自己申告による疼痛が増強され、圧痛閾値に対する冷水の疼痛抑制効果が弱まりました。さらに、ブドウ糖摂取は過剰体脂肪群においてのみ圧痛抑制を弱めました。さらに、血糖値に関わらず、過剰体脂肪群では足を冷水に浸した後の針刺激に対する疼痛抑制が弱く、5分間の静的血流遮断中に疼痛が強く報告されました。

つまり、高血糖は痛覚過敏を増強し、痛覚抑制を弱めるのです。さらに、過剰な脂肪は痛覚過敏を高め、痛覚抑制を弱めるのです。また、高血糖と過剰な脂肪は自律神経機能を抑制するのです。

このような状態が続けば、中枢感作というものが起き、脳が変化し、中枢(脳)自体が痛覚に過敏になり、痛覚抑制を弱める、という状態になっても不思議ではありません。

糖質過剰摂取では、頻回の血糖値スパイクを起こします。さらに、脳のインスリン抵抗性を起こします。それにより、活性酸素および酸化ストレスの増加、慢性炎症が増加し、末梢神経だけでなく、中枢神経にも影響を与えるでしょう。

脳のインスリン抵抗性によって、脳のどの領域にダメージがあるかはわかりません。海馬にダメージがあれば記憶、認知機能に悪影響があるでしょう。視床などの痛みの経路にダメージがあれば、痛みの増強や変調が起こり得るでしょう。脳の身体の部位に結びついた領域にダメージがあれば、その部位に特に影響があるでしょう。例えば、口腔灼熱痛症候群や持続性特発性顔面痛、持続性特発性歯痛は口腔領域の脳の部位にダメージがあると考えられます。

そして、女性は恐らく、特にホルモンの影響で、脳のインスリン抵抗性の影響を受けやすいのではないか?と推測します。加えて、幼少期のトラウマももしかしたら女性の方が多く、または影響を受けやすいのかもしれません。だから、性別による頻度の差が大きく出ると思います。

もちろん、今回の記事の仮説は私の妄想かもしれません。でも、他の研究も考え合わせると、間違いないのではないかと思っています。そうすると、痛覚変調性疼痛の治療は、当然、糖質制限ということになります。いかがでしょう?

「High Blood Glucose and Excess Body fat Enhance Pain Sensitivity and Weaken Pain Inhibition in Healthy Adults: A Single-blind Cross-over Randomized Controlled Trial」

「高血糖と過剰な体脂肪は健康な成人の痛覚過敏性を高め、痛覚抑制を弱める:単盲検クロスオーバー無作為化比較試験」(原文はここ

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