糖質過剰摂取は痩せていても肝臓の脂肪酸合成を大きく増加させる

中性脂肪値を増加させるのは、脂肪摂取によるものではありません。食後に一時的には中性脂肪値の上昇が認められますが、これはカイロミクロンが運んでいる食事からの脂肪であり、すぐに消失します。それ以外の中性脂肪、空腹時の中性脂肪値は肝臓が脂肪酸を合成し、VLDLによって運ばれる中性脂肪を測定しています。

痩せている人は体脂肪が少なく、肝臓の脂肪酸合成も少ないと思いがちですが、実際にはどうなのでしょうか?

砂糖とデンプンの比は60:40で、脂肪10%と炭水化物75%、脂肪30%と炭水化物55%の食事で肝臓の脂肪合成量の違いを調べました。12人の痩せた(標準)人と7人の肥満の人のデータです。やせた人のBMIの平均は23で、肥満の人の平均は34でした。(図は原文より)

上の図は縦軸が全脂肪酸の内、肝臓の脂肪酸合成のパーセンテージを表し、横軸に10%脂肪と30%脂肪の場合を並べています。左のグラフは一晩の絶食後の空腹時、右のグラフは食後(最後の食事の3~9時間後の最大値)です。

絶食時では10%脂肪群では27%、30%脂肪群ではたった1%で、なんと27倍の違いです。食後では10%脂肪群が41%、30%脂肪群が10%で4倍の違いがあります。

上の図は10%脂肪群での脂肪酸合成パターンです。左が空腹時でも肝臓の脂肪酸合成が25%を超える「一定」パターン、右が空腹時では低値となる「日中」パターンです。矢印は食事の時間を表しています。
「一定」パターンでは、1日中脂肪酸合成が高く、「日中」パターンでは午後9時~午前3時頃にピークを迎えています。

10%脂肪群では、19人中9人が空腹時中性脂肪値が150mg/dlを上回り、これらの9人の内8人は高脂肪酸合成の「一定」パターンでした。さらに、「一定」パターンを有する人における空腹時および24時間の中性脂肪値は、「日中」パターンを有する人の約2倍でした。(空腹時:197対108mg/dl 24時間平均:203対107mg/dl)

下の表は中性脂肪とHDLコレステロール、総コレステロールの一晩の絶食後の空腹時および24時間の間の3時間ごとの平均を示しています。

 中性脂肪HDLコレステロールコレステロール
 空腹時24時間空腹時24時間空腹時24時間
 mg / dlmg / dlmg / dl
10%脂肪      
痩せ139±52 138±61 37±10 37±10 159±15156±13
肥満183±101190±10137±10 35±7 177±25171±24
30%脂肪      
痩せ90±33108±4645±1544±14165±19163±14
肥満113±38129±4941±1138±10177±29168±29

空腹時でも24時間平均でも、10%脂肪群では30%脂肪群と比較して、中性脂肪は50~60%高値となり、HDLコレステロールは10~18%低値となりました。総コレステロールには有意差はありませんでした。痩せた人よりも肥満で中性脂肪値は高い傾向にありましたが、その差は統計的に有意ではありませんでした。 

 インスリングルコース
 空腹時食後24時間空腹時食後24時間
 μU/ml  mg/dl  
10%脂肪      
痩せ6±2126±56485±15584±5278±282254±28
肥満13±6241±130924±34085±7325±352411±84
30%脂肪      
痩せ6±193±29361±6683±6282±262237±112
肥満10±2169±51635±19286±4328±342410±124

上の表は空腹時、食後3時間の曲線下面積、24時間の曲線下面積です。グルコースは10%脂肪群と30%脂肪群で差がなく、痩せた人と肥満の人でも有意差が出ませんでした。しかし、インスリン値は痩せた人の方が肥満の人よりも有意に低値となり、10%脂肪群の方が30%脂肪群と比較すると有意に高値となりました。

10%脂肪の食事は糖質の多い食事です。炭水化物として75%です。一方30%脂肪の食事は炭水化物55%です。どちらも高糖質の食事ですが、これだけの割合の違いで肝臓の脂肪酸合成が大きく異なることがわかります。75%の糖質は中性脂肪を増加させ、HDLコレステロールを低下させます。

以前の記事「ApoCⅢ産生速度の増加が中性脂肪値を高くしているかもしれない」で書いたように、糖質を多く摂ると、アポリポタンパク質のApoCⅢが肝臓からのVLDL分泌を増加させ、さらにVLDLの消失する速度も低下させます。その分、中性脂肪が高くなります。

空腹時でも中性脂肪値が高い「一定」パターンは恐らくApoCⅢの増加しやすい人だと思われます。75%も糖質を摂取すると、食事に関わらずずっと肝臓が脂肪酸を合成し続けているので、空腹になっても中性脂肪は下がりません。しかしそれでも「日中」パターンの人もいるのです。ApoCⅢが増加しにくいタイプなのかもしれません。いずれにしても糖質が多くなればその分、体重に関わらず、中性脂肪値が増加することは確かです。

肝臓の脂肪酸合成は肥満と非肥満で大きな違いはありません。肥満だから脂肪合成が多いわけではないのです。脂肪酸合成は糖質摂取量が多く、脂質摂取量が少ないほど増加します。

糖質制限とLDLコレステロール上昇」などで示したように、中性脂肪値とHDLコレステロール値により、小さな危険なLDL(sdLDL)が優位になるかどうかが決まります。太っていないから大丈夫ではありません。

糖質制限をすると中性脂肪値が非常に低下します。

 

「Relationship between carbohydrate-induced hypertriglyceridemia and fatty acid synthesis in lean and obese subjects」

「痩身肥満者における炭水化物誘発高トリグリセリド血症と脂肪酸合成との関係」(原文はここ

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