小林麻央さんと感動ポルノ

以前の投稿で日本テレビの24時間テレビに対する違和感を書きました。そこで出てきた違和感は「感動ポルノ」と表現されています。「感動ポルノ」という言葉を使った、2014年12月に亡くなったコメディアン兼ジャーナリストのStella Young(ステラ・ヤング)氏のTEDでの講演を読んでみてください。

小林麻央さんが病気になってからブログを立ち上げました。このブログの目的は何かはわかりませんが、大変な反響があるようです。しかし、そのブログに対してのいろんな方のコメントは非常に違和感を感じます。24時間テレビで感じた違和感と同じ違和感です。つまり、感動ポルノと同種のものです。みなさん麻央さんのブログを読んだり、かつらを被ってくぼんだ目をした写真を見て、感動し、勇気づけられ、やる気を引き出されているようです。「自分の人生はうまく行っていないけれど、もっとひどい人だっているんだ」と思っているのです。「あんな大変な人もいるんだ」と思っているのです。そのようなコメントが何千件も寄せられているのです。もちろん、同じような病気になり、励ましあうようなコメントを載せている方もいますが、それ以外の人のコメントは実に軽々しく、逆に怖くなってきます。

「私も日々がんばろうという力をもらえました。」「麻央ちゃん、ありがとう。いつも元気をもらってます。」「わぁ~美味しそう。」「まおちゃんのフレンチトースト見たら食べたくなって、今日はいつもよりちょっとだけ早起きして作ってみました。」「麻央さんが幸せな気分になれて、私もとっても嬉しいです!」「麻央さん、いつも輝いていて、とっても素敵です。」「自分を 甘やかして 大いに 良いんですよ~」「ストレスを溜めない事が1番です」「大丈夫、治りますよ。」「まおちゃんから、言葉のお薬を頂きました。」「毎日祈ってます、麻央さんを治してください神様。」「がんばって下さい。私もがんばります。」「今を楽しみましょう!」「ホテルの朝食みたいです」「あなたは皆の希望」「麻央ちゃん、心の声言えて良かったね♪」「絶対!奇跡起こります!病は気から!ですよね!」「絶対大丈夫!麻央さん、奇跡を起こそう!!」

このようなコメントがずらり並びます。どう思いますか?「がんばってほしいな」「治って欲しいな」という気持ちはわかります。私も普通にそう思います。幼い子供たちのためにも。

しかし、病人が頑張っている姿を見て、力をもらったり、元気をもらったり、正直「?」という感じがします。典型的な感動ポルノです。もしそうであるなら、その方たちは毎日がん患者がいる病院に通えば良い。そうすればどんどん力や元気をもらえるはずですよね?でも、本当にその現場に行けば力や元気なんてもらえません。麻央さんのような年齢の方であったり、もっと小さな子供たちが病気と闘っている。それを見て、自分が元気になったなんて異常な心理でしょう。それをテレビやネットというフィルターを通すとそこに偽物の「感動」が生まれるんです。正直、がん専門の病院に勤務していた時はしんどかったです。心が動かないようにできる限りコントロールしていました。そうしないとこちらが落ち込んでしまいます。患者さんの中には明るく振舞っている方もいっぱいいらっしゃいます。でも、その頑張っている姿を見て、元気づけられたり、力をもらえたりなんて、軽々しくて思えない毎日でした。まして、「今を楽しみましょう!」なんて言えるはずもありません。「奇跡」もほとんど起こらないから「奇跡」です。「奇跡は起こる」と言った時点で、「99.99・・・%は無理だと思うけど、残りの0.00・・・%を信じよう!」と言っているようなものなんです。本人が使うのは問題ありませんが他人が言う「奇跡」という言葉が軽すぎます。

麻央さんの病院食は確かにちょっと豪華に見えますが、しかし「病院食」です。「おいしそー」と言っても「病院食」です。本当においしい食事は食事の見た目ではなく、2人の子供たちと一緒に食べられる食事なはずです。「ホテルの朝食みたい」と言っても「病院食」です。その病院食を見て「自分もフレンチトースト食べたくなりました!」なんて、どこまでも薄っぺらいコメントです。

「麻央さんが幸せな気分になれて・・・」「自分を甘やかして・・・」「ストレスを溜めないで・・・」赤の他人が無責任にいう言葉。本当は幸せであるわけではない状況で、少しでも幸せを感じたときにそれを見てうれしくなるという無神経さ。その裏では2人の幼い子供たちが、泣きたいときもお母さんに抱きついて泣けない状況があるのに。自分を甘やかすことは勝手にすればいいですが、幼い子供たちは一切甘えられない状況です。ストレス発散は必要ですが、幼い子供たちはまだ気持ちをうまく言葉にできないでしょうから、言葉にも出せないストレスを抱えています。そんなことは容易に想像できるのに非常に無責任なコメントの数々。

「祈ってます」という人の何人が毎日「神様」に祈っているのか?ドラマのセリフのようです。重みが全くないのです。

私は30代のときに親友をがんで亡くしました。その親友も医師でした。「がんばれ」なんて軽々しくて言えませんでした。だって、本人がすでに精一杯一生懸命に「がんばって」いるんです。それ以上に「がんばれ」とは言えません。まして、「大丈夫」「絶対治る」「奇跡は起こる」なんて言う言葉も絶対に言えませんでした。本人がそう信じて、本人が口にすることは非常に重要なことだと思います。でも、本人ではない人がその言葉を口にしてしまうと重みがぐんと低くなります。まして、赤の他人が言うならなおさらです。

みなさんのコメントは自分の今いる状況が麻央さんより良い、という幸せの再確認の言葉が目立ちます。障害者に感動する、感動ポルノと同じ図式です。反論する方はいっぱいいると思いますが、世の中に様々な人がいて、非常に大変な思いをされている方たちもいっぱいいるでしょう。その方たちの姿を見て、このコメントを書いている人は麻央さんのときと同じように感動し、元気をもらい、薄っぺらい言葉を投げかけるのでしょうか?大変な状況の人を見て、元気をもらうなんて、異常に感じませんか?自分のご近所さんががんになって、抗がん剤で髪の毛が抜けたのを見て、頑張って治療する姿を見て、元気が出るのですか?それとも「有名人」限定ですか?コメントを書く人の中には「麻央ちゃん」なんて「ちゃん」づけで書いている人もいますが、いつから友達になったのですか?

ただ、それを麻央さん側はわかっていて、利用していますが。もちろんいろいろな事情があるのですから、それを非難するつもりはありません。しかし、これだけ反響の大きいブログなので、正しい情報であって欲しいです。いろいろな影響があるでしょうし、疑問だらけの内容なので。

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コメント

  1. phoomom より:

    通りがかりの乳癌サバイバー現在抗ガン剤治療中です。

    私もネットニュースに上がってくる有名人の癌闘病記事やコメントにおける感動ポルノに、ウンザリさせられます。
    特に不愉快なのが、「同じ病気の人も励まされると思います」というコメントです。
    同じ病気を克服された方のブログを読んで、勉強になることはありますし、頑張ろうという思いになることもあります。けれど、目を背けたくなる辛い現実が書かれていることもあります。
    飲み込むのが辛い、歩けないなどの記事を読んで、どうやって勇気をもらったり、励まされるのでしょう。病気と無縁だから出来る無責任発言ですね。
    また、実際の治療では抗ガン剤も、先生が細かく状態を見ながら、副作用で苦しまないよう様々なお薬を処方して下さるおかげで、昔に比べると、とても楽に投与出来る時代になったというのに、テレビの再現VTRで未だ抗ガン剤治療で桶を持って吐いている映像を流したり、わざわざ大変な様にイメージ作りをしているのを見る度にウンザリします。
    私は感動ポルノに利用されないよう、静かに闘っていきます。

    最近ますます活発化している有名人さんのブログと、それを取り上げるメディアにウンザリしていてココに辿り着きました。

    長々と失礼しました。

    • Dr.Shimizu より:

      phoomomさん、コメントありがとうございます。
      情報発信と、その情報を受け取った方の反応と、さらにいつものことですがマスコミの対応は、ここ近年異常に感じています。
      しかし、私のブログを読んで、不快になったり、ウンザリされる方もきっといるだろうと思います。
      できる限り正しく、有益な情報を心掛けているつもりですが。難しい問題ですね。

      それにしても、最近の有名人の病気の告白がかなり目立つのは、何らかの目的があるのでしょうね?

  2. まゆみ より:

    以前幼い息子が病気でなくなったとき、周りの人の私に対する反応や態度、言動で一人一人の本当の人間性がいやというほど見えました。人間って、悪いことが起こるとその人の本性が見えますね。

    • Dr.Shimizu より:

      まゆみさん、コメントありがとうございます。
      あのブログに書き込みをしている人の言葉の軽さには、怖さを覚えてしまいます。
      言葉は悪いかもしれませんが、所詮「他人の不幸は蜜の味」なんだと思います。
      他人の不幸と比べて、自分のちっぽけな幸せを再確認しているのでしょう。比べることさえ、おかしなことんですが。

  3. まゆみ より:

    人間は動物より劣ってるなと思う時があります。情けない生き物ですね。

  4. ゆうこ より:

    このまえ、小林麻央さんよりランキングの低い芸能人のブログが
    アフィリエイト(広告収入)で月300万稼いでるという
    記事を読みました。(真偽のほどは不明ですが)

    そんな稼げたら誰だって必死で更新するよな~
    としらじらしく思いました。
    ブログ運営元のサイバーエージェントも
    大手ニュースサイトにねじこんだりして
    かなり強力にプロモーションしてるのがわかります。
    小林麻央さんのブログ、読んでて何も学ぶところがないんですけども。

    芸能人が病気を商売にするようになったのは
    逸見政孝さんのガン告白あたりから
    火がついたような気がします。
    死後に出版された家族の手記はベストセラーになりましたし。

    ネットが普及して、素人でスゴい人面白い人が
    じゃんじゃん出てくるようになって、
    相対的に芸能人の芸の価値が下がったから
    病気でもスキャンダルでも
    使えるものは使うしかないんじゃないですかね。

    • Dr.Shimizu より:

      ゆうこさん、コメントありがとうございます。
      彼女には彼女なりの事情があると思うのですが、
      それに反応する人間たちに現代の闇を感じます。

  5. まゆみ より:

    芸能人というのは私生活を切り売りして、稼がなくてはならない商売で、小林麻央さんのところも多大な借金が、逸見政孝さんのところも多大な家のローンが残ってましたから。本当はしたくもないことをして、それでもお金を稼がないといけないんだと思います。