前回の「その1」の続きです。今回は他の2つの論文について考えてみましょう。とは言っても、2つ目の論文は以前に「糖質を制限すると寿命が縮まる? 冗談のような研究」で書いたように、非常におかしな論文です。一流の医学雑誌と言われている「Lancet」に掲載されたので、それだけで騙される人もいるのかもしれませんが、世界中でブーイングが起きた論文です。詳しくは以前の記事を読んでいただきたいですが、この研究は比較している集団があまりにも炭水化物の量以外の因子が違い過ぎていますので、お話にならないです。(このツイッターの2つ目の図です。)
糖質制限食(ロカボ)に関して重要なエビデンス(論文)を3つご紹介します。きちんと知識があった上でやる分には問題ないと思うのですが、エビデンスとリスクを十分に理解した上で生活に取り入れて頂くべきだと思います。#究極の食事 pic.twitter.com/5mwb2wS4UQ
— 津川友介 (@yusuke_tsugawa) 2019年5月18日
しかも、全ての群のエネルギー摂取量は1600kcal前後です。これは「その1」で取り上げた研究のカロリー制限の食事と同じ程度のエネルギー摂取量です。カロリー制限食の研究でもないのに摂取エネルギー量が非常に少ないのには理由があります。この研究は食事に関するアンケートで行われているのです。つまり、参加者はまじめに食事に関して答えていないのです。データが全く信憑性がありません。そしてさらに、25年間にたった2回しか食事のアンケートを取っていません。まともに食事のアンケートに答えていないばかりか、10数年間全く食べるものが同じという前提での研究です。こんなレベルの低い研究でもLancetに載ってしまうのです。そして、そのことを十分わかった上で、「重要なエビデンス」と言っているのでしょうか。ランセット強し!
最後の図は副作用についてです。それは次の論文です。
「A low-carbohydrate, ketogenic diet versus a low-fat diet to treat obesity and hyperlipidemia: a randomized, controlled trial」
「肥満と高脂血症を治療するための低炭水化物のケトン食と低脂肪食の比較:無作為化比較試験」(原文はここ)
この研究の糖質制限食は1日20g以下の炭水化物に制限し、動物性食品は無制限です。その後は1週間に1日5gずつ炭水化物を増やして、体重を維持します。
低脂肪食は摂取エネルギーの30%未満の脂質を摂取し、計算された摂取エネルギー量よりも500〜1000 kcal少ない量を摂取しました。
実際の参加者の報告によると、1日の推定エネルギー摂取量は、糖質制限食群では1461kcal(完全にカロリー制限です!)、低脂肪食群では1502kcalでした。今回の研究でも参加者の平均体重は95kg超なので、どちらの群も無謀なほどのカロリー制限です。これも自己申告の食事報告なので、本当かどうかは怪しいですが。
糖質制限では1日当たり29.5gの炭水化物(1日の摂取エネルギーの8%)、97.9gのタンパク質(摂取エネルギーの26%)、および110.6gの脂肪(摂取エネルギーの68%)でした。 低脂肪食群は炭水化物197.6g(エネルギー摂取量の52%)、タンパク質70.5g(エネルギー摂取量の19%)、および脂肪48.9g(エネルギー摂取量の29%)でした。これが本当だとすると、こんな食事をずっと続けることは不可能です。
ツイッターでは「糖質制限食は低脂肪食と比較して副作用の頻度が多い」とコメントしています。私はその表の最後にひとつ付け加えました。
糖質制限食 | 低脂肪食 | p値 | |
便秘 | 68% | 35% | 0.001 |
下痢 | 23% | 7% | 0.001 |
頭痛 | 60% | 40% | 0.03 |
口臭 | 38% | 8% | 0.001 |
筋痙攣 | 35% | 7% | 0.001 |
筋力低下 | 25% | 8% | 0.01 |
発疹 | 13% | 0% | 0.006 |
この研究から途中で 逃げ出してしまった割合 | 24% | 43% | 0.02 |
副作用の頻度を比較する前に、まず低脂肪食群の参加者がドロップアウトしている割合が高すぎます。半分近くは逃げ出しているのです。それほど無理な設定です。そしてもし、最後まで低脂肪食群の人がもっと残っていたら、もっと副作用の割合は増加していた可能性は十分あるでしょう。しかし、糖質制限群はこんな無理なカロリー制限でありながら、4分の3が最後まで続けられたのです。それだけでもすごいことではないでしょうか?
この研究の糖質制限で副作用の頻度が高いのは当然です。糖質制限+カロリー制限というやってはいけないことをやってしまっているからです。つまり、この研究の副作用は全て糖質制限によるものと決めつけるのはおかしいのです。糖質制限にカロリー制限を併用すると、非常に多くの問題が起きるのは糖質制限を知っている人であればみなさん知っていることです。頭痛や筋力低下などはまさにそうです。
確かに便秘は糖質制限の最初にうちに経験する人がいます。しかし、そのうち改善します。また、他の副作用の多くは糖質制限+カロリー制限と、そして塩分制限によるものと思われます。(「糖質制限で倦怠感やエネルギー切れを感じる場合」参照)
無理な食事をさせて、副作用があるのは当たり前です。この研究の食事は江部先生が唱えるスーパー糖質制限食とは全く異なるものです。こんな食事は糖質制限でも何でもありません。
この研究をもって、糖質制限のリスクのエビデンスとするのはいかがなものでしょうか?糖質制限というものを知らない人がこのように間違いを犯してしまうのですね。非常に残念です。
そしてそういう間違いを喧伝する「専門家」が多数派であるという現実、ですね。
ねけさん、コメントありがとうございます。
特に有名な大学のブランドを使った「専門家」のいうことを鵜呑みにする人は多いですからね。