私のブログでは、人気記事の項目で、現在多くの人が読んでいる記事のランキングが表示されます。そこに先日から「フェリチンの疑問がかなり解けた! フェリチンは細胞が死んだときに上昇する! 鉄はやっぱり危険!」という2年近く前の記事がランキング上位に来て、ビックリしました。
なぜだろうと思っていたら、ときどき訪問させていただいている夏井先生のホームページに私の記事について書かれていました。「フェリチン鉄貯蔵説のパラダイムシフトが進行中」と書かれていましたが、ちょっと大げさな気がします。2年ほど前の記事なので、本当にパラダイムシフトが進行していたら、今頃もっと違うことになっているからで、あまり進行していないと思います。
今回は久しぶりに鉄について記事にしたいと思います。
現在でも私の考えは、「フェリチンは単に細胞死によって血清中に現れ、細胞死マーカーである」ということです。そして、フェリチンで鉄の貯蔵量を推測することは難しいと思っています。(「体内の貯蔵鉄を推定するためにフェリチンの測定はあまり意味がない」「フェリチンは鉄の貯蔵量を反映していない!」など参照)
フェリチンの高値と様々な疾患の関連があることも私は重要だと思います。今回は2型糖尿病との関連です。フェリチンの高値は糖尿病に利益をもたらすという論文は私の探した中では皆無です。(もしあれば教えてください)
糖質制限を推奨している身としては、糖尿病リスクとの関連がある鉄を手放しで推奨することは難しいと思っています。今回の研究はフェリチンや鉄の摂取と2型糖尿病のリスクを示したメタアナリシスです。(図は原文より)
上の図は前向き研究の最高レベルと最低レベルのフェリチン値で比較した2型糖尿病の発症のリスクを示しています。フェリチンが高いと糖尿病のリスクは1.66倍です。
上の図は横断研究の最高レベルと最低レベルのフェリチン値で比較した2型糖尿病の発症のリスクを示しています。フェリチンが高いと糖尿病のリスクは2.29倍です。
上の図はヘム鉄摂取量の最高レベルと最低レベルと糖尿病発症リスクを示しています。ヘム鉄摂取量が多いと糖尿病のリスクは1.31倍です。
この研究での女性のフェリチンが2型糖尿病のリスクを高くする境界の値はそれぞれ86、 107、122、134、150です。つまり100前後です。最低レベルの群は20以下です。20以下だと重度の鉄欠乏と考える人もいますが、糖尿病発症からは保護的であると考えられるのです。もちろん、これらの研究の食事は糖質過剰摂取状態です。糖質制限をした場合には不明です。
最初に書いたように、フェリチンは単に細胞死によって血清中に現れているので、フェリチンが高くなればその分どこかで大量の細胞が壊れていると考えられます。その際にフェリチンの中にあった鉄は、裸の状態でばらまかれ、悪さをする可能性が十分にあります。そのことが糖尿病発症に関連するとも考えられます。
このように書いていると、「鶏が先か卵が先か」の考えで、「鉄過剰、フェリチン増加が先で糖尿病」なのか「糖尿病が先でフェリチン増加」なのかという疑問が湧きます。糖尿病があれば、慢性炎症を起こしている可能性があるので、その炎症によりフェリチンが増加している可能性ももちろんあります。つまり、糖尿病でフェリチンが高いのは炎症によるものであり、実際には鉄は過剰になっていいないのでは?ということです。炎症で高くなっていることについては否定するつもりはありません。しかし、やはり鉄過剰とフェリチン増加の方が糖尿病リスクを上げていると私は考えます。
そのメカニズムは仮説の状態ですが、次回の記事で書きたいと思います。
この仮説が否定されて、糖尿病が先でフェリチン増加が証明できるのならば、鉄摂取をもっとお勧めできるのかもしれませんが、この先も恐らくお勧めはしないでしょう。
「Body iron stores and heme-iron intake in relation to risk of type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis」
「2型糖尿病のリスクに関連した体内鉄貯蔵とヘム鉄摂取:系統的レビューとメタアナリシス」(原文はここ)
はじめまして。
毎回Blogの記事を読ませていただき、健康管理の参考にさせていただいております
鉄の取得ですが、欧米では小麦粉に鉄が添付されています。
つまり、欧米の人達にとっては鉄の取得と小麦の取得に相関関係があると考えられます
小麦粉は糖質の塊ですので、欧米の人達の場合は
フェリチンが高い≒小麦食品の大量摂取=糖質過剰=糖尿病リスク上昇
みたいな擬似相関が発生しうると考えるのですが、いかがでしょうか。(ワッパーみたいな特大ハンバーガーだとヘム鉄も取れますし)
ご見解いただければ幸いです
@MgDependencyさん、コメントありがとうございます。
あくまで糖尿病は糖質過剰摂取が原因の「糖質過剰症候群」です。
おっしゃるように小麦を大量に摂取すれば糖質過剰になり、糖尿病になります。
ただ、それに鉄過剰が加わるとさらにリスクが高くなるのでは?という考えです。
では、日本ではどうかというと、次回記事にします。
いつも勉強させていただいてます。
鉄投与に関しては、フェリチン低くてもTIBC<300以下なら、
おそらくは炎症あるので鉄は不要というか禁忌と考えていますが、それでよろしいでしょうか
尾崎正時さん、コメントありがとうございます。
確かに炎症でTIBCは低下しますが、フェリチンは上昇するので、それでもなおフェリチンが低いのであれば
鉄は不足しているのではないでしょうか?炎症が強いときには鉄剤は良くないと思いますが。