太っていることや痩せていることは健康であれば個性の範疇ですが、病気になってしまった場合、その病気によっては太っていることや痩せていることは病態の一部です。だから、病院を受診した肥満の患者に対して「太っている」と指摘することは、医師であれば当然です。タバコを吸って呼吸器や循環器の症状があれば禁煙を、アルコールの飲みすぎで肝機能障害などがあれば摂取量の減少を提言するのは当然でしょう。それを守るかどうかは本人の問題ですが。しかし、多くの患者は肥満を指摘しても、なぜか笑ってごまかそうとします。それほど深刻になっていないのでしょう。しかし、病気ががんであれば、本当は深刻なはずです。
「なぜ太ってる」 女性患者に医師、発言内容認め謝罪 渋川医療センター
2019/08/21 上毛新聞より(記事はここ)
渋川医療センター(群馬県渋川市)の50代の男性医師が6月、がんの手術のため入院していた60代の女性患者に対して「なぜあなたは太っているんだ」などと発言していたことが20日までに、関係者やセンターへの取材で分かった。医師は発言内容を認めて謝罪した。
関係者によると、女性は6月上旬に手術を受けた。医師は数日後、入院していた女性に「家族は痩せているのになぜあなたは太っているんだ」「1、2週間食べなくても大丈夫」などと発言した。
という記事がありました。この会話の前後の内容がわからない状態なので、どのようにこの発言が出たのかわかりませんが、言葉の選択が良くないだけで、当然のことを言っていると思います。ただ「なぜ?」と言われても…。
がんの患者さんに食事や肥満についてしっかりと説明をして、がんにどう向き合うかをちゃんと説明すべきです。この医師は「1、2週間食べなくても大丈夫」という発言内容から、カロリー制限を勧めていると思います。つまり食べすぎだから太っているのだと言いたいのでしょう。
ただ痩せろと言っても患者はどのように痩せればいいかわかりません。多くの医師が恐らく勧めるであろう方法は、昔ながらのカロリー制限と運動でしょう。しかし、これでは痩せませんし、たとえ一時的に痩せても続けられません。運動では痩せることは無理でしょう。
痩せる方法を含めてアドバイスがなければ意味がありません。肥満の原因は糖質過剰摂取による高インスリン血症で、脂肪が蓄積したためなのです。だから痩せる方法は糖質制限です。
ある病院での話では、毎日の回診で、がんの患者が甘いおやつなどをいっぱい持っていても全く注意をされないそうです。糖質はがんのエサですし、肥満の関連のがんであっても、医師は食事に関してはほとんど何も言わない場合もあります。当然毎日の病院食も糖質過剰です。以前の記事「がん患者にあんみつを勧める栄養士」で書いたように、栄養士は「食べられるものをどんどん食べる」ように勧めるでしょう。
病院側は、お見舞いに来た人がどのような食べ物を持ってこようが無関心のことも少なくないでしょう。がん患者さんに糖質の食べ物の差し入れは禁止にすべきです。また、「糖質過剰症候群」で提言したように、病院内での砂糖や異性化糖を添加した飲食物も販売禁止にすべきです。
病院ではもちろんのこと、退院後の生活に対するアドバイスは不可欠です。食事は治療の一環であるはずです。
アメリカのがんの治療を行っている医師への調査では、回答者の大多数が肥満または過体重であることががん治療の結果に影響を及ぼすことを認識しており(93%)、患者の体重に対処することががん治療の標準的な部分であるべきことに同意していました(89%)。そして回答者の大半は、治療中に患者のBMI(72%)と身体活動レベル(78%)を日常的に評価しているのですが、患者の食事を評価する可能性は低い(58%)と報告しました。医師の食事に対する認識が低いのはアメリカも同じなのかもしれません。食事の誤りで太っているはずなのに。
回答者の46%が、体重管理のために過体重や肥満の患者を健康的な食事をするために栄養士に紹介することはほとんどまたはまったくないと報告し、日常的に患者を栄養士に紹介していると答えたのはわずか42%でした。体重管理および身体活動プログラムをがん患者の治療に組み込むことの障壁は、そのことに関する教育の欠如、時間の不足、体重管理および身体活動のための適切なプログラムの欠如、および生活習慣の変更に対する患者の抵抗などがあると考えられます。
しかし生理学的な事実からインスリンの大量分泌により脂肪の蓄積が起き、体重増加が起きていることは確かです。そのことさえ理解できれば、あとはそのインスリンの大量分泌を起こす食事を避ければ良いのです。つまり糖質の摂取を減らすことです。そんなに難しい内容ではありません。
もちろん、太っているかどうかだけが重要ではありません。以前の記事「太っているかどうかは関係ない インスリンが多いとがんで死ぬリスクが高い」で書いたように、肥満でなくてもインスリンが多く出るような状態は非常に危険です。
患者側の食事の変更に対する抵抗はあるでしょう。しかし、がんが相手であれば、多くの人は理解し、実行すると思います。それでも実行しないのであれば、それは本人の自由です。
以前の記事「肥満関連がんはより若い年齢層にシフトしている」で書いたように、肥満に関連するがんは増加し、しかも若い世代にシフトしてきています。がんは高齢者の病気ではありません。
「Oncologists’ Attitudes and Practice of Addressing Diet, Physical Activity, and Weight Management With Patients With Cancer: Findings of an ASCO Survey of the Oncology Workforce」
「がん患者の食事療法、身体活動、および体重管理に対処する腫瘍医の態度と実践:腫瘍学の労働力に関するASCO調査の結果」(原文はここ)