タンパク質分解についてコメントをいただきました。
テーマから少しズレると思いますが。
「タンパク質は食いだめできない」
と言われていますが、そこにどうしても疑問があります。
ヒトの体はエネルギー確保のために余剰栄養分を脂肪に変換して蓄積するシステムは厚いですよね。
古の人類が肉食中心であって狩猟生活が長かったとしても、そんなに確実に豊富に肉を食せたともなかなか考えにくい。肉食の野生動物を見ても分かるように。
では、食いだめの出来ないタンパク質、狩猟採集で肉体を酷使するであろうに、ちょっと肉にありつけなかったら自らの筋肉を分解して得ていたのでしょうか?
それこそ生命の危機に直結するのではないかと思うのです。
タンパク質を貯めることが出来ないとすれば、せめて筋肉の分解を防ぐシステムがあってしかるべきだと考えますが。
タンパク質を分解して脂質や糖質を得ることは出来ても、逆は出来ないのであれば、筋肉はどうやって保全されているのでしょう。グルカゴンやインスリンは、そういうことに関与しているということでしょうか。
タンパク質は貯めることはできないので、筋肉を分解するシステムはないのか?ということですが、一応アミノ酸プールというのがあり、そこにアミノ酸はある程度蓄えられていると考えられいます。またタンパク質を分解しても再利用もされます。
しかし、狩猟採集の時代に食べ物にありつけない場合、本当に筋肉を分解して、エネルギーを得たりするのでしょうか?
筋肉のタンパク質の分解によって生じるアミノ酸は,グルコースを解糖して得られるピルビン酸を筋肉の酵素によってアラニンに変えます。アラニンは血流で肝臓に運ばれてピルビン酸に戻され、糖新生でグルコースに変えられます。(グルコース‐アラニン回路)
コメントの答えになっているかどうかはわかりませんが、ちょっと古い研究ですが、次のようなものがあります。絶食状態の人にケトン体を注入すると血中のアラニンや尿中の窒素排泄量はどうなるのかを調べました。肥満ではない人と肥満の人で、非肥満の人は、12〜15時間の絶食後、肥満の人では12〜15時間の絶食後、3日間の絶食後、3~5.5週間の絶食後です。(図は原文より)
上の図は非肥満の人に3時間ケトン体を注入した時の血液の状態です。一番上の血中のケトン体はすぐに上昇し、その次のグルコース(血糖値)は低下しています。
上の図は非肥満の人の血中のアラニンの変化量です。一番下の実線がケトン体を注入した時ですが、注入時間が経過するに従いどんどん減少しています。
上の図は肥満の人にケトン体を注入した時のケトン体の変化量を示しています。ケトン体は6時間注入されました。もっとも上の破線が3~5.5週間の絶食後です。その下の破線が3日間の絶食後、下の実線が12~15時間の絶食後です。どれもケトン体は増加していますが、絶食時間が長いほどその増加量は大きくなっています。
上の図は血中のアラニンの変化量です。ケトン体を注入している間はアラニンは減少し、ちゅにゅうをやめるとベースラインに徐々に戻る感じになっています。3日間または3〜5.5週間絶食した人では、アラニンのレベルは、絶食前の濃度からすでに低下していましたが、ケトン注入後にさらに30〜48%低下しました。
上の図は下の棒グラフが尿中の窒素排泄量を示しています。アラニンの減少と同様にケトン体注入時には窒素排泄も低下しています。
このことから、ケトン体が多いと血中のアラニンが減少すると考えられます。グルコース‐アラニン回路を考えれば、アラニンの低下は、すなわち筋肉の分解の低下を意味するのではないかと考えられます。
もちろん飢餓の期間が長くなれば、全く筋肉が分解されない、ということはないでしょう。また、ケトン体が増加するまでの間は、緊急避難的に一時的に筋肉の分解もあるかもしれません。しかし、それであっても別に筋肉を分解しなくてもブドウ糖を作る材料は他にもいっぱいあります。特に糖質制限をしていれば、普段からケトン体は高めであり、糖新生の材料となるグリセロールも豊富でしょう。
ケトン体は筋肉の分解を抑制し、タンパク質節約効果があると考えられます。新たなタンパク質、アミノ酸の供給がなければ、できる限り分解を抑制し、必要なものはリサイクルし、アミノ酸プールから作り出し、大切な筋肉の分解はできる限りしないようにするシステムだと思われます。
ケトン体は一部の組織、臓器以外ではエネルギー源となります。特に大量のエネルギーを必要とする脳をはじめ、心臓も積極的にケトン体を利用できます。
一番最初の図を見る限り、ケトン体注入によりインスリンやグルカゴンは大きな変化はしていません。古い研究なのでその測定精度の問題もあるかもしれません。通常絶食であればインスリンは低下するでしょう。つまり、インスリンのタンパク質を作ったり、分解を抑制したりする効果は、ケトン体の濃度とはあまり関連していない可能性があります。よくわかりません。
食べられないときにどんどん筋肉が分解されていたとするならば、人類は現在存在していないでしょう。糖質制限は筋肉を分解しにくい食事とも考えられます。
「Effect of ketone infusions on amino acid and nitrogen metabolism in man」
「ヒトのアミノ酸および窒素代謝に対するケトン注入の効果」(原文はここ)
わざわざ記事にしていただいて恐縮です。
ちゃんと、それなりに、あるんですね。大事な筋肉を保全する仕組みが。そうでないと確かに生き残ることは難しかったはずですし。
ここにもケトン体が顔出すんですね。
ということは、改めてやっぱり糖質制限体質がヒト本来のあるべき姿なのではないかと思いますね。