人間の体の反応には、いろいろ意味があります。風邪をひいたときに熱が出るのも、体の中で菌やウイルスと闘っているため。お腹を壊したときに下痢をするのも、お腹の悪いものを排泄するため。これらの症状だけを止めるために何でも薬で抑えてしまっては、逆に治りが悪くなることもあります。
高齢者の血圧が高いのも、それにはそれで意味があるのです。重要な臓器に血液を送るために、動脈硬化の進んだ高齢者では高い血圧が必要なんです。もちろん、異常な高血圧は脳出血などをもたらし、それはそれで危険ですが、過度に正常値まで持っていくような治療は脳の機能に影響を与えます。
そのような観点の海外の報告を載せます。
認知機能障害を有する高齢者の降圧薬による過度の降圧が認知機能低下の進行と関係
認知機能障害を有する高齢者の降圧薬による過度の降圧は認知機能の低下を早めるとする研究結果が,イタリアのグループによりJAMA Intern Medの4月号に発表された。
認知症患者における血圧高値または積極的降圧の予後への影響は明らかではない。同グループは,認知症または軽度認知機能障害(MCI)を有する高齢患者172例(平均年齢79歳)を中央値で9カ月間追跡。外来血圧,自由行動下血圧,降圧薬の使用と,Mini-Mental State Examination(MMSE)スコアの変化で評価した追跡中の認知機能低下との関係を検討した。
117例が認知症,55例がMCIで,全体の69.8%が降圧薬による治療を受けていた。登録時の平均MMSEスコアは22.1だった。解析の結果,自由行動下の日中の収縮期血圧(SBP)が128mmHg以下の最低三分位群におけるMMSEスコアの平均変化は-2.8で,中三分位群(SBP 129〜144mmHg)の-0.7(P=0.002),最高三分位群(同145mmHg以上)の-0.7(P=0.003)と比べ認知機能の低下が有意に大きかった。この関係は,降圧薬による治療を受けている患者においてのみ有意であった。
年齢,登録時のMMSEスコア,血管併存症スコアを補正した多変量解析では,日中のSBP低値と降圧薬治療はいずれも独立して認知機能低下の大きさと関係していた。外来SBPは,MMSEスコアの変化との関係は弱かった。
Mossello E, et al. JAMA Intern Med 2015; 175: 578-585.