メジャーリーグで今シーズン大活躍をしていた大谷翔平選手が右肘の靭帯を損傷してしまいました。先日に記事「ボディービルダーの筋肉は見かけ倒しかもしれない」で予言していたような形になり、ちょっと気持ちが悪いです。
毎回試合を楽しみにしていただけに非常に残念です。
これで、ダルビッシュ選手や田中選手に続いて、メジャーに行った日本を代表するような3人の先発ピッチャーがことごとく肘を故障したことになってしまいました。
AGEたっぷりの筋肉や靭帯によって今回の故障が起きたとは、正直思ってはいませんが、全く関係がないとも言えません。日本の部活動は体を作るために白米をたくさん食べることを強要する指導者も昔から、そして今もいるからです。そして、水分補給には糖質たっぷりのスポーツドリンクをがぶ飲みです。
しかし、今回は食事ではなく別の面から、故障の原因を考えてみたいと思います。
まずは小学生などの子供の頃の野球について。小学生を指導する先生であったり、父親であったりする人は本当にボールの投げ方を知っているのでしょうか?私は知りません。しかし、子供と野球をしていました。子供とのキャッチボールは非常に楽しかったです。しかし、子供の肘にとって安全な投げ方を教えられていたわけではありません。そして、少年野球の指導者についても同じことが言えます。肘に負担のかからない投げ方を教えることができる指導者はどれぐらいの割合いるのでしょうか?
アメリカでの研究では、少年野球で、腕の痛みのためにピッチャーの約38%が少なくとも1試合を欠場し、34%が病因を受診するような十分に深刻な痛みを経験するそうです。
また、身長が2.5センチ増加すると、故障歴がある可能性の20%の増加と関連していて、時速16kmの球速の増加すると、故障歴がある可能性の12%の増加と関連しているそうです。
さらにアメリカでは1シーズンに複数のリーグで投げているピッチャーも49%もいるそうです。球数制限をしているように思われているアメリカでも実はちゃんと球数が数えられていない場合もかなりあるそうです。(ここを参照)常にピッチングをカウントしているのは実に44.3%だそうです。
過去10年間に肘の靭帯再建の手術は10倍増加しているそうです。
試合での疲労(試合の球数が多すぎる)、季節疲労(1シーズンでの球数が多すぎる)、または年中の疲労(適切な3~4ヶ月の投球しない期間を取らない)のいずれであっても、疲労による投球は過度のケガの主なリスク要因となります。実際、疲労の激しい運動選手は、肩と肘のケガをする可能性が36倍高くなるとのことです。
日本でも、最近ではやっと球数制限をするようになっているのかもしれませんが(実の現状は知りませんが)、その球数制限は練習中の球数も制限しているのでしょうか?恐らく、毎日の練習や試合の前のウォーミングアップ、ブルペンでの球数は全く考慮していないでしょう。また、実際は制限をしていないのでは?と思います。
下の表のように2016年の甲子園の高校野球では、一人のピッチャーが180球以上も投げることもありました。(ここの記事を参照)
投球数順位 | 利き手 | イニング | 投球数 |
---|---|---|---|
1 | R | 8.2 | 187 |
2 | R | 10 | 183 |
3 | L | 12 | 177 |
4 | R | 8.2 | 164 |
5 | L | 9 | 153 |
しかし、多くの高校野球のピッチャーは地方大会も投げています。あるピッチャーは、地方大会で13日間にわたって57回のイニング、760球を投げ、甲子園に出場を決めています。他の選手は甲子園で下の表のようなスケジュールで投げ続けました。
試合ラウンド | イニング | ピッチ | 休み日数 |
---|---|---|---|
1 | 9 | 131 | – |
2 | 9 | 132 | 4 |
3 | 9 | 125 | 0 |
4 | 5 | 96 | 1 |
5 | 9 | 130 | 0 |
これは虐待以外の何物でもないかもしれません。甲子園の高校野球は夏であれば非常に気温の高い炎天下で行われ、しかもエースと言われる一人の選手に対する負担だけが非常に大きい、教育という場面とは程遠いイベントです。若い選手の身体の心配は全くしているようには見えません。使い捨てのようです。少なくとも球数制限と、次の登板までの休みの期間を設ける必要があるでしょう。それができないのであれば、このような大会は止めるしかありません。
日本ではこのような虐待行為も精神論で称賛されてしまいます。必死に投げ切った選手をほめたたえます。しかし、もう根性論は止めにしなければなりません。日本のこのような昔ながらの変わらない考えが、あの「日大アメフト事件」にもつながっている気がします。勝負が優先され、選手のことは2の次、3の次。上級生は神様、強豪校のコーチや監督には何もものを言えない体制。ケガを理由に練習を休むとレギュラーを外されるという理不尽さ。痛みがあると言ったら、相手にされなくなるかもしれませんから、我慢をしてしまいます。我慢が美徳。すべてが変わらないとならないと思います。
全メジャーリーグ投手のおよそ10%が肘の靭帯再建を受けているそうです。一応球数制限を取り入れているアメリカですらその状態です。
アメリカの研究では関節の可動域も重要な要素のようです。メジャーリーグ6シーズンで、132人のピッチャーで、53の肩と28の肘の負傷が生じ、最も一般的な肘の負傷は肘の靭帯損傷でした。肘のケガのリスクは、肩の屈曲の1度の減少につき1.09倍、外転不足の1度の増加につき1.07倍、利き手ではない側に比べて5度以上の屈曲不足で2.83倍増加したそうです。その動きがどのようなものかは私にはわかりません。しかし、肘を故障しやすい投げ方は実際のところはありそうですが、それぞれの投げ方があるので、これが本当であれば、子供の頃から教えられる必要があります。
また、過度の筋トレももしかしたら悪影響がある可能性もあります。もっと速い球を投げる目的で筋肉を付けると、靭帯は筋肉のように強化できないため、筋力だけが増加し、靭帯に与える負荷が大きく増加してしまう可能性もあります。筋肉を効率よく増やすことは科学的にわかってきていても、投球動作での肘に靭帯を保護する効果的な筋トレはまだわかっていないと思います。そんな中、そのスポーツ本来の動きではない、別の動きによる筋肉の増強が、一時の輝きは与えるとしても、そのしわ寄せがどこかに来る可能性もあります。早くも輝きを失いつつあるダルビッシュ選手を見ていると、何となく筋トレの弊害を感じざるを得ません。
さらに、現在スポーツで当たり前に行われているアイシング。運動後に氷など冷たいもので関節などを冷やし、炎症を鎮めることが常識になっています。しかし、運動で軽微な組織の損傷が起こっていて、炎症はそれを修復する過程の一部です。アイシングは人間が本来備えている自己治癒力をできる限り少なくしたり遅らせたりする可能性すらあります。軽微な損傷とその修復を繰り返し、だんだんと強くなり、負荷が増強しても耐えられる体にしようとしているのですが、アイシングなどはそれをできる限り起きないようにするため、いつまでたっても負荷への耐性ができないのではないでしょうか?
大谷選手やダルビッシュ選手のような肘の故障を抱える予備軍は非常に多く存在しているはずです。野球というピッチャー一人に大きく依存している特殊なスポーツゆえ、過度の負担がかかります。
これを是正するためには、年間試合数の制限、球数制限、イニング制限、何球以上投げたら何日間は投球を禁ずるというルール作り、甲子園のような過酷な大会の中止、など抜本的な改革が必要でしょう。
さらにもっと考えるなら、ピッチャーというポジションの廃止が良いかもしれません。小学生中学生までは、バッターが9人順番に打つのと同様に、ピッチャーも順番に投げるのです。3人に投げたら、次は1塁手と交代するとか。または、投げるのはマシーン。球種とコースとスピードはこれまでのピッチャーが選択し、実際に投げるのはマシーンにするのです。全く面白くないスポーツになりそうですけど。張本さんに「野球を知らない人間が何を言っとるんじゃ!」と喝を入れられそうです。
我が意を得たりの思いです。
野球には興味ありませんが、野球は非常に偏った特殊なスポーツだと思います。
攻守18人のうち、瞬間的運動を除き、運動しているのはほぼ投手だけです。
しかも、投手の利き腕だけが酷使されます。
常々、1イニングごとに守備位置をローテーションするのがよいと思ってました。
ちなにみに、このような偏った特殊なスポーツに有能な人材が集中してしまうという別の問題もあります。
リュウさん、コメントありがとうございます。
賛同が得られてうれしいです。
本当にどうしてここまで野球に有能な人材が流れてしまうのか不思議です。