家族性高コレステロール血症から考える 高LDLコレステロールは心血管疾患の原因ではない その1

家族性高コレステロール血症(FH)という疾患は、遺伝的にコレステロール値が非常に高くなります。当院にいらっしゃった方の総コレステロール値は500を超え、LDLコレステロール値も400を超えています。

高LDLコレステロールは、FHにおける心血管疾患の主な原因として言われていますが、それは本当でしょうか?FHの人にはスタチンは必須なのでしょうか?コレステロール値を何としても下げる必要があるのでしょうか?

そのことを考えると、高LDLコレステロールと心血管疾患のリスクとの関係が見えてきます。

原因ということは因果関係があるということです。今回の場合、LDLコレステロールが高いことが原因で心血管疾患が起こる、という意味です。しかし、多くの研究が矛盾した結果を示しています。

確かに、FHは、LDL受容体をコードする遺伝子に問題があり、コレステロールの正常な代謝を妨げ、血中の高LDLコレステロールをもたらします。しかし、LDLコレステロールが大きく増加することが心血管疾患の原因であるという考えは、あくまで仮説です。

矛盾点をいくつか詳しく見ていきましょう。

1.アテローム性動脈硬化症の程度は LDLコレステロールに関連していない

心血管疾患の大きな原因のひとつはアテローム性動脈硬化症と考えられています。では、アテローム性動脈硬化症はLDLコレステロール値と関連があるのでしょうか?

以前の記事「LDLコレステロールは本当に動脈の血管内腔から血管内皮を通って、アテローム性動脈硬化を起こすのか? その11」で書いたように、急性冠症候群の人と慢性に経過している安定した冠動脈疾患の人では、総コレステロール、LDLコレステロール値は、2つのグループ間で有意に異ならないという研究があります。

また、FHまたは家族性複合型高脂血症の48人の患者を含む研究では、LDLコレステロールと超音波で調べたアテローム性動脈硬化症の程度との間に関連性は見られませんでした。

241人のFHの研究では、コレステロール低下治療を受けていても受けていなくても、LDLコレステロールと超音波で調べたアテローム性動脈硬化プラークの数との間に相関は見られませんでした。コレステロール低下治療を受けていないFHに関する同様の研究も同じ結果とでした。

つまり、アテローム性動脈硬化症とLDLコレステロール値との関連を否定する研究はいくつもあり、しかもFHの研究でも同様の結果なのです。

2.平均してFHの寿命は他の人とほぼ同じ

FHの人は早期の心血管疾患のリスクが高く、若くして死亡する印象があるかもしれません。実際はどうでしょうか?

60歳以前に急性心筋梗塞で死亡した患者の多くがFHであるため、FHの寿命は通常よりも短いという一般的な見方があります。実際に、FHの20~39歳の男女の冠動脈疾患による死亡率は、標準人口よりも約100倍高いという結果があります。この死亡率は非常に高いと思われますが、同じ年齢層の標準人口における死亡率は、男性で0.06%、女性で0.01%であったので、実際の死亡率は非常に低かったのです。 439人年の観察期間中、FHの20〜39歳では5人だけが冠動脈疾患で死亡し、334人年の観察期間中に1人の女性が死亡しただけでした。さらに、59歳以降での冠動脈疾患での死亡率は、FHでは血中の脂質の値が高いにもかかわらず一般の人と同じでした。

別の研究で1992年から2010年の間、FHの0~80歳の4688人を追跡調査したものでは、その間にFHの113人が死亡したのに対し、一般の人の死亡の予想人数は133人でした。脂質低下治療を受けていたのに死亡したFHの人と、生存している18歳以上FHの人では死亡率は有意差がありませんでした。つまり脂質低下治療によって死亡率が減少するとは考えにくいのです。

そして、早期の心血管疾患のない家系で、20歳以上の多くの健康なFHである人は、一般の人と同様の平均余命を持っていることがわかりました。

以前の記事「コレステロールを恐れ過ぎてはいけない LDLコレステロール値が低いほど死亡率が上がる!」でも書いたように、60歳以上の人ではLDLコレステロール値が低いほど死亡率が高く、LDLコレステロール値が高くなるほど死亡率が低くなるのです。

別の研究では、遺伝的に決定されたFHを有する3人の家族を時間の経過とともに追跡し、前の世代も合わせて合計412人を特定しました。これらのメンバーの冠動脈疾患での死亡率および全原因死亡率をオランダ全土の死亡率と比較しました。そうすると、なんと19世紀では、これらのFHの家族の死亡率は一般の人よりも顕著に低かったのです。その理由は、当時の最も一般的な死亡の原因は感染性の疾患です。高LDLコレステロールが感染から保護するという多くの証拠があるのです。

以前の記事「LDLコレステロール値が低いと、驚くほど発熱、敗血症および悪性腫瘍の発生リスクが高くなるかもしれない」でも書いたように、LDLコレステロール値が低い方が感染のリスクが高くなります。つまり、LDLコレステロール値が高いFHでは感染を起こしにくいと考えられるのです。このことはFHでは心血管疾患以外の死亡率が低いことを一部説明できます。

to be continued…

「Mortality over two centuries in large pedigree with familial hypercholesterolaemia: family tree mortality study」

「家族性高コレステロール血症を伴う大規模な家系の2世紀にわたる死亡率:家系図死亡率研究」(原文はここ