糖質制限とLDLコレステロール上昇 その7 運動による上昇①

以前の記事「糖質制限とLDLコレステロール上昇2 仮説」では、マラソンのような運動をしている場合、必要なエネルギーが非常に多く、そのエネルギーを運ぶために小さなVLDLをたくさん作り出すためにLDLが増加するのではないかということを書きました。

そのことを裏付けるような研究が出ました。

対象となったのは50km以上のウルトラマラソンや少なくともハーフ(113km)のトライアスロンのレースで上位10%に入る21〜45歳の男性エリートランナーです。10人は低炭水化物のグループ、10人は高炭水化物の食事のグループです。低炭水化物食の平均期間は9〜36ヶ月でした。平均したPFCバランスは高炭水化物群でP:14.9 F:26.7 C:56.5、低炭水化物群でP:19.4 F:69.5 C:10.4でした。

ではその血液データを見てみましょう(図は原文より、表は原文を改変)

 

上の図は左上が中性脂肪、右上が総コレステロール、中左がHDLコレステロール、中右がLDLコレステロール、下左は中性脂肪/HDLコレステロール比、下右は総コレステロール/HDLコレステロール比を表し、●が高炭水化物群、〇が低炭水化物群です。平均した数値が下の表です。

コレステロールと脂質(平均)

高炭水化物低炭水化物
総コレステロール(mg / dL)169278
直接測定したLDLコレステロール(mg / dL)88161
計算されたLDLコレステロール(mg / dL)91163
HDLコレステロール(mg / dL)64102
総コレステロール/HDLコレステロール比2.742.81
中性脂肪(mg / dL)7063
中性脂肪/HDLコレステロール比1.150.67
血糖(mg / dL)9596
インスリン(pmol / L)10.48.1
高炭水化物群と比較して低炭水化物群のアスリートは、総コレステロールで65%、計算されたLDLコレステロールで79%、直接測定したLDLコレステロールで83%、HDLコレステロールで60%高くなりました。中性脂肪/HDLコレステロール比は低炭水化物群の方が44%低下しました。中性脂肪/HDLコレステロール比はLDLの大きさと関連しており、心血管疾患の最も良い指標と考えられていて、その比が小さいほど良いのです。(「糖質制限とLDLコレステロール上昇3 脂質をもっと食べるべき?(人体実験)」など参照)
血糖値とインスリン値は両群で有意差は無かったのですが、空腹時のインスリン値が高炭水化物群で10以上というのはちょっと高めのような気がします。
次の表はリポタンパク質を細かく見たものです。

HDL、LDLおよびVLDLのサイズおよび粒子数およびサブ画分の濃度(平均)

高炭水化物低炭水化物
リポタンパク質インスリン抵抗性指標26.75.8
HDLサイズ(nm)9.5110.2
全HDL粒子(nmol / L)3437
大きなHDL粒子(nmol / L)8.114.8
中程度のHDL粒子(nmol / L)12.98.3
小さなHDL粒子(nmol / L)13.014.3
LDL粒径(nm)20.9921.47
全LDL粒子(nmol / L)8931363
大きなLDL粒子(nmol / L)4561026
中程度のLDL粒子(nmol / L)73176
小さなLDL粒子(nmol / L)363161
VLDL粒子サイズ(nm)43.6538.2
全VLDL粒子(nmol / L)4838
大きなVLDL粒子(nmol / L)1.30.6
中程度のVLDL粒子(nmol / L)13.64.1
小さなVLDL粒子(nmol / L)3333

 

(グラフの●は高炭水化物群、○は低炭水化物群です。上左はVLDL粒子サイズ、上右が大きなVLDLの粒子数、中左はLDL粒子サイズ、中右が小さなLDLの粒子数、下左はHDL粒子サイズ、下右が大きなHDLの粒子数です。)

表の一番上に「リポタンパク質インスリン抵抗性指標」という聞きなれない言葉が出てきていますが、リポタンパク質の大きさや粒子数を測定して、それを点数化して、インスリン抵抗性の指標にしようというものです。下の図のLP-IRScoreというのがリポタンパク質インスリン抵抗性指標です。LP-IRScoreが高くなるほど縦軸のインスリン抵抗性が高くなっているのがわかります。(詳しくはこの論文などを読んでください。)

 

 

つまり、リポタンパク質インスリン抵抗性指標も低いほどインスリン抵抗性が低いことになります。低炭水化物群ではかなりリポタンパク質インスリン抵抗性指標が小さな値なので、インスリン抵抗性はかなり低いことがわかります。

また、高炭水化物群と比較して低炭水化物群では、HDLの大きさは大きくなり大きなHDL粒子が非常に増加しています。(HDL粒子の大きさは大きいのが良いのか小さいのが良いのかは依然議論がありますが、この研究では大きい方が良いと考えていて、最近は大きい方が良いと考える方が多いかもしれません)

LDLは全LDL粒子数は増加し、その中で大きなLDLがかなり増加しています。小さなLDL(sdLDL)は有意差は認めませんでしたが、かなり少なくなっています。グラフの中右を見てみると、低炭水化物群は2人を除いて、非常に小さなLDLが少ないのがわかります。小さなLDLは酸化しやすく、心血管疾患と強く関連していると考えられています。一方大きなふわふわしたLDLは俗にいう「悪玉」ではありません。非常に望ましい状態です。

VLDLは粒子サイズが小さくなり、大きなVLDLが少なくなっています。大きなVLDLにはアポタンパクのApoC-3が増加し組織に中性脂肪を届けられず、血中に長く存在することにより、レムナントコレステロールを増加させます。一方小さなVLDLは大きなLDLの元になります。これらの状態も非常に望ましい状態と考えられます。

つまり、低炭水化物群のアスリートは確かにLDLコレステロール値は大きく上昇します。しかし、リポタンパク質などの状態を見てみると非常に良い方向の変化になっているのです。

ただ単にLDLコレステロール値でしか判断している人では、不健康な状態になっていると考えてしまいますが、実際には非常に健康的な状態であると考えます。

 

つづく・・・

 

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