家族性高コレステロール血症から考える 高LDLコレステロールは心血管疾患の原因ではない その4 スタチンはアテローム性動脈硬化症を改善しない

以前の記事「家族性高コレステロール血症から考える 高LDLコレステロールは心血管疾患の原因ではない その1」「その2」「その3」で、LDLコレステロール値が高いことは心血管疾患の原因ではないことを家族性高コレステロール血症から考察し、書きました。

今回は有名なENHANCE試験です。

家族性高コレステロール血症の患者720人にシンバスタチン(リポバス)80 mgにプラセボまたはエゼチミブ(ゼチーア)10 mgを併用した治療を24カ月実施しました。

そして、頸動脈内膜中膜複合体厚(IMT)と大腿動脈の内膜中膜複合体厚の測定を行っています。結果は次のようです。(図は原文より)

 

上の図はAがLDLコレステロール、BがHDLコレステロール、Cが総コレステロール、Dが中性脂肪です。縦軸は変化の割合です。

シンバスタチンだけ(つまりシンバスタチン+プラセボ)であっても、LDLコレステロールは40%程度低下しています。素晴らしい効果です。シンバスタチン+エゼチミブ群ではさらにLDLコレステロールは低下し、60%程度の低下を認めています。これまた素晴らしい。

HDLコレステロールはプラセボ群もエゼチミブ群も10%程度の上昇です。総コレステロールは割合は違いますが、LDLコレステロールと同じような変化です。

中性脂肪はプラセボ群で25%程度の低下、エゼチミブ群で30%程度の低下です。

どれも素晴らしい変化です。

では、IMTはどうなったでしょう?

 

あらら…。どちらの群も改善しないばかりか、やや右肩上がりにも見えます。

 

上の図はベースラインから24か月後の変化の表です。黄色のペンで示した上がIMTの最大のところです。下の黄色いのはIMTと大腿動脈の内膜中膜複合体厚の平均です。

どちらもベースラインよりわずかですが増加しています。

つまり、スタチンだけでも、スタチンにエゼチミブ(ゼチーア)を併用しても、コレステロールの数字は良くなりますが、効果は無いばかりか、アテローム性動脈硬化症の進行を止めることができていません。

ちなみにこの試験中にシンバスタチンのみのプラセボ群の7人の患者で、心血管系の原因による死亡1例、非致死性心筋梗塞2例、非致死的脳卒中1例、冠動脈再建術5例を認め、エゼチミブ併用療法群では10人の患者で、心臓血管の原因による死亡2例、非致死的な心筋梗塞3例、非致死的な脳卒中1例、冠動脈再建術6例を認めています。スタチンの効果はどうしたのでしょうか?

家族性高コレステロール血症の人は、LDLコレステロールの数字合わせのためにスタチンを投与されていると考えられます。数字が低下すると医師も患者も何となく良いことをしている感じがしますもんね。

家族性高コレステロール血症の人に本当にスタチンは投与して良いのでしょうか?それは次回に。

 

「Simvastatin with or without Ezetimibe in Familial Hypercholesterolemia」

「家族性高コレステロール血症におけるエゼチミブ有りまたは無しのシンバスタチン」(原文はここ

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